この本を読んだきっかけ
最近、史実を基にした小説を読むことが好きなので、そういった作品を探していた時に、この作品に興味を持ちました。
先日読んだ「熱源」のレビューを読んでいる時にも、この作品に触れているものがあったので、読んでみたいと思いました。
こんな人にオススメ
- 青春群像劇が好きな人
- 歴史小説が好きな人
- 沖縄の歴史や文化に興味のある人
- 直木賞受賞作品を読みたい人
「宝島」あらすじ
◆祝!3冠達成★第9回山田風太郎賞&160回直木賞受賞!&第5回沖縄書店大賞受賞!
出版社より引用
◆希望を祈るな。立ち上がり、掴み取れ。愛は囁くな。大声で叫び、歌い上げろ。信じよう。
仲間との絆を、美しい海を、熱を、人間の力を。
英雄を失った島に新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染みーーグスク、レイ、ヤマコ。
生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。
少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり、同じ夢に向かった。
オンちゃんとグスク、レイは、キャンプ・カデナ(嘉手納基地)から、他の地域からの助っ人と共に、物資を盗み出す計画を決行します。
しかし、その計画は失敗に終わり、逃げる途中で、オンちゃんは突如姿をくらましてしまいます。
オンちゃんはどこへ行ってしまったのかーー。
主な登場人物
◯オンちゃん…「戦果アギヤー」の英雄。(「戦果アギヤー」…アメリカ統治下時代の沖縄において、米軍基地からの窃盗行為を行う者たちを意味する言葉。「戦果を挙げる者」という意味)
◯グスク…オンちゃんの親友。
◯レイ…オンちゃんの弟。
◯ヤマコ…オンちゃんの恋人。
◯謝花ジョー…オンちゃんが関わっていたと思われる密貿易団「クブラ」のメンバー。
○国吉…レイが刑務所で出会った人物で、刑務所での処世術を授けてくれた。
○タイラ…同じくレイが刑務所で出会った人物。
○チバナ…謝花ジョーの恋人だった人物で、後にレイと親しくなる。
○アーヴィン・マーシャル…米民政府の官僚。グスクに諜報員になるように勧誘する。
○小松…マーシャルの通訳。
○ウタ…レイやヤマコに懐いているハーフの男の子。浮浪児。
○又吉世喜…「那覇派」の首領。
この本の特徴やテーマ
沖縄の戦後史がわかる!
沖縄の基地問題のニュースを見ることが多いですが、戦後の沖縄がどのような歴史を歩んできたのか、実際にはそんなに詳しく知らない人が多いのではないでしょうか。
私も恥ずかしながらその中の一人です。
この作品を読んで、沖縄について何も知らなかったな…と感じました。
この作品に出てくる人物はほぼ実在した人物であり、事件や事故なども実際に起こったものばかりです。
沖縄のヤクザは「コザ派」と「那覇派」が争っていたことや、1959年の「宮森小米軍ジェット機墜落事故」、1970年の「コザ暴動」、1971年の「レッドハット作戦」など、沖縄の歴史を知っていると、物語についても理解が深まると思います。
瀬長亀次郎や屋良朝苗といった実在人物も登場します。
語り部(ユンター)の存在感!
この小説の特徴として、カッコ書きで補足的な文章が多く入る、という点があります。
例えば、
だからこそオンちゃんは事前の下見をくりかえし(本番の前につごう十回は侵入した。とてつもない強心臓だよな!)
という風に、どこからか俯瞰している人の視点で補足説明がされたり、「カフー!」や「あきさみよう!」などのような掛け声のような文章がカッコ書きで表される箇所がたくさんあります。
その語り部のカッコ書きが読みにくい、という感想もけっこう見かけましたが、私はけっこう好きでしたよ。
物語に軽快なテンポを作り出してる効果もあると感じたし、登場人物に寄り添ってるような感じもして、個人的にはよかったです。
また、その語り部が実はある登場人物だった…ということが最後に分かるので、それもちょっとしたお楽しみということで、読んでみてください。
ミステリー要素もアリ!
ミステリーという宣伝文句は見かけませんが、ちょっとしたミステリー仕立ての作品となっています。
主人公3人(グスク・レイ・ヤマコ)の英雄的存在であったオンちゃんは、どこに行ってしまったのか。
生きているのかも死んでいるのかもわからない英雄を3人は探そうとします。
そして、なぜオンちゃんは突然姿を消してしまったのか。
謝花ジョーがオンちゃんの失踪のカギを握っているとわかり、ジョーから話を聞くことができましたが、オンちゃんが「予定にない戦果」を持ち帰ったと言います。
ジョーはその言葉だけを残して、死んでしまいます。
「予定にない戦果」とはーー。彼らが辿り着いた真相はーーー。
感想
最近、「地図と拳」や「しろがねの葉」、「熱源」といった直木賞を受賞した歴史小説を読んできましたが、それらもこの作品もものすごい重厚というか、熱量がすごいというか、ズシッとくるものがありますね。
すっかりこういった歴史小説の世界にハマってきてしまいました。
この作品は歴史小説という紹介はされていないようですし、ミステリーという紹介もされていませんが、私はミステリー要素のある歴史小説という捉え方で読みました。
青春群像劇でもあるし、恋愛も絡んでくるし、いろんな要素が詰まった作品であると感じました。
沖縄の方言が多用されているので、読みにくいと感じる部分はあるかもしれませんが、すぐに慣れるかな?とは思います。
沖縄と言えば、日本を代表する観光地・リゾート地であり、私も2回行ったことがありますが、本当に素敵な所で何度でも行きたいなぁと思う所です。
あのゆったりとした雰囲気や、冬でもそんなに寒くない気候が魅力的で、住んでみたいと思うくらい好きな所ですが、そういう視点でしか沖縄のことをとらえていなかった自分を少し反省しました。
もちろんニュースなどで頻繁に基地問題などを見かける機会はありましたが、他人事のようにしか見ていなかった点も反省です…。
沖縄の戦後史について調べながら読みましたが、歴史について知っていたことは少なく、沖縄の人々がアメリカや日本(内地)についてどう思っていたか、あまり理解していなかったことがわかりました。
著者の真藤さんは沖縄の方ではないというのが驚きでしたが、かなり綿密にリサーチされたのではないかと思います。
沖縄の方が書いたレビューを見ると、方言や地理に違和感があったりもするようですが、沖縄の歴史や沖縄が抱える問題に目を向けさせたという点でも、意義のある作品なのではないかと思います。
この作品に書かれていることはほぼ史実通りですし、実在した人物もたくさん出てきますからね。
この作品を読んで、沖縄に対する意識が変わったというレビューもかなり見かけますし、私もそうです。
日本人として、沖縄の歴史に目を背けていてはいけないと感じました。
沖縄の言葉に「なんくるないさー」という言葉がありますよね。
この言葉も、沖縄の人々の陽気で楽観的な性格から生まれた言葉なのかな、って思ってたんです。
(もちろん沖縄の人がみんな陽気で楽観的ではないとは思いますが、一般的なイメージです。)
でも、実際は「それくらいのこと何ともないよ」って思い込まないといけないようなやるせないことばかりで、忘れないと前に進めないっていう状況から生まれた言葉だったのかな…って。
もしそうだとしたら、何とも切ないです…。
いろいろ沖縄のこと、誤解しているような気がします。
この作品を通じて学んだことを忘れないようにしたいですね。
沖縄の本土復帰の頃に生きていた人々は、やはり内地に反感を持っていたんでしょうか。
内地の人からバカにされていると感じていたのでしょうか。
本土復帰をどのようにとらえていたのでしょう。
本土の人間が沖縄のことをバカにしてるとか、私の感覚では全くないんですけど、その当時はどうだったんだろう…など、いろいろ考えてしまいました。
むしろ、安室奈美恵さんとかSPEEDとかがめちゃくちゃ流行って、憧れ的な感じもある世代なんですけど、もう少し上の世代の人たちは違うんでしょうか。
なんだか作品の感想ではなくて、沖縄に対する感想みたいになってしまいました(汗)
作品の話をしましょう!
ミステリー要素もあるので、最後に謎が解けるわけですが、何とも切ないというか、オンちゃん…(涙)となりました。
あまり言うとネタバレになるので、いろいろ言えませんが、最後の方はグッとくるものがありました。
途中のヤマコが働いていた学校にジェット機が墜落する場面も、涙が出ました。
フィクションとノンフィクションが上手く合わさって、読み応え抜群の作品でしたね。
辛い描写もあるけど、戦後の沖縄が置かれていた状況が伝わってくるような文章はとてもよかったです。
軽快で笑える場面もあり、しんみりする場面もあり、ハラハラドキドキする場面もあり、感情が揺さぶられました。
それから、この作品はオーディブルなどの「聴く読書」で聴いてみたいと思いました。
沖縄の方が朗読されているようなので、聴いてみたいですね。
著者紹介
1977年東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。
出版社より引用
同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ受賞。
2018年に刊行した『宝島』で第9回山田風太郎賞、第160回直木三十五賞、第5回沖縄書店大賞を受賞。
著書にはほかに『畦と銃』『墓頭』『しるしなきもの』『黄昏旅団』『夜の淵をひと廻り』『われらの世紀』などがある。
まとめ
真藤順丈さんの「宝島」についてまとめました!
直木賞受賞も納得の重厚な作品でした。
「続編を書いている」という記事も見かけたので、これは今年あたり期待できるかもしれません!
最後までお読みいただき、ありがとうございます!