
2023年本屋大賞にノミネートされた
安壇美緒さんの「ラブカは静かに弓を持つ」について詳しくまとめます!
著者の安壇美緒さん、珍しい苗字ですが、「あだんみお」さんと読みます。
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この本を読んだきっかけ
たびたびTwitterで見かける本で気になっていたのと、未来屋小説大賞を受賞したことを知って、注目していました。
また、個人的に音楽が大好きで内容的にも興味があったので、読みたいと思いました。
2023年本屋大賞のノミネートに選ばれる前に図書館で予約していたので、すぐに読むことができました。
今図書館の予約状況を見てみると、20人以上の予約が入っているようです。
こんな人にオススメ
・音楽が好きな人
・音楽教室に通っている人
・スパイものに興味がある人
・著作権の問題に関心がある人
・話題の本を読みたい人
「ラブカは静かに弓を持つ」あらすじ
少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……想像を超えた感動へ読者を誘う、心震える“スパイ×音楽”小説!
出版社より引用
【第6回未来屋小説大賞受賞】
【第25回大藪春彦賞受賞】
「ラブカ」とは
作品のタイトルを見て、「ラブカ」って何?と思った人、たぶん多いですよね。
ラブカとは、軟骨魚綱カグラザメ目ラブカ科に分類されるサメで、水深1,000m近くの深海に生息している深海魚です。
生きたままの観測が難しいため、研究がそれほど進んでいないレアなサメだそうです。
体長は最大で2mほどにもなり、その長いからだをくねくねとさせながら比較的ゆったり泳ぎます。
こんな感じのサメみたいです↓↓

私は知らなかったのですが、以前にTOKIOのメンバーが東京湾で捕獲したことがあり、話題になったようですね。
で、その「ラブカ」が一体この作品とどう関係してるのよ?という疑問については、次項で説明しますね。
この本のテーマや特徴
音楽教室へのスパイ?!
主人公の橘は全日本音楽著作権連盟で働いており、上司からミカサ音楽教室への潜入調査を命じられます。
著作権法の演奏権を侵害している証拠を集め、いずれ法廷で証人尋問に立たなければならない、という任務です。
007の映画やCIAなどの国家機密を扱うスパイを連想して読むと、ちょっとスケールが小さく感じてしまうかもしれませんが、橘はどうなってしまうのか、緊迫感のある物語にはなっていると思います。
そして実際にも、JASRACの職員が主婦としてバイオリン上級コースに潜入していた、ということがあったようです。
で、「ラブカ」がどうこの物語と関係しているかというと、橘が発表会で『戦慄(おのの)きのラブカ』という架空の映画(諜報もののスパイ映画)の劇伴を演奏するんですよ。
深海で生息するラブカと孤独なスパイのイメージをリンクしているんですね。
それと、橘の過去に秘密があり、それ以来、深海の悪夢を見ることが多い、ということにもリンクしています。
チェロという楽器の魅力
チェロという楽器、あんまり馴染みのない人も多いかもしれません。
弦楽器で一番有名なのはバイオリンですよね。
チェロはバイオリンよりも大きくて、低い音を出す楽器で、全体は約120cm、重量は3.5kgほどの楽器です。
こんな感じの楽器↓↓

「人の声に近い」と言われるチェロですが、この楽器を選んだのがこの作品の良さであると思います。
物語に深みと厚みを出しているのではないかと思いました。
橘や講師の浅葉がチェロを演奏する時の描写もまた素敵でした。
「著作権」問題
この物語は、実際にあった「音楽教室vs.JASRAC」の著作権裁判をモチーフにしています。
2022年10月24日、最高裁の判決が言い渡されたばかりの問題なので、この作品が書かれた時には、まだ最高裁の判決は出ていなかったことになります。
物語の中でも主人公の橘がこの問題について少し説明する場面がありますが、争点となったのは、著作権22条の解釈の問題です。
【著作権法22条(上演権及び演奏権)】とは、
「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上演し、又は演奏する権利を専有する。」
というものです。
この条文によれば、「公衆」に対し直接見せ、または聞かせることを目的とする上演・演奏は、著作権者が「専有」するものなので、著作権者以外の者が行う場合は、著作権料を支払わなければならないことになります。
そこで、問題となるのは、音楽教室における演奏が「公衆」に対し「直接見せ又は聞かせることを目的としている」といえるかということです。
最終的な最高裁の判決の内容は、
「音楽教室の先生の演奏については使用料の支払義務を負うとした半面、生徒の演奏については支払義務が生じない」
というものでした。
先生の演奏は「公衆」に対するものであるとみなされたわけです。
ちょっと複雑な問題ですが、ニュースでも報道されていたので、私も気になっていた問題です。
印象に残ったフレーズ

印象に残ったフレーズを2つ紹介します!
「講師と生徒のあいだには、信頼があり、絆があり、固定された関係がある。それらは決して代替のきくものではないのだと。」
p242 三船の言葉
これは音楽を習ったことがある人なら、わかるかもしれないですね。
講師との相性みたいなもので、音楽が楽しくも楽しくなくもなりますし、講師の影響力ってすごいですよね。
だから、この人になら習いたいと思える講師との間には、自然と信頼関係のようなものも芽生えますよね。
「信頼を育てるのが時間なのだとしたら、壊れた信頼を修復させるのもまた時間なのではと思います。ただ、壊れた原因がご自身にあったのだとすれば、きちんと誠意は見せて」
p273 医師の言葉
壊れてしまった信頼関係はなかなか元に戻せないとは思いますが、誠意を見せられたら少しずつ受け入れようという気持ちも芽生えるかもしれません。
壊れるまでの信頼関係がどの程度のものであったかにもよるかもしれませんが…。
感想(ネタバレなし)
個人的に音楽が大好きなので、この作品はなかなか沁みるものがありました。
そして、この物語の「ミカサ音楽教室」のような、大手音楽教室の大人のレッスンに通っていたこともあり、いろんなことを思い出して、感傷に浸ってしまいました。
子供の頃もピアノ教室に通ったり、トランペットをクラブ活動やオーケストラで吹いていたこともありました。
(大人のレッスンに通っていたのは、ピアノでもトランペットでもないですが)
発表会のシーンとか、もう自分が出た時のことを思い出して、ソワソワしてしまいましたよ。
そして、娘もまたピアノを習っていて、発表会やコンクールに出ているので、親になってもソワソワして緊張したりしています。
そういう個人的なことをたくさん思い出してしまったわけですが、そんな為にこの本を読んだわけじゃないだろと思って、冷静になって再読しました(笑)
再読してみると、なんとも深い味わいのある作品だなぁと思いました。
音楽のようにじっくり読めば読むほどジワジワ深みが増してくる物語です。
橘のように実際に潜入活動をしていた人がいるらしいですが、私ならとてもじゃないけど、嫌ですね…。
絶対病んで続けられないと思いました。
それでも会社の命令に従わないということも、会社員にとってはかなり難しいですしね…。
橘は相当辛かったと思います。
橘がチェロを通して過去のトラウマから抜け出していく過程も、丁寧に描かれていて、すごく応援したくなりましたね。
そして、やらされてしまったスパイ活動への葛藤と罪悪感と良心の呵責みたいな心情も、すごく伝わってきて、読んでいる私も少し病みそうになりました。
チェロの音を聴きながら読んでみたりもしたのですが、チェロの音ってなぜだか落ち着くんですよね。
人の声に似ていると言われるのもわかる気がします。
穏やかな男性の声を聴いているような感じとでも言いましょうか。
この物語に出てくる架空の曲、聴いてみたくなりました。
この作品を読んで改めて、音楽って本当にいいよなぁ〜って思わずにはいられませんでした。
私も久しぶりに何か習いたいな〜って思ってしまいました。
音楽には人を癒す力があるって浅葉も言ってますけど、ほんとそうですよね。
私、音楽が無いと生きていけない人間なので、ほんとにそう思います。
橘もチェロを演奏していて、チェロの音色に心から癒されたのでしょう。
それから、浅葉が「曲を表現する時に一番重要なのは、イマジネーションだ」と言うところがあるのですが、娘のピアノの先生もよく「こういう風景を想像して弾いて〜」と言っているので、なるほどなぁと思いました。
私がピアノをやっていた頃はそんなこと意識してなかったような…(汗)
次に何か音楽をやる時は、イマジネーションを大切にしよう(笑)
それと、著作権問題のこともちょっと考える機会になりました。
音楽教室で講師が演奏することに対しては使用料が発生するけど、生徒の場合は発生しないとか…。
少し調べてみた感じでは、音楽教室に対する利用量の徴収については、反対派の方が多い感じでしょうか。
アーティストの方も、自由に使ってくれていい、と言っている方もいたりするようですが、ちゃんと著作権料が払われないとアーティストも厳しい場合もあるようで、難しい問題であると思いました。
著者紹介
1986年北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。
2017年『天龍院亜希子の日記』で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。
著書に、北海道の女子校を舞台に思春期の焦燥と成長を描いた『金木犀とメテオラ』がある。
2022年『ラブカは静かに弓を持つ』で第6回未来屋小説大賞、2023年同作で第25回大藪春彦賞を受賞。
出版社より引用
感想(ネタバレあり)
橘がスパイ活動の証拠を消去するのに成功して、裁判にも出なくてよくなって、めちゃくちゃ安心してからの〜、結局最後のレッスンの時にバレてしまい、どうするのー!!という展開!
心臓に悪かったですよっ!(笑)
証拠を消去できるのかできないのか、のシーンもかなりドキドキしました。
著者の安壇美緒さんは、これは「信頼と時間」がテーマの話だとおっしゃっています。
橘と浅葉の信頼関係は、一度大きく壊れてしまいましたが、終盤の展開ではその壊れた信頼関係がなんとか戻って行くのでは…という明るい兆しが見えて、ホッとしました。
あまり人と関わろうとしていなかった橘が、チェロ仲間と交流を深めて、またチェロを演奏する中で過去のトラウマを克服していく姿は、とても嬉しく感じました。
チェロ仲間もまた個性豊かで、年齢も性別も性格も全然違うメンバーだけど、好きなことが同じということで繋がってる仲間って、普通の友達とは違う安心感や特別感があっていいんですよね。
そして何より、みんなチェロを愛してることが伝わってきて、よかったですね。
アンサンブルとかいいなぁ〜楽しいだろうなぁ〜。
私も娘とピアノの連弾をしたりするんですが、もう楽しくて嬉しくて。
一人で演奏するのもいいけど、誰かと演奏をするのは、さらに楽しいんですよね。
音楽って「楽しい」って思えることがやっぱり大事ですよね。
橘もそんな仲間たちとの縁が切れなくてよかった。
終盤のヴィヴァーチェでのアンサンブル発表の場面、浅葉との再会があるのかどうかドキドキしながら読んだのと、いろんな演奏者の言葉が沁みたのとが合わさって、『カノン』の演奏が始まった場面で感極まって涙が出ました。
『カノン』はもう反則なんですよ!
あの曲聴いて感動しない人ってこの世にいないんじゃない?って私は思ってるんです(笑)
この本を読み終わってカノンのチェロ四重奏を聴いてみたんですけど、やっぱり鳥肌が立ちました。
私の中でこの作品は、スパイ小説というよりは、完全に「音楽小説」というジャンルに区分けされました。
元々、音楽がテーマの作品をもっと読みたいと思っていたので、この作品も読めてよかったです。
本屋大賞ノミネート作品の中でも、好きな方に入るので、応援したいです!
まとめ
安壇美緒さんの「ラブカは静かに弓を持つ」についてまとめました。
2023年本屋大賞にノミネートされているので、未読の方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
本屋大賞発表は4月12日の予定です!
第6回未来屋小説大賞を受賞していて、書店員さんにも注目されているので、本屋大賞の方でもけっこう上位に食い込んでくるかもしれないですね!!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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