遠田潤子さんの「イオカステの揺籃ゆりかごについて
詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

遠田潤子さんは『ドライブインまほろば』と『オブリヴィオン』を読んだことがあり、もっといろいろな作品を読みたいと思っている作家さんです。

新刊もまた好きそうなテーマだったので、読みたいと思いました。

こんな人にオススメ

 

・嫁姑問題、母娘関係などのテーマに興味がある人

・毒親、親ガチャなどのテーマに興味がある人

・遠田潤子さんの作品が好きな人

『イオカステの揺籃』あらすじ


新進気鋭の建築家・青川英樹はバラが咲き誇る家で育った。美しい母・恭子と、仕事一筋の父・誠一。週末も父が不在がちだったり、妹の玲子と母との折り合いが悪かったりもするが、至って普通の家族だった。英樹の結婚生活も順調で、今は妻の美沙が妊娠している。満ち足りた生活はこれからも続くはず、だった。ところが……。
 「男の子……?」。生まれてくる子どもの性別を伝えた途端、母の表情が変わった。その日から始まった母の異常な干渉。この家は、何かがおかしいのかもしれない――。平和だと思っていた家庭の崩壊が始まる。

読売新聞オンラインより引用

あらすじを少し追加して紹介します!

ある日英樹は、改築依頼のあった和歌山県の古民家へ行った際に、その家にある水車を見て、子供の頃のある出来事を思い出します。

水車が回っているのを見て、観覧車に母親と乗ったことを思い出したのです。

そしてそれは、2歳の弟が亡くなってしまってからあまり日が経っていない時のことで、観覧車の中で母親とオレンジジュースで乾杯したという奇妙な風景だったのです。

観覧車に乗って、オレンジジュースで乾杯したという風景の持つ意味とはー。

弟が亡くなってしまった真実とはー。

 

主な登場人物

○青川英樹…新進気鋭の建築家。

○美沙…英樹の妻。老舗タイルメーカーで外構・外壁タイルの営業をしている。

○青川誠一…英樹の父。大手ゼネコンの技術者で、ダムマニアであり、蕎麦が好き。

○青川恭子…英樹の母。自宅で、大人気の「バラの教室」を開いており、「バラ夫人」と呼ばれている。

○青川玲子…英樹の妹。撮影小物をレンタルする会社で働いている。

○羽田完…玲子の交際相手。「鍵のSOS」という鍵屋さんを個人で経営している。

○青川和宏…英樹の弟。2歳で亡くなってしまった。

 

この本のテーマについて

母親と息子、母親と娘の関係

著者の遠田潤子さんは「母親との関係に疑問を持たない息子」を書きたかったそうで、そんな息子が結婚して嫁姑問題に直面したらどうなるだろう、というのが、この物語の出発点だったそうです。

また恭子は、英樹のことをかなり溺愛しているのに対し、娘の玲子にはネグレクトに近いような接し方をしています。

誰もが母親との関係で多かれ少なかれ、何かしらの問題を抱えており、この物語では、母親と息子母親と娘の両方の関係性から、母親の問題が描かれています。

嫁姑問題

ドラマで見るような、あからさまな嫌がらせや意地悪をして嫁を困らせるのだけが、嫁姑問題ではありません。

この物語でもそうですが、姑側は本当に良いことをしてると思ってやってることが、嫁側からすると嫌悪感しか感じない、ということが多々あります。

そして、夫からすると、母親が良くしてくれてるのに何で妻は分かってくれないんだ、と思ってしまうので、そこからどんどん問題が深くなっていくわけです。

本当に仲の良い姑と嫁も中にはいるのかもしれませんが、なかなか難しいですよね…。

英樹の事務所で働くシングルマザーの橋本という女性が、何とも鋭いことを言っています。

「男の人が嫁姑問題で『上手くいってるかどうか』なんて気になったときは、もうとっくに上手くいってないんです」と。

これ、なかなか鋭い指摘ですよね。

 

感想(ネタバレなし)

バラの匂いがプワーンと本から匂ってくるんじゃないかと思うくらい、バラの存在感がすごかったです。

様々な品種の色とりどりの庭一面のバラ、バラの蕾のお茶、バラのマカロン、ローズバター、その他いろいろ…。

物語の中に出てくる「中之島のバラ園」にも行ったことがあって、バラの美しさに圧倒されたのですが、今後バラを見たらきっとこの本を思い出して、ゾゾっとしてしまいそうです(笑)

 

英樹が妻の美沙に、母親ともっと気楽に打ち解けてもらえたらと思っていたり、母親の厚意を素直に受け入れたらいいのにと思っていたりするのですが、これはもう完全に不愉快でした…。

嫁と姑、そんな簡単に打ち解けられるわけないでしょ!と心の中でツッコミまくってました。

英樹は恭子に溺愛されて育ってきたゆえに、いろんなことに鈍感なところがあるのですが、読んでいてすごくイライラしました。

私も嫁の立場なので、美沙にかなり共感するところがありました。

男性って、自分が母親からされて嬉しいことは、妻も嬉しいって喜ぶとでも思ってるんでしょうか…。

美沙のお腹の子が男の子だと知った恭子は、ベビー用品を勝手に送りつけてきたり、ベビー用品の写真を山ほどLINEで送ってきたり、おかしな行動がどんどんエスカレートしていくのですが、もうその描写がエグいエグい…。

美沙が乗り移ったかのように、私も吐き気がして、お腹の辺りが気持ち悪くなってしまいました。

恭子のことが本当に気持ち悪くて、美沙に完全に同情しました。

私ももし将来姑の立場になることがあれば、いろいろ気をつけなければいけないと思いました。

 

ただ、物語が進むうちに、恭子がなぜそこまで美沙のお腹の子に執着するのかが明らかになり、また感想が変わってきました。

ネタバレなしの感想なので、詳しくは書けませんが、恭子も辛い人生を送ってきたのだな…と。

いろいろなことが明かされて、恭子に同情してしまう自分がいました。

恭子が自分の人生を思って下した決断にはビックリしましたが、そうすることでしか自分をもう守れなかったのかな…と。

 

少し前にブログ記事を書いた早見和真さんの『八月の母』という作品も、母から娘への負の連鎖がテーマでかなり衝撃を受けましたが、この作品も同じくらい衝撃的でした。

この本は、読売新聞オンラインで連載されていたようで、遠田潤子さんは「家族の問題を圧倒的な熱量で描き出す実力派作家」と紹介されていますが、本当にそこは納得です。

以前に読んだ2作品も、家族の問題がテーマだったのですが、筆力がすごいというか、とにかく一気に引き込まれます。

重苦しい話ですが、読みたいと思う気持ちが止まらなくなります。

明るいテーマの作品もあると思うので、いろいろ読んでいきたいです。

 

著者紹介

1966年、大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2016年、文庫化された「雪の鉄樹」が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位、2017年「オブリヴィオン」が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベストテン」第1位、同年「冬雷」が第1回未来屋小説大賞を受賞。

読売新聞オンラインより引用

感想(ネタバレあり!)

ここからは、ネタバレありの感想になるので、読みたくない方は、読まないで下さいね!

ここから、ネタバレ感想↓

 

美沙が倒れてからの恭子の様子が、さらにエグくて、本当に気持ち悪かったです…。

気が狂ってるのか、正気なのか、どちらかわからないような言動がめちゃくちゃ不気味でした…。

ただ、物語の中盤から、恭子も母親からひどい虐待を受けていたことがわかり、その虐待の描写が読んでいて辛くて仕方なかったです。

何をしても「いやらしい」と言われ、何をしても「あんたにできるわけない、失敗する」と言われ、恭子は母親の「予言」に怯えながら生きてきたのが、あまりにもかわいそうでした。

そして、2人目の子供ができた時の話、これがもう…狂ってるとしか思えなかったです。

「あんたの子供は必ず一人死ぬ」と予言され、それが現実となってしまった時の恭子の気持ちを思うと、絶望でしかなかっただろうな、と思いました。

和宏が亡くなってしまったのは、英樹に責任があり、英樹のことを庇って一生罪をかぶろうとしたのは、親としてその気持ちはわかりました。

そして和宏のようにさせないために、美沙のお腹の子を必死で守ろうとした気持ちはわからなくはないですが、それは美沙にとっては狂気としか伝わりませんよね。

全て恭子の母親が元凶なのに、誰にもそれが伝わってないのが気の毒だと思ってしまったけど、もし誰か一人でも恭子の凄まじい生い立ちを知ったとしたら、何か変わっていたのかな…とも考えました。

恭子が過去について誰にも語らなかった理由はわかりませんが、私だったら誰かに言わなければ生きていけないだろうな、と思いました。

せめて夫には理解してほしいですよね。

自分の生い立ちが恥ずかしくて言いたくなかったのか、ただ言えなかったのかはわかりませんが、誠一がもっと恭子のことを気にかけてあげてたら、ここまでひどいことにはならなかったかも、と思いました。

恭子の母親を見て異常なのはわかっていたのだから。

誠一も恭子と向き合って生きて行こうと思うのが遅すぎましたね。

家庭を全く顧みなかったり、若い女性と不倫をしたりで、どうしようもない夫でした。

恭子の母親は相当狂った人でしたが、その母親もまたきっと狂った人だったのかな。

 

親に言われたことが「予言」になって、それにとらわれてしまう、という恭子の気持ち、少しわかります。

親に否定されて育つと、自分が何か失敗すると「あーやっぱり親の言った通りだった…どうせ私なんて何やってもダメなんだ…」って思ってしまうんです。

親の希望と違うことをすると、罪悪感を感じたり、親に申し訳ないって気持ちが常に優先されたりするんですよね。

玲子みたいに反発できないと、一生親の呪縛から逃れられないと思います。

 

玲子の交際相手の完もまた生い立ちが複雑であるけれど、穏やかで包容力があって、この物語の唯一の癒し的な存在でした。

事故に遭って大変なことになってしまったけど、最後には誠一と玲子と3人で楽しそうにしている描写があり、ほっとしました。

母→娘への負の連鎖をなんとか玲子で止めてほしいです。

玲子と完の二人なら、幸せになってくれるのではないか…と願います。

あと、英樹の事務所の橋本さん、彼女はこの物語の中で唯一まともというか、正論を言ってくれるので、読んでいて安心できました。

 

怖かったり、イライラしたり、気持ち悪くなったり、涙が出たり、読んでいて感情の起伏が激しいて物語でしたが、またもや「遠田ワールド」にすっかり魅せられてしまいました。

まとめ

遠田潤子さんの「イオカステの揺籃」についてまとめました!

けっこう重めの作品なので、誰にでもおすすめできる感じの作品ではないですが、遠田潤子さんの描く世界が好きな方には、おすすめできるかと思います!