第168回直木三十五賞候補作に選ばれた
一穂ミチさんの「光のとこにいてね
についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

一穂ミチさんの作品は「スモールワールズ」と「砂嵐に星屑」を読んだことがあり、新刊も読みたいと思いました。

また、Twitterなどで絶賛コメントをよく目にしていたので、これは読みたい!と思いました。

「スモールワールズ」の記事はこちら↓↓

https://www.mushikoblog.com/small-worlds/

「砂嵐に星屑」の記事はこちら↓↓

https://www.mushikoblog.com/stardust-to-sandstorm/

こんな人にオススメ

・女性の人生についての物語が好きな人

・「運命」を信じている人

・一穂ミチさんのファンの人


「光のとこにいてね」あらすじ

たった1人の、運命に出会った

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。

運命に導かれ、運命に引き裂かれる
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語

出版社より引用

主な登場人物

小瀧結珠(こたきゆず)…父親が医師で、いわゆるお嬢様学校に通っている裕福な家の女の子

校倉果遠(あぜくらかのん)…古びた団地に住んでいて、結珠が偶然出会った母子家庭の女の子。隣人女性の飼うインコだけが慰め。

結珠が小学2年生の時に、母親にこっそり連れてこられてきた団地で、偶然果遠と出会った。

同じ年の2人は、結珠の母親が「ボランティア」と言って、ある男性の部屋に行っている間に、週に一度30分間程の時間だけ、一緒に遊ぶ仲となる。

しかし、結珠はすぐに姿を見せなくなりー。

印象に残ったフレーズ


瀬々はわたしじゃないし、わたしの所有物でもない。生まれた瞬間から道は違っていて、今は太い一本に見えてるけど、ちゃんと枝分かれしてるんだよ。

p339 果遠の言葉

瀬々というのは、果遠の子供です。

親は自分の子供を自分の所有物として考えてしまいがちだけど、それは違う、ということですね。

私も子供を2人育てていますが、子供は自分の所有物ではない、ということをちゃんと意識しておかなければいけないな、と思います。

社会に出てみたらわかる、結婚したらわかる、人の親になったらわかる…そういう予言じみた言い回しは卑怯だし、親が子に使うのは呪いに近いと思う。子どもはいつか親の人生をなぞるミニチュアだとでも言いたいのか。

p400 結珠の言葉

これは納得の言葉です。

私も母親からこういう言葉をよく言われてた気がします。

あとは、「親になってから文句言いなさい」っていう言葉。

親になるかもわからないし、それまで何一つ文句が言えないなんて、そんな馬鹿らしいことないな、ってよく思ってました。

これは自分が子育てしてる中でも、言わないように気をつけています。

親の決定に背いたら人生終わるくらいに思ってた。(中略) でも、いま渦中にいる子どもに『大きくなったら親なんか気にならなくなる』って言ったところで希望にはならない。むしろ逆だと思う。

p433 藤野の言葉

これも納得ですね。

子供の頃って、親の言うことが本当に絶対で、できるだけ親が喜ぶようにしなきゃ、って思ってるところ、ありますよね。

子供の意見や考えを受けとめてあげられるように、気をつけていたいです。


感想(ネタバレなし)

うーん、なかなか感想を書くのが難しい物語でした。

2人の関係を何と表していいか分からないですね。

恋愛関係でもないし、親友でもないし、ソウルメイトとでも言ったらいいのか…難しい関係性です。

運命によって呼び寄せ合う関係です。

ここまで運命を感じる人って、なかなか出会えないですよね。

運命を感じたとしても、一時的なものであったり、どちらかの方が強く感じていて一方的なものであったりすることが多いと思うのですが、この2人はお互いがお互いを同じくらい強く必要としているのが、すごいと思いました。

もう本能がお互いを探し求めている、とでも言ったらいいでしょうか。



一穂ミチさんの文章は、比喩表現が多く出てくるのですが、今作も印象に残る言い回しがけっこうありました。

例えば、「スプーンやナイフにくっついたいちごジャムみたいな声」とか、「いつもの声色が鉱物だとすれば、その日の声はマシュマロ」といった風に声を例える描写があったりして、独特な言い方ですよね。

色を使った表現も印象的で、映像が頭に思い浮かぶような文章も好きです。

「自分の五感が混ざってぐにゃぐにゃのマーブル模様になったみたいに〜」とか、「夜明けのピンクと夕方のオレンジが好き」といった風に。

一穂ミチさんの書く文章、個性があって美しくて、私は好きです。


 『光のとこにいてね』という作品名にもなっているフレーズがすごく印象的に使われていて、ずっと頭に残っています。

このセリフが2人の運命を左右する時に使われるので、さらに印象に残りました。

このフレーズというか、本のタイトル、すごくいいと思います。

それにしても、この作品もまた毒親が出てきました…。

裕福な家の女の子と、いわゆる貧乏な女の子、2人に共通するのは、家庭で大切にされていないと感じていて、母親に対して複雑な気持ちを持っているところです。

毒親がメインテーマではないにしても、最近このテーマのものに引き寄せられてるのか、私が引き寄せてるのか…(笑)

著者紹介

2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。ボーイズラブ小説を中心に作品を発表して読者の絶大な支持を集める。2021年に刊行した、初の単行本『スモールワールズ』が本屋大賞第3位、吉川英治文学新人賞を受賞したほか、直木賞、山田風太郎賞の候補になるほど大きな話題となった。

出版社より引用

感想(ネタバレあり)

ここからは、ネタバレを含む感想なので、まだ読んでいない方は気をつけてください!

最後の方の展開が少し納得できないというか…、果遠もそんな簡単に離婚して、瀬々を手離していいの?と思ったし、結珠も果遠を追いかけてどうするつもり?と思いました。

終わり方がハッキリしない描かれ方なので、2人がこの後どうなったのかはわかりませんが、2人で一緒になってほしい気持ちもあるけど、そんなに簡単に周りの人をほったらかしにしていいの?っていう気持ちもあり、複雑でした…。

水人もそんな簡単に地元に帰りたいとか思うもんなのかな?とも感じたし、何より瀬々ちゃんの気持ちはどうなっちゃうの…と思いました。

果遠の決断は少し身勝手なのではないかな…と。

果遠の母親も結珠の母親も身勝手な人たちだったけど、彼女たちとやってることは同じようなことなんじゃないの?と思ってしまいました。

何も知らずに母親が急にいなくなっちゃうなんて…、子供の心境を考えてしまうと、ちょっとこの終わり方はうーん…という感じでした。

文章自体は、すごく余韻の残る終わり方で美しいな、とは思ったんですけどね…。

まとめ

一穂ミチさんの新刊「光のとこにいてね」についてまとめました。

個性的な文章がすごく印象に残り、タイトルもまた秀逸だな、と思う作品でした。

あとは、装丁も綺麗!

今後も要注目の作家さんです。