こんにちは!

薬丸岳さんの新刊「罪の境界」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

めったに単行本を買うことはないのですが、大好きな作家さんの新刊ということで、予約して買いました!

ただ…サイン本がけっこう出回ってるので、サイン本欲しかった…(涙) 


こんな人にオススメ

・社会派ミステリーが好きな人

・重めのミステリーが好きな人

・薬丸岳さんのファンの人 


「罪の境界」あらすじ

無差別通り魔事件の加害者と被害者。
決して交わるはずのなかった人生が交錯した時、慟哭の真実が明らかになる感動長編ミステリー。

「約束は守った……伝えてほしい……」
それが、無差別通り魔事件の被害者となった飯山晃弘の最期の言葉だった。
自らも重症を負った明香里だったが、身代わりとなって死んでしまった飯山の言葉を伝えるために、彼の人生を辿り始める。
この言葉は誰に向けたものだったのか、約束とは何なのか。

出版社より引用


著者・編集担当者のコメント

著者のコメントはこちら!

今まで犯罪にまつわる作品をいくつも書いてきましたが、今回は初めて犯罪被害者自身を軸にした物語になります。
主人公の女性は見ず知らずの男が起こした通り魔事件の被害に遭います。
理不尽な犯罪によって幸せな生活を壊され、苦しみと絶望に突き落とされながらも、必死に再生しようとする人間の強さを描きたいと思います。

徳島新聞社のインタビューより引用

編集担当者のコメントはこちら!

加害者と被害者。犯罪のその先にある彼らの人生。
犯罪をめぐるたくさんのミステリーを書いてきた薬丸岳さん。
今作は、犯罪そのものではなく、ニュースなどでは決して報道されない、犯罪が起きた後の物語です。
加害者や被害者、そしてその家族は、どう生きていくかが描かれています。
「人を絶望に叩き落とすのは人ですが、人を絶望から救うのも人」。
執筆前の打ち合わせの際に、著者が発した言葉です。
彼らの人生に寄り添いながら、その希望を一緒に探して頂けたら嬉しいです。

出版社より引用


この本のテーマ

「被害者の願い」と「加害者の望み」

この物語の主軸となっているのは、通り魔事件の被害者である浜村明香里ですが、加害者である小野寺圭一についても、彼に興味を持った溝口省吾という記者によって、生い立ちや事件を起こした背景などが、徐々に明らかになっていきます。

明香里は、自分の身代わりになって死んでしまった飯山晃弘の最期の言葉の意味を探しながら、必死に前を向いて生きていこうとします。

また、記者の省吾は、自分自身の生い立ちが加害者のものと似ていることもあり、加害者が何を望んで事件を起こしたのか、その背景にあるものとは何なのかを追求していきます。

明香里やその家族・恋人の視点から語られるパートと、圭一と省吾の視点から語られるパートが交互に繰り返されていく中で、真実がだんだん明らかになっていきます。


被害者の苦悩

明香里は事件によって生死をさまよい、身体にも心にも深い傷を負ってしまいます。

治療とリハビリを続けてなんとか日常生活を送れるようにはなりましたが、もちろんすぐに身体も心も元気になるわけはありません。

自暴自棄になってしまったり、心配してくれている家族や恋人ともそれまでと同じように接することができなくなったり、PTSDに悩まされたりと、たくさん苦悩する場面が描かれています。

このようなひどい事件に巻き込まれたら、とてもじゃないけど、普通の精神状態ではいられないのだろうということが伝わってきます。

加害者の不満

ネタバレになるので、あまり詳しくは書けませんが、加害者は社会に対する不満、親への不満を強く持っています。

底辺でしか生きられない宿命で、どんなにあがいても死ぬまでそこから這い上がれないだろうという絶望感を抱えています。

加害者の圭一の生い立ちが壮絶なものであり、事件に深く関わっていることが描かれています。


心に残ったフレーズ 

心に残ったフレーズを2つ紹介します!

たとえ一時でも、たとえひとりでも、自分の人生の中で優しくしてくれた人がいれば、その記憶がわずかでも残っていれば、自分や他者を傷つけるのを思い留まれるのではないかと願っている。

p310 明香里の言葉

このような趣旨のセリフを他の本でも聞いたことがありますが、これは本当にそうですよね。

家族でも友達でも、近所の人でも、誰かひとりでも優しく接してくれて、自分の味方がいてくれるということは、本当に心強いです。


「人生には、絶対に覚えているべきことと、早く忘れてしまったほうがいいことがあると思うんだ。」

p418 陣内の言葉

明香里みたいなひどい事件の被害者に対して、軽々しく「忘れた方がいい」とは言えませんが、負の感情が出てくるものは忘れたり手放した方がいいと聞きますよね。

なかなか難しいことではありますが…。

最後の方に、たくさん心に残る言葉が出てきますが、ネタバレになると思うので、やめておきます…。


感想(ネタバレなし)

少し前に、この作品の前に出された「刑事弁護人」を読んで、やっぱり薬丸岳さん好きだわーと思ったばかりだったのですが、この作品の方がさらに好きかもしれません。

薬丸さんの作品には、被害者の家族からの視点で書かれた作品はありますが、被害者自身を軸とした作品は意外にも初めてということですね。

被害者の明香里の苦しみが伝わってきて、辛かったですね…。

こんなひどい事件に巻き込まれた被害者の苦しみや怒りは、私などが想像できるものではないですが、この物語の明香里のようになってしまっても当然だろうな、と思いました。

ひどいPTSDに悩まされて、一生その苦しみから抜け出せないこともあるのだろうな、と。

この物語では、明香里には支えてくれる家族も恋人もいて、自分の身代わりになって死んでしまった晃弘から受け取った言葉の意味を探すという目的もあって、なんとか前を向いていこうという展開になったけど、実際にはそういうケースばかりではないのだろう、とも思います。

明香里は強かったですね。

自分の身代わりとしてしまった晃弘への償いの心が、彼女を突き動かしたのでしょうね。

晃弘の残した言葉の意味がわかって、誰に向けて言った言葉だったのかわかって、本当によかったと思います。

薬丸さんの作品を読んでいると、加害者にもひどい生い立ちや背景があったりして、どうしても加害者側に同情してしまいそうになるのですが、何の関わりもない人に矛先を向けるなんて、誰がどう考えても許されることではないですよね。

最近あった某事件でも、加害者の生い立ちに同情して、加害者を崇拝するような動きが見られたということがありましたよね。

どんなに生い立ちや境遇がひどいものであっても、それに同情することと、その怒りを人に向けることとは、きっちり切り離して考えないといけないと思います。

「罪の境界」というタイトルだけを見ると、どういうことを意味しているのか、あまり想像がつかなかったのですが、読み終えて「なるほど、そういう意味だったのか…」と、その言葉の重さがずしーんとくるものがありました。

タイトルが秀逸です。

薬丸さんは常に「性善説」に立っている、というようなレビューを読んだことがあるのですが、私はきっとそうだから薬丸作品が好きなのかなぁって思うんですよね。

極悪人が出てきたり胸糞悪くなるようなミステリーも嫌いじゃないけど、薬丸作品には「救い」や「赦し」があって、重い話ではあるけれど、読後感は悪くないというか…。

薬丸さんも「自分がこうなったらいいなと思うことを書いている」みたいなことを確かおっしゃってた気がするので、どこか優しさを感じる作品が多いのかな、と思います。

「小説幻冬」12月号に、「罪の境界」についての薬丸さんのインタビューが掲載されていて読んだのですが、この作品は、2018年の東海道新幹線無差別殺傷事件にインスパイアされたようです。

実際に起きた事件がきっかけとなって、作品を書くことが多いらしいのですが、こういうシリアスな犯罪ものの作品は、実は書きたくない、と薬丸さんが本音を漏らしています(笑)

いやいや、ずっと書き続けて下さい!薬丸さん!って、思わず叫びたくなりました。



著者紹介

1969年兵庫県明石市生まれ。駒澤大学高等学校卒業。2005年、『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。連続ドラマ化された刑事・夏目信人シリーズ、『友罪』『ガーディアン』『告解』など多数の作品を意欲的に発表している。


出版社より引用



感想(ネタバレあり)

ここからはネタバレありの感想を書いていきますので、まだ読んでいない方は注意してください!!

 

本の帯に、「加害者の望みは、自分を捨てた母親を探し出すこと」と、若干ネタバレ気味のことが書いてあるので、隠す必要はないかとも思ったのですが、一応ここまでは伏せておきました。

最初は、母親を探し出すというよりは、「母親を殺すのが目標だ」と圭一は言っていたのですが…。

どんなに虐待されたり、どんなに放っておかれた過去があっても、母親に会いたいという気持ちがあったんでしょうか。

殺してやりたいと思ったり、裁判で自分が責められる姿を見せてやりたいと思う気持ちの裏には、母親に会いたいという気持ちがあったのかな。

裁判が終わった後も、母親に面会に来てほしいと思っている所を見ると、そうなのかもしれないですね。

 

最近、毒親関連の本を読むことが多いのですが、毒親に育てられた子供はあまり親に会いたいとは思ってないケースが多いのかな、と思ってたんですよね。

ただ、それは母と娘の場合についてのことなので、母と息子の場合だと、また違うのかな…と思いました。

 

圭一の母親も本当に圭一を捨てようとしたのではないことが最後にわかりましたが、それは圭一には全く伝わらないですよね…。

いつか会いに行こうとしてたなんて今更知らされても、圭一もどうにもやり切れないでしょうね…。

やっぱりそういう点で圭一に同情してしまう部分は正直あります…。

圭一の母親はもっと面と向かって、圭一と向き合うべきだったと思います。

「一線を越えてしまった息子の願いを聞いてやるわけにはいかない。」と言って面会にも行かないなんて、あまりにも酷すぎると思いました。

ちゃんと向き合って罪を償うように話して、自分がしたことへの謝罪もするべきではないかと思いますね。

 

「この本のテーマ」にはネタバレになる可能性を考えて書かなかったのですが、「毒親の呪縛」「負の連鎖」「毒親への想い」みたいなものも、この作品のテーマの一つなのかな、と思いました。

記者の省吾もまた母親を殺したという過去があるわけですが、それでも永遠に母親の呪縛から逃れられずに苦しんでいます。

親から愛されたいという想いを持たない子供なんて、誰一人いないですもんね。

どんなにひどい母親でも愛されたかったんでしょう…。


 

「罪の境界」というタイトルについて、読み終えた時に、その言葉の意味が重くのしかかってくるようでした。

裁判での明香里のセリフにあるように、どんなにつらいことがあっても、決して「罪の境界」を越えてはいけないんだ、ということを薬丸さんは言いたかったのかな、と感じました。

 

明香里が前を向いてくれたことが救いでしたよね。

彼女は家族に愛されて育ってきたから、きっと子供のことも当然のように愛し、幸せな家庭を築いていくことだと思います。

辛い過去が蘇ることがあっても、支えてくれる人がいるから大丈夫だと思います。



まとめ

薬丸岳さんの新刊「罪の境界」についてまとめました。

薬丸さんのファンとして、また素晴らしい作品に出会えてよかったー、としみじみ感じました。

薬丸さんの作品をまだ読んだことのない方も、ぜひ手にとっていただけたら嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!