
早見和真さんの「八月の母」について
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この本を読んだきっかけ
「イノセント・デイズ」を読んで、かなりの衝撃を受けて、注目していた作家さんなので、こちらも読んでみたいと思いました。
早見さんご本人が「イノセント・デイズを超える」という想いで書き、
「超えた」と自信を持っている本だということで、絶対読まなきゃ!と思いました。
こんな人にオススメ
・社会派ミステリーのような重たいテーマの本が好きな人
・実際にあったことをもとにした本が好きな人
・「母」「母性」について考えたい人
・母親との関係に何か引っかかりのある人
・「イノセント・デイズ」が好きな人
「八月の母」あらすじ
彼女たちは、蟻地獄の中で、必死にもがいていた。
愛媛県伊予市。越智エリカは海に面したこの街から「いつか必ず出ていきたい」と願っていた。しかしその機会が訪れようとするたび、スナックを経営する母・美智子が目の前に立ち塞がった。そして、自らも予期せず最愛の娘を授かるが──。
うだるような暑さだった八月。あの日、あの団地の一室で何が起きたのか。執着、嫉妬、怒り、焦り……。人間の内に秘められた負の感情が一気にむき出しになっていく。強烈な愛と憎しみで結ばれた母と娘の長く狂おしい物語。ここにあるのは、かつて見たことのない絶望か、希望か──。出版社より引用
主な登場人物
〇越智美智子
〇越智エリカ…美智子の一人娘
〇越智陽向…エリカの娘
〇越智愛華…エリカの娘。陽向の6歳上の姉。
〇越智麗央…エリカの息子。陽向の5歳上の兄。
〇村上和幸…エリカの小学校の担任教師
○上原浩介…村上の大学時代の友人で新聞記者
○七森博司…エリカと交際関係になった男性
○清家紘子…エリカの住む団地に入り浸るようになった女子高生。麗央と交際していた。
モデルとなった実際の事件について
この本は、愛媛県伊予市で実際にあった事件がモデルとなっています。
著者の早見和真さんは、実際に愛媛に6年間住んで、この本を書いたそうです。
愛媛に引っ越してから、この本のもとになった事件のことを、現地の人によく聞かれたそうで、
「イノセント・デイズ」のような方向性のものを書きたいと思った時に、この事件についての取材を始めたそうです。
この事件のことを知っている方は、大体どういう話の展開なのか予想がついてしまうかと思いますが、
知らない方は、いろんな意味で知らずに読んだ方がいいかもしれません。
ちなみに、実際の事件と家族構成が少し異なったり、被害者の住んでいた地域が違ったりするので、完全なノンフィクションというわけではありません。
この本のテーマについて
「母性」とは…
この本のテーマの一つが、「母性」です。
著者の早見さんは、この本のもととなった事件を取材する中で、「主犯格の女の母性なるものや家族へのあこがれが、この事件の背景の一つなんじゃないか」と仮説を立てたそうです。
「母性」って、そもそも何なのか、ですよね。
1回目に読んだ時も「母性」について語られる場面は割と印象に残ったのですが、
2回目に読み返した時には、「母性」という言葉が出てくる箇所を、より注目して読んでみました。
「母性」について、登場人物が語る場面が何箇所かあります。
例えば、エリカの小学校の担任教師である村上は、
「母性は、母親になってはじめて得るものではないからだ。女という生き物が生まれながらにして身につけている。」という考えを持っています。
また、紘子と同じように団地に入り浸っていた香織は、「母性は素晴らしいものであるって信じ込まされていただけなんだ。」「私たちがそうやって洗脳されるみたいにすり込まれてきた母性って、べつに子どもを生かすためだけに存在してるわけじゃないんだよね。逆に子どもを殺すこともある。」と言います。
それに対して紘子は、「それでも、私はやっぱり本能なんやと思うよ。母性って」と言い、「子どもなんて産んだことのない私にさえ母性ってきっと備わってる」と言い返します。
村上と紘子は、「母性」は生まれながらにして本能的に女性に備わっているものだ、という考えに対し、香織は、「母性」は本能的なものではなく、誰かにすり込まれてきたものである、という考えです。
どちらの考えも、少し極端な考えなのかな…と私自身は思います。
もちろん、本能的に母性が強く備わっている女性はいるかもしれません。
そして、それは女性だけではなく、男性も持っているものであり、母性が強い人、強くない人、人それぞれなのではないかと思うのです。
また、生まれながらにして備わっているのかという点ですが、多少は備わっているのかもしれないけれど、多くの人は自分の子供を妊娠した時、あるいは子供が産まれてから、というように、子育てを通して多かれ少なかれ形成されていくものなのではないでしょうか。
母親なら母性があるのは当然、みたいな考えがすり込まれているのは、確かにあるかもしれません。
香織はその考えは男性によってすり込まれてきた、というような発言をしますが、母親なら家庭に入って子供を育てるべき、という昔の男性の考えによって、すり込まれてきた面もあるのかもしれないな、と思いました。
母と娘の関係、負の連鎖
この物語は、美智子の母→美智子→エリカ→陽向と4世代に渡る負の連鎖について書かれています。
「螺旋階段」や「蟻地獄」という表現が出てきますが、抜け出したくても抜けられない負のスパイラルです。
母親が娘に「あなたがいないと私はどうしたらいいの」みたいなことを言って、娘に離れられない状態にするのが、1番悪いんですよね。
娘は、やっぱり母親のことを見捨てられない、見捨てたりしたら母親に悪いことをしている、という罪悪感を植え付けられていることが多いように感じます。
この物語の家族もそうですが、母も娘もそんな状況から抜け出したいと思ってるはずなのに、実際はお互いに依存してる状態であることが多いです。
この物語では、美智子とエリカはお互いに依存しているように、私は感じました。
感想(ネタバレなし)
うーん…、これは感想を書くのが難しいですよ…。本当に難しい。
感想を上手く言葉で表すことも難しいし、ネタバレせずにいろいろ語ることも難しい。
初めて読んだ時と、もう一回読み返した時の感想がまた違う。
そして、ブログを書くため、という理由からではなくて、すぐにもう一回全部読み返したいと思う本も珍しい。
一回読んだだけではちゃんと消化し切れないような気がして、すぐにもう一回読みたくなりました。
ひたすら重たい内容なのに、ページを捲る手が止まらなかったです。
「イノセント・デイズ」もそうだったんですが、もうどっぷり入り込んでしまいました。
1回目に読んだ時は、最後の方はもう号泣でした。
あまりに涙が止まらないので、誰もいない部屋に移動して読むほどでした(笑)
たぶん人生で一番泣いた本かもしれない。
ただ、これは誰にでも当てはまることではないと思います。
この本を読んで、人によっては全く響かない人もいるだろうし、読むのが辛いってだけで終わる人もいるかもしれない。
「母と娘」の物語だから、男性が読んだらどう思うのかな。
私自身、母親とあまり良い関係だとは言えないので、いろいろ考えさせられました。
母のことをどう考えたらいいか、この本を読んでまた少し私の中で考えがまとまった気がします。
著者紹介
1977年神奈川県生まれ。愛媛県在住。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)、『ザ・ロイヤルファミリー』で2019年度JRA賞馬事文化賞と第33回山本周五郎賞を受賞。『店長がバカすぎて』で2020年本屋大賞9位。『あの夏の正解』で「2021年Yahoo!ニュース│本屋大賞ノンフィクション本大賞」ノミネート。他の著書に『スリーピング・ブッダ』『95(キュウゴー) 』『ぼくたちの家族』『笑うマトリョーシカ』『かなしきデブ猫ちゃん』(かのうかりんとの共著)など。
出版社より引用
感想(ネタバレあり!)
ここからは、ネタバレありの感想になるので、読みたくない方は、読まないで下さいね!
ここから、ネタバレ感想↓
実際の事件では長女の被害者への嫉妬心が原因で暴力がエスカレートしていったらしいのですが、この物語の中でも、長女の愛華が紘子を気に入らないと思っている描写が出てきます。
エリカは自分の子供も他の子供も分け隔てなく可愛いがり、みんなにママと呼ばせていましたが、愛華はそれが気に入らなかった。
しかも陽向が生まれるまでは、ろくにちゃんと育ててもらえてなかったんですよね。
それなのに、よその子と同じように扱われて、いい気がするわけありませんよね。
エリカに19歳の誕生日を忘れられている場面がありましたが、それは娘として相当ショックだっただろうな。
そこはやっぱりエリカが自分の子供と他人の子供との関係を、ちゃんと線引きしなければいけなかったと思います。
いくら大勢で楽しく過ごす家が憧れだったとしても。
エリカと博司のくだりについても、1回目に読んだ時は、博司のことを最低な男だなと思ったんですが、冷静に考えると、エリカのやり方もやっぱり汚いと思いました。
子供ができるまでは、自分に2人の子供がいることを隠していたくせに、子供ができた途端に全てを明かして、博司が逃げられないような状況にしてますよね。
どうせ男なんて信用できないなどと言って、博司に責任を押し付けるようなやり方はどうかと思いました。
しかも、美智子のせいで街から離れられないと言う割には、自分の子供の世話を美智子にさせてたりするんですよね。
完全に共依存状態です。
街から出たいって口では言ってるけど、結局は母親にも男にも甘えてるだけなのかな、と思ってしまいました。
それまでの人生で散々男に裏切られてきたせいももちろんあるとは思いますが…。
それから、陽向に対する思いも、1回目に読んだ時と2回目に読んだ時で、感想が変わりました。
1回目は、エリカとキッパリ決別することにしてよかった、これからも幸せに生きてほしい、と単純に願ったんですよ。
でも読み返してみると、陽向が紘子にしたことはひどいんじゃないか…と思うんですよね。
実は相談できる彼氏がいたとか…しかも紘子が死にそうになってる姿を見たのに…紘子は何のために犠牲になったの…。
紘子が自分で陽向を守るって決めたとはいえ、陽向も紘子を盾にして逃げてたのは自覚してましたよね。
紘子だって、陽向より歳上だからって、まだまだ子供だったんですよ。
美優がエリカに出て行かされた時に、紘子も一緒に出て行ってほしかった。出て行くべきだった。
エリカが紘子のことをそこまで巻き込んでしまったのが本当に許せないですね…。
この物語で唯一救いだったのは、紘子の兄の恭介ですね。
紘子も恭介のことを「スーパーマンみたいな人」と言っていますが、本当にこの兄は賢くて強い人だな、と思いました。
小学生の時点で自分の家の脆さを悟り、自分の将来を見据え、思った通りの道を進んだんですよね。
彼の言葉に私は少し心を動かされました。
「母親だということにあんまり過度な期待をしない方がいい、母親も一人の女性として認めてやれ」というようなことを紘子に対して言うのですが、なるほどな…と。
恭介が陽向と会う場面も、この兄は本当に冷静で落ち着いていて、陽向のことを恨んでないと言えて、すごい人だなと思いました。
恭介がもし紘子の側にいたら…こんなことにはなってなかったかもしれないな…と思わずにはいられません。
そして最後、陽向がエリカと会う場面、エリカには本当にがっかりさせられました。
やっぱりそんな母親だったのか…と絶望しました。
「私だって苦しんで生きてきた。必死に生きてきた」って言うのはまだ気持ちはわかりますよ…。
だけど、どの口が「私の面倒を見てほしい」なんて言えるんでしょう…。信じられません。
しかも陽向に会いたかった一番の理由がそれなんて、一体どういうつもりなのか…。
この場面は読んでいて、怒りで震えました。
すみません、少々熱くなり過ぎたでしょうか(笑)
この本には、本当に心を揺さぶられたので、長々と書いてしまいましたが、ここにはまだ書いていない感想もこれからもっともっと出てくるような気もしますし、感想が変わることもあるかもしれません。
この本を読んだことはきっと一生忘れられない経験になったと思います。
この本に出会えてよかったです。
まとめ
「イノセント・デイズ」を超えたと、早見さんが自信を持っているこの作品ですが、私の中でも「イノセント・デイズ」を超えました。
全然違う系統の本も書かれているので、他作品を読みつつ、今後も応援していきたいと思います!
長々と読んでいただき、ありがとうございました!
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