この本を読んだきっかけ
「スモールワールズ」が話題になっていて、気になっていた作家さんですが、
今年新刊が出ていたことを知り、読みたいと思いました。
ちなみに「スモールワールズ」は、ずっと図書館の予約順番待ちです…。
こんな人にオススメ
- 何となく日々の生活に疲れたり、虚しさを感じている人
- 仕事に行き詰まってる人
- テレビ業界に興味がある人
「砂嵐に星屑」あらすじ
出版社によるあらすじ
直木賞候補『スモールワールズ』で注目を集めた一穂ミチ。
期待の書き下ろしは、あらゆる世代に刺さるすぎる群像劇!
日々頑張るあなたが、きっとこの本の中にいます。舞台はテレビ局。旬を過ぎたうえに社内不倫の“前科”で腫れ物扱いの四十代独身女性アナウンサー(「資料室の幽霊」)、娘とは冷戦状態、同期の早期退職に悩む五十代の報道デスク(「泥舟のモラトリアム」)、好きになった人がゲイで望みゼロなのに同居している二十代タイムキーパー(「嵐のランデブー」)、向上心ゼロ、非正規の現状にぬるく絶望している三十代AD(「眠れぬ夜のあなた」)……。それぞれの世代に、それぞれの悩みや壁がある。
つらかったら頑張らなくてもいい。でも、つらくったって頑張ってみてもいい。続いていく人生は、自分のものなのだから。世代も性別もバラバラな4人を驚愕の解像度で描く、連作短編集。
出版社より引用
あらすじをもっと詳しく!
この本は、4つの章から成っています。
大阪にある「なにわテレビ」というテレビ局に勤める、
世代も性別もバラバラな4人が主人公です。
あらすじをもっと詳しく
紹介します!
〈春〉資料室の幽霊
43歳独身、主任アナウンサーの三木邑子の話。
邑子は東京で生まれ育ち、就職で大阪に来て10年暮らし、
東京へ異動してまた10年、そしてまた大阪に戻って来た。
邑子は、ニュース番組のデスクである先輩の中島と、彼の同期と飲みに行った時に、
邑子の不倫相手であった村雲の幽霊が、13階の資料室でたびたび出るらしい、
という噂を聞かされる。
邑子は、上司であった村雲との不倫のことで、社内で腫れ物扱いされているのだった。
その飲み会の帰り、邑子は幽霊なんて出るわけないと思いつつ、資料室へ行ってみることにする。
資料室へ入り、何も起こらないことを確かめて帰ろうとしたその時、誰かが資料室に入ってきた。
そして、その何者かが電気を消した。
その何者かは、村雲の幽霊ではなく、新人アナの笠原雪乃だった。
彼女は、宴会の途中で「映画の時間なので」と言って帰ってしまったり、
食事会で嫌いな食べ物をせっせと除けたり、と、
あまり良い印象は無い後輩であった。
雪乃も幽霊が出るという噂を聞いて、資料室へ確かめに来たのだった。
するとそこへ、本当に村雲の幽霊が現れた…。
雪乃には見えず、邑子だけにその姿は見えたのだが、
雪乃はなぜ村雲がたびたび資料室にだけ現れるのか、
何か未練があるのなら、解決して成仏させてあげようと言い出す。
その翌日から、邑子と雪乃は、資料室に行くようになる。
〈夏〉泥舟のモラトリアム
〈春〉にも出てきた報道デスクの中島の話。
ある日の朝、大きい地震により目を覚ました中島は、
電車が止まってしまったため、自宅のある西宮から、
会社のある大阪の中心地まで歩いて向かうことにする。
地元の駅で、同期の市岡と出会うが、共倒れのリスクを避けて、
二手に分かれようと提案され、長い道のりを一人で歩くことになる。
歩きながら中島は、同期が自分探しのために、定年を待たずにどんどん退職していくことを考え、
自分の人生についても考えた。
尼崎に着き、自販機で水を電子マネーで買おうと、スマホを取り出した時、
スマホが落ちて、壊れてしまった。
一生懸命歩いてるのに、スマホまで壊れてしまい、何もかもが嫌になってしまう。
一度、怒鳴ってしまったせいで、2年間もろくに口もきいていない大学生の娘のことを考え、
さらに悶々としながら歩き続けた。
〈秋〉嵐のランデブー
タイムキーパーを務める、20代の佐々結花の話。
ある番組の忘年会で、隣に座っていたウェザー担当の木南由朗のことを好きになり、
そこから交流を深めるうちに、晴れて彼とルームシェアをすることになる。
けれども、由朗はゲイであり、結花と結ばれることはなかった。
結花は最初からそれをわかっていて、由朗とルームシェアをしているのだが、
どうやっても由朗が自分のことを好きになることはないという事実が、
結花の心を打ちのめし、由朗のことを時々傷つけたくなってしまうのだった。
また、結花は結花で、過去に秘密を抱えているのだった。
〈冬〉眠れぬ夜のあなた
非正規のADとして働く30代の堤晴一の話。
同い年の池尻が進めていた「アラサー」という番組を一本作るように、
中島から任される。
プチ密着みたいな番組で、晴一は自分には向いていないと思うが、
断れるわけもなく、とりあえずやることになる。
密着するのは、並木広道という芸人で、腹話術の人形を相方として、
病院を回って子供の前で芸を披露する男性だった。
初めて広道に会った時に、腹話術の人形のことを「それ」と言って、
「大切な相方なんで『それ』って言うんはやめてもらえますか」と言われたり、
会話の進行について意見を言われたりして、
やっぱり向いてない、と思ってしまう晴一だが、なんとか広道と交流していく。
この本のテーマや特徴
共感できる場面や心情がたくさん!
4人とも、年代も性別もバラバラで、抱えている問題もそれぞれですが、
登場人物の誰かしらに必ず共感できると思います。
私はアラフォー既婚女性ですが、〈夏〉の中島に一番共感しました。
悩みが一つもない人なんていないよなぁ〜って思いました。
見た感じは悩みがなさそうな人でも、きっと何かしら抱えてるんですよね。
あらゆる人にそっと寄り添ってくれるような、場面や心情で溢れている本です。
テレビ業界のことがチラッと分かる!
テレビ業界と言うと、なんとなく華やかなイメージがありますが、
この本の主人公たちは、邑子以外は、裏方の仕事をしている人たちなので、
華やかなだけではないテレビ業界のことが、少し垣間見れます。
当たり前ですけど、テレビ番組っていろんな人たちが作り上げてるんですよね。
毎日、絶えず放送されている番組というのは、
製作する人たちが、日々苦労と努力をしながら、作り上げた結晶なんだなぁ、
と改めて感じました。
心に残ったフレーズ
心折れる出来事というのは、傷の大小よりタイミングに左右されるのだろう。
p110 中島の言葉
この言葉には本当に共感します。
傷の大小ももちろん関係ないとは言えないけど、タイミングの問題って大きいですよね。
些細なことがきっかけで、何もかも投げ出したくなったり、
心の我慢が限界になってしまうことって、きっと誰にでもありますよね。
悪いことが起こった時に限って、また悪いことが重なったり、
心折れる時って、確かにタイミングに左右されることが多いです。
「正しさって、いたたまれへん気持ちになる。明るいところに引きずり出される感じがするから。
p166 由朗の言葉
(中略)恥じるな、引け目感じるなっていう圧もひとつの暴力やろってぼくは思う。」
今の時代、LGBTQや多様性の時代などと言って、
人と違うことを恥じる必要はない、という風潮がありますが、
そういったことを堂々と公言したい人も、そうでない人もいるし、
恥ずかしいと感じている人も、感じていない人も、いろんな人がいると思います。
本当に難しい問題だと思います。
押し付けがましい態度を取ったりするのは、気を付けないといけないな、と思いました。
「心のケア」なんかしていらん。治りたくない、忘れたくないんです。
p282 広道の言葉
哀しい出来事や辛い出来事を経験してしまった人が、
誰しも癒されたり、治したいと思っているわけではないんですね…。
忘れないために、治したくない、という考えもあるんだなぁ、と、
気付かされました。
感想
一穂ミチさんの本は初めて読んだのですが、とても良かったです。
また、お気に入りの作家さんが増える予感です。
展開が読めそうで読めなくて、最後の方で、
「おー、そういうことだったの!」って分かるところもあって、
物語の組み立て方も、上手い!と思いました。
大阪に住んでいるので、「大阪あるある」みたいなことも、所々散りばめられていて、
クスッと笑えるところもありました。
〈夏〉の話の中に、尼崎のおっちゃんが出てくる場面があり、
弱ってる中島に声をかけて飴ちゃんをくれるんですけど、
大阪の人って、道端で困ってる人に優しいんですよね…。
私は関東出身なんですが、大阪に来てから、
困った時に、その辺のおっちゃんが声をかけてくれたり、
困った人がいると、その辺の人みんな集まって声かけたり、
という場面に何度か遭遇したことがあって、
この〈夏〉の話を読んで、そういう場面を思い出しました。
〈春〉では、邑子にも雪乃にも、どちらにも共感するところがありました。
特に邑子は、見た感じは強そうなタイプの女性かもしれないけど、
いろんな悩みを抱えていて、弱いところももちろんあって、
強そうに見える人でも、一生懸命もがきながら生きてるんだなぁ、と感じました。
雪乃も一見悩みなんてなさそうで強そうな女性だけど、
やっぱりまだまだ若くて未熟なところもあって、可愛らしいな、って思いました。
〈冬〉の晴一に共感する人も多いと思います。
最初は仕事に不安しかなくて、仕方なくやってるような感じだったけど、
だんだん前向きになっていく姿がカッコよくて、応援したくなりました。
幸せそうな人を見ると、あの人はきっと悩みなんてないんだとか、
私みたいにつまらないことで悩んだりしないんだろうなとか、
つい卑屈になったりしてしまいますが、そんなことはないんですよね。
人間誰にでも悩みや苦労があって、みんなそれに向き合いながら、
一生懸命生きているんですよね。
そんなことを改めて気付かされ、辛いのはあなただけじゃないよ、
って、励まされ勇気づけてくれるような本でした。
著者紹介
2007年デビュー。以後勢力的にBL作品を執筆。「イエスかノーか半分か」シリーズは映画化も。2021年、一般文芸初の単行本『スモールワールズ』が直木賞候補、山田風太郎賞候補に。同書収録の短編「ピクニック」で第74回日本推理作家協会賞短編部門候補になる。最新作は『パラソルでパラシュート』。
amazonより引用
BL作品を書いていた作家さんとは、知りませんでした。
まとめ
この本を読んで、「スモールワールズ」と「パラソルでパラシュート」を
ますます読みたくなりました。
人の繊細な心を描くのが、とても上手い作家さんだな、と思いました。
11/7には、「光のとこにいてね」という新刊が発売される予定だそうで、
そちらも絶対に読みたいと思います!
追記:「スモールワールズ」の記事を書いたので、よろしければあわせてご覧ください。
https://www.mushikoblog.com/small-worlds/