本のむし子

40代主婦の読書日記ブログです。読んだ本の感想などを気ままに書いていきます。

歴史小説


真藤順丈さんの「宝島」についてまとめます!
第160回直木賞を受賞した作品です!


この本を読んだきっかけ

最近、史実を基にした小説を読むことが好きなので、そういった作品を探していた時に、この作品に興味を持ちました。

先日読んだ「熱源」のレビューを読んでいる時にも、この作品に触れているものがあったので、読んでみたいと思いました。


こんな人にオススメ

  • 青春群像劇が好きな人
  • 歴史小説が好きな人
  • 沖縄の歴史や文化に興味のある人
  • 直木賞受賞作品を読みたい人

「宝島」あらすじ

◆祝!3冠達成★第9回山田風太郎賞&160回直木賞受賞!&第5回沖縄書店大賞受賞!
◆希望を祈るな。立ち上がり、掴み取れ。愛は囁くな。大声で叫び、歌い上げろ。信じよう。
仲間との絆を、美しい海を、熱を、人間の力を。
英雄を失った島に新たな魂が立ち上がる。固い絆で結ばれた三人の幼馴染みーーグスク、レイ、ヤマコ。
生きるとは走ること、抗うこと、そして想い続けることだった。
少年少女は警官になり、教師になり、テロリストになり、同じ夢に向かった。

出版社より引用

オンちゃんとグスク、レイは、キャンプ・カデナ(嘉手納基地)から、他の地域からの助っ人と共に、物資を盗み出す計画を決行します。

しかし、その計画は失敗に終わり、逃げる途中で、オンちゃんは突如姿をくらましてしまいます。

オンちゃんはどこへ行ってしまったのかーー。

主な登場人物

◯オンちゃん…「戦果アギヤー」の英雄。(「戦果アギヤー」…アメリカ統治下時代の沖縄において、米軍基地からの窃盗行為を行う者たちを意味する言葉。「戦果を挙げる者」という意味)

◯グスク…オンちゃんの親友。

◯レイ…オンちゃんの弟。

◯ヤマコ…オンちゃんの恋人。

◯謝花ジョー…オンちゃんが関わっていたと思われる密貿易団「クブラ」のメンバー。

○国吉…レイが刑務所で出会った人物で、刑務所での処世術を授けてくれた。

○タイラ…同じくレイが刑務所で出会った人物。

○チバナ…謝花ジョーの恋人だった人物で、後にレイと親しくなる。

○アーヴィン・マーシャル…米民政府の官僚。グスクに諜報員になるように勧誘する。

○小松…マーシャルの通訳。

○ウタ…レイやヤマコに懐いているハーフの男の子。浮浪児。

○又吉世喜…「那覇派」の首領。

この本の特徴やテーマ

沖縄の戦後史がわかる!

沖縄の基地問題のニュースを見ることが多いですが、戦後の沖縄がどのような歴史を歩んできたのか、実際にはそんなに詳しく知らない人が多いのではないでしょうか。

私も恥ずかしながらその中の一人です。

この作品を読んで、沖縄について何も知らなかったな…と感じました。

この作品に出てくる人物はほぼ実在した人物であり、事件や事故なども実際に起こったものばかりです。

沖縄のヤクザは「コザ派」と「那覇派」が争っていたことや、1959年の「宮森小米軍ジェット機墜落事故1970年の「コザ暴動1971年の「レッドハット作戦など、沖縄の歴史を知っていると、物語についても理解が深まると思います。

瀬長亀次郎や屋良朝苗といった実在人物も登場します。

語り部(ユンター)の存在感!

この小説の特徴として、カッコ書きで補足的な文章が多く入る、という点があります。

例えば、

だからこそオンちゃんは事前の下見をくりかえし(本番の前につごう十回は侵入した。とてつもない強心臓だよな!)

という風に、どこからか俯瞰している人の視点で補足説明がされたり、「カフー!」や「あきさみよう!」などのような掛け声のような文章がカッコ書きで表される箇所がたくさんあります。

その語り部のカッコ書きが読みにくい、という感想もけっこう見かけましたが、私はけっこう好きでしたよ。

物語に軽快なテンポを作り出してる効果もあると感じたし、登場人物に寄り添ってるような感じもして、個人的にはよかったです。

また、その語り部が実はある登場人物だった…ということが最後に分かるので、それもちょっとしたお楽しみということで、読んでみてください。

ミステリー要素もアリ!

ミステリーという宣伝文句は見かけませんが、ちょっとしたミステリー仕立ての作品となっています。

主人公3人(グスク・レイ・ヤマコ)の英雄的存在であったオンちゃんは、どこに行ってしまったのか。

生きているのかも死んでいるのかもわからない英雄を3人は探そうとします。

そして、なぜオンちゃんは突然姿を消してしまったのか。

謝花ジョーがオンちゃんの失踪のカギを握っているとわかり、ジョーから話を聞くことができましたが、オンちゃんが「予定にない戦果」を持ち帰ったと言います。

ジョーはその言葉だけを残して、死んでしまいます。

「予定にない戦果」とはーー。彼らが辿り着いた真相はーーー。

感想

最近、「地図と拳」や「しろがねの葉」、「熱源」といった直木賞を受賞した歴史小説を読んできましたが、それらもこの作品もものすごい重厚というか、熱量がすごいというか、ズシッとくるものがありますね。

すっかりこういった歴史小説の世界にハマってきてしまいました。

この作品は歴史小説という紹介はされていないようですし、ミステリーという紹介もされていませんが、私はミステリー要素のある歴史小説という捉え方で読みました。

青春群像劇でもあるし、恋愛も絡んでくるし、いろんな要素が詰まった作品であると感じました。

沖縄の方言が多用されているので、読みにくいと感じる部分はあるかもしれませんが、すぐに慣れるかな?とは思います。

 


沖縄と言えば、日本を代表する観光地・リゾート地であり、私も2回行ったことがありますが、本当に素敵な所で何度でも行きたいなぁと思う所です。

あのゆったりとした雰囲気や、冬でもそんなに寒くない気候が魅力的で、住んでみたいと思うくらい好きな所ですが、そういう視点でしか沖縄のことをとらえていなかった自分を少し反省しました。

もちろんニュースなどで頻繁に基地問題などを見かける機会はありましたが、他人事のようにしか見ていなかった点も反省です…。

沖縄の戦後史について調べながら読みましたが、歴史について知っていたことは少なく、沖縄の人々がアメリカや日本(内地)についてどう思っていたか、あまり理解していなかったことがわかりました。

著者の真藤さんは沖縄の方ではないというのが驚きでしたが、かなり綿密にリサーチされたのではないかと思います。

沖縄の方が書いたレビューを見ると、方言や地理に違和感があったりもするようですが、沖縄の歴史や沖縄が抱える問題に目を向けさせたという点でも、意義のある作品なのではないかと思います。

この作品に書かれていることはほぼ史実通りですし、実在した人物もたくさん出てきますからね。

この作品を読んで、沖縄に対する意識が変わったというレビューもかなり見かけますし、私もそうです。

日本人として、沖縄の歴史に目を背けていてはいけないと感じました。

 

沖縄の言葉に「なんくるないさー」という言葉がありますよね。

この言葉も、沖縄の人々の陽気で楽観的な性格から生まれた言葉なのかな、って思ってたんです。

(もちろん沖縄の人がみんな陽気で楽観的ではないとは思いますが、一般的なイメージです。)

でも、実際は「それくらいのこと何ともないよ」って思い込まないといけないようなやるせないことばかりで、忘れないと前に進めないっていう状況から生まれた言葉だったのかな…って。

もしそうだとしたら、何とも切ないです…。

いろいろ沖縄のこと、誤解しているような気がします。

この作品を通じて学んだことを忘れないようにしたいですね。

 

沖縄の本土復帰の頃に生きていた人々は、やはり内地に反感を持っていたんでしょうか。

内地の人からバカにされていると感じていたのでしょうか。

本土復帰をどのようにとらえていたのでしょう。

本土の人間が沖縄のことをバカにしてるとか、私の感覚では全くないんですけど、その当時はどうだったんだろう…など、いろいろ考えてしまいました。

むしろ、安室奈美恵さんとかSPEEDとかがめちゃくちゃ流行って、憧れ的な感じもある世代なんですけど、もう少し上の世代の人たちは違うんでしょうか。

なんだか作品の感想ではなくて、沖縄に対する感想みたいになってしまいました(汗)

 

作品の話をしましょう!

ミステリー要素もあるので、最後に謎が解けるわけですが、何とも切ないというか、オンちゃん…(涙)となりました。

あまり言うとネタバレになるので、いろいろ言えませんが、最後の方はグッとくるものがありました。

途中のヤマコが働いていた学校にジェット機が墜落する場面も、涙が出ました。

フィクションとノンフィクションが上手く合わさって、読み応え抜群の作品でしたね。

辛い描写もあるけど、戦後の沖縄が置かれていた状況が伝わってくるような文章はとてもよかったです。

軽快で笑える場面もあり、しんみりする場面もあり、ハラハラドキドキする場面もあり、感情が揺さぶられました。

それから、この作品はオーディブルなどの「聴く読書」で聴いてみたいと思いました。

沖縄の方が朗読されているようなので、聴いてみたいですね。

著者紹介

1977年東京都生まれ。2008年『地図男』で、第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞しデビュー。
同年『庵堂三兄弟の聖職』で第15回日本ホラー小説大賞、『東京ヴァンパイア・ファイナンス』で第15回電撃小説大賞銀賞、『RANK』で第3回ポプラ社小説大賞特別賞をそれぞれ受賞。
2018年に刊行した『宝島』で第9回山田風太郎賞、第160回直木三十五賞、第5回沖縄書店大賞を受賞。
著書にはほかに『畦と銃』『墓頭』『しるしなきもの』『黄昏旅団』『夜の淵をひと廻り』『われらの世紀』などがある。

出版社より引用

まとめ

真藤順丈さんの「宝島」についてまとめました!

直木賞受賞も納得の重厚な作品でした。

続編を書いている」という記事も見かけたので、これは今年あたり期待できるかもしれません!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


川越宗一さんの「熱源」についてまとめます!
第162回直木賞受賞作です!!
2022年に文庫化されました!


この本を読んだきっかけ

直木賞受賞作品でもあり、歴史小説が好きなので、前から読みたいと思っていた作品です。

アイヌ」の人々に触れた作品を以前にも読んだことがあり、もっと詳しく知りたいと思っていました。

こんな人にオススメ

  • 歴史小説が好きな人
  • 戦争を題材とした小説が好きな人
  • アイヌの文化や歴史に興味がある人
  • 直木賞受賞作品を読みたい人

「熱源」あらすじ

【第162回直木賞受賞作】

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

出版社より引用

登場人物

  • ヤヨマネクフ(山辺安之助)…主人公。樺太出身のアイヌ。幼少時に樺太から北海道の対雁(現在の江別市)に移住する。
  • シシラトカ(花守信吉)…樺太出身のアイヌで、ヤヨマネクフの幼なじみ。
  • 千徳太郎治…和人の父とアイヌの母を持つ。ヤヨマネクフとシシラトカの幼なじみ。
  • キサラスイ…対雁村一番の美人で、五弦琴(トンコリ)の名手。
  • チコビロー…対雁村を治める、アイヌの頭領。
  • バフンケ…樺太・アイ村の頭領。数カ所の漁場を経営する。
  • イペカラ…バフンケの養女。五弦琴を弾くことを好む。
  • チュフサンマ…バフンケの姪。流行病で夫と子どもを亡くした。
  • ブロニスワフ・ピウスツキ…もう一人の主人公。ポーランド人。ロシア皇帝暗殺を謀った罪で樺太(サハリン)へ流刑になる。
  • アレクサンドル・ウリヤノフ…ブロニスワフの大学の先輩。学生運動の首謀者。
  • レフ・シュテルンベルグ…テロ組織「人民の意志」の残党で、樺太に住む民俗学者。
  • ヴァツワフ・コヴァルスキ…ロシア地理学協会の会員。アイヌの民族調査のため北海道を訪れる。
  • ユゼフ・ピウスツキ…ブロニスワフの弟。兄の罪の連帯責任でシベリアに流される。
  • 金田一京助…アイヌ文化を研究する東京帝大の学生。1913年にヤヨマネクフの話をまとめた「あいぬ物語」を刊行する。
  • 白瀬矗(のぶ)…陸軍中尉であり、世界初の南極点到達を目指す探検家。

この本の特徴やテーマ

明治維新後の「アイヌ」や「樺太」のことがわかる

ロシア人や和人(日本人)に「未開人」と差別され、いずれ滅びゆく運命にあると決めつけられていたアイヌの人々の文化や歴史について、この作品ではたくさんのことを知ることができます。

イオマンテ」と呼ばれる、ヒグマを神に捧げるという儀礼のことは知っていましたが、アイヌの女性が結婚後に口の周りに入れ墨を入れることは知りませんでした。

また、「トンコリ」という琴のことも初めて知りましたが、この作品の中で、重要な役割を持っています。

また、日本とロシアとの間で領土を争った「樺太(サハリン)」の歴史についても、知ることができます。

日本の領地になったり、ロシアの領地になったり、北緯50度線より南だけ日本になったり…と、樺太に住む人々はその歴史に翻弄されてきました。

樺太って、あまり大きい島であるイメージはなかったのですが、北海道よりわずかに小さいくらいの大きい島らしいです。

樺太には「アイヌ」の他にも、「ギリヤーク=ニグブン」や「オロッコ=ウィルタ」と呼ばれる民族も多く住んでいたようです。


2人の主人公、ヤヨマネクフとブロニスワフの故郷への想い

この物語は、アイヌのヤヨマネクフと、ポーランド人のブロニスワフという2人を主人公としています

ヤヨマネクフは大日本帝国に、ブロニスワフはロシア帝国に、むりやり故郷を奪われてしまいます。

奪われたのは土地だけではなく、言葉も奪われてしまいます。

ヤヨマネクフは「八夜招(ヤヨマネク)」、ブロニスワフはロシア風に「ピルスドスキー」と、名前も変えられてしまいます。

その2人の主人公が、「故郷」についてどのような想いを持っているのか、何を大切に生きていこうとするのか、その熱い想いを感じ取ることができます。

登場人物はほとんど実在の人物!!

実話を基にしていることは知っていたのですが、この物語に出てくる登場人物のほとんどが実在した人物なんです!

ポーランドの歴史について、ほとんど知識がなかったのもありますが、ブロニスワフたちは架空の人物じゃないの?と思って読んでました…。

それが、ブロニスワフもピウスツキもウリヤノフも、みんな実在人物なんですね。

ウリヤノフの兄は、ロシア革命を指導したウラジミール・レーニンだそうです。

もちろん、ヤヨマネクフを始めとするアイヌの登場人物も、ほぼ実在人物です。

物語にも出てきますが、ヤヨマネクフとシシラトカは、白瀬矗の南極探検隊に参加しています。

アイヌ語を研究した金田一京助を始め、大隈重信や二葉亭四迷などの著名人も出てきて、壮大な物語となっています。

印象に残ったフレーズ

印象に残ったフレーズを2つ紹介します!

「我々には、彼らの知性を論ずる前にできることがあります。豊かな者は与え、知る者は教える。共に生きる。絶望の時には支え合う。(中略)少なくとも、私は支えられました。生きるための熱を分けてもらった」

p163 ブロニスワフの言葉

ブロニスワフは、サハリンに流されてきた当初、生きる気力を失っていました。

それがギリヤークやアイヌの人々と接するうちに、彼らから支えられるようになっていきます。

作品タイトルが「熱源」というだけあって、物語の中にも「熱」という言葉が何度か出てきます。

ブロニスワフやヤヨマネクフの「生きるための熱の源」は何だったのでしょうか。

ぜひ、読んで確かめてみて下さい。

「"次"とか"また"とか"まさか"ってのは、生きてる限り、あるもんさ」

p425 イペカラの言葉

物語の最後の最後の方で語られる言葉ですが、最後の場面というのもあって、じーんときてしまいました。

アイヌの女性のたくましさも感じられる言葉でした。

生きてさえいれば、何が起こるかわからないですよね。


他にもたくさん印象に残る言葉がありましたが、
ネタバレになりそうなので、やめておきます!!

感想

1ヶ月ほど前に発表された「第168回直木賞」の受賞作品2作品も歴史小説で、両方とも私は大好きな作品なのですが、この「熱源」もまた、直木賞受賞も納得の作品であると思いました。

なんでしょうねー、私、こんなに歴史小説って好きだったかなー、って思いましたよ。

はい、歴史小説大好きなんですよ、きっと、たぶん(笑)

よく考えたら、読書にハマったきっかけも浅田次郎さんの「蒼穹の昴」シリーズですもん。

ちゃんと気付いてなかったけど、歴史小説が好きなんです。はい、ようやく実感しました(笑)

ただ、戦国時代とか江戸時代とかはあまり興味がないんです…。珍しいですよね…。

武士に興味がないんでしょうかね(笑)できれば明治時代以降の話が読みたいですね。

でも、浅田次郎さんの「壬生義士伝」は読んだことがあって号泣したので、案外戦国時代とか江戸時代も好きなのかもしれない。


すみません!前置きが長くなってしまった!!

この作品もそうでしたけど、歴史小説の何が好きって、地図とか歴史とかを調べながら読むのが楽しいんですよ!

そこで私みたいな人のために、出版社さんが丁寧に地図や年表を作って解説サイトを作ってくださっているんですが、すごくありがたいです。

この「熱源」も特設サイトが作られているので、よかったら見てみてください。

小説を楽しみながら、歴史や地理の勉強もできるって、最高じゃないですか?!


 

第1章はヤヨマネクフをメインとした物語で始まり、第2章はブロニスワフをメインとした物語が展開され、この主人公2人がどう関わることになるのか、その辺りもワクワクしながら読むことができました。

著者の川越宗一さんは、北海道旅行中に白老町のアイヌ民族博物館で、ブロニスワフの胸像を見たことをきっかけに、この物語を書こうと思ったらしいのですが、アイヌの人々とポーランド人が関わっていたなんて、知りもしませんでした。

アイヌについては、他の小説でも読んだことはありましたが、ポーランドという国については、ほぼ何も知らなかったのが恥ずかしいです(世界史より日本史派でしたし…)。

ポーランドと言えば、ショパン!(ピアノやってたので…)というイメージしかなく、チラっとその歴史について知っているくらいでした…。

ポーランドは歴史的にロシアと敵対関係にあり、反ロシア感情が強いのですね。


 

自分たちの力の及ばぬところで運命を翻弄される人々の話でしたが、読めば読むほど、なんだか胸にじーんとくるものがあるんですよ、この作品。

最初に読み終わった時は、「そっかそんな歴史があったんだ」くらいの熱量でサラッと読み終えた気がするんですよ。

でも、歴史とかがいろいろ頭に入ってからまた読み返してみると、なんだかもう胸いっぱいになるんですよ…。

今まさに起こっているロシアとウクライナの戦争にも、この物語が通じる気がしてきて、感動とは違う涙が出てくるというか。

やっぱり歴史を知ることって本当に大切だな、と感じますし、知らなければいけないことって、たくさんありますね。

小説を通してそういう問題を投げかけてくれる作家さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。

 

私はもちろんですが、普通に日本の本州で生まれ育った人って、この作品の登場人物みたいに、文化や言語を奪われるとか、アイデンティティを脅かされるとかそういう危機って、たぶん経験したことないと思うんですよね…。

(災害などで故郷を奪われるとか、土地を奪われるとかは別です。)

だから、この作品の登場人物たちのことを思うと、想像するしかありませんが、ものすごく悔しくて苦しくなりました。

ただそこで暮らしてる、っていうだけなのに、国家の勝手な戦争や紛争によって、突然「故郷」を奪われてしまう。

太郎治なんかは、和人とアイヌのハーフで、両親の祖国同士が戦争をしたわけで、そういう経験をしている人は世界中にいるのだろうけど、きっと胸が張り裂けるような想いなのだろうな…。

それに、先住民の人々が虐げられてきた歴史って、アイヌだけではなくて、世界中にたくさんあると思うけど、本当に傲慢なことでしかないな、と思いました。

 

この物語では、2人の主人公の「故郷」に対する想いが感じられる場面がたくさんありますが、どちらもかっこよかったですよ。2人とも強かったです。

大隈重信とこの2人がそれぞれ話す場面があり、人種や国家の優劣について意見を交換するのですが、その場面もすごく印象に残りました。

2人とも本当に素晴らしいことを言っています。

ブロニスワフは祖国ポーランドを暴力で奪い返すことを頑なに拒みましたが、そういう考えができる主導者が世界にたくさんいればいいのに…って思いました。

ちなみに、大隈重信の有名な語尾「~であるんである」がたびたび出てきて、その部分はちょっとクスっとしてしまいました。

 

最後に、北海道の白老村という所に「ウポポイ」というアイヌ文化の復興と発展のための施設が2020年にオープンされたばかりだそうです。

なかなか北海道に行く機会がないのが残念ですが、いつか行ってみたいですね~。

それと、アイヌと言えば、「ゴールデンカムイ」という漫画が人気だったりしますよね。

私は漫画はほぼ読まないので未読ですが、ゴールデンカムイファンの方もこの「熱源」を読んだりしているようで、より物語をイメージしやすいかもしれませんね。

著者紹介

 

1978年鹿児島県生まれ、大阪府出身。京都市在住。龍谷大学文学部史学科中退。
2018年『天地に燦たり』(文藝春秋)で第25回松本清張賞を受賞しデビュー。
短篇「海神の子」(「オール讀物」12月号掲載)が日本文藝家協会の選ぶ『時代小説 ザ・ベスト2019』(集英社文庫)に収録。
19年8月刊行の『熱源』(文藝春秋)で第10回山田風太郎賞候補、第9回本屋が選ぶ時代小説大賞受賞、第162回直木賞受賞。
出版社より引用

まとめ

川越宗一さんの「熱源」についてまとめました。

直木賞受賞も納得の「」のこもった壮大な作品でした!

川越さんの他の歴史小説もぜひ読んでみたいと思いました!!

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

こんにちは!

第168回直木賞受賞作である
千早茜さんの「しろがねの葉」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

直木賞候補作に選ばれたのを知り、読んでみたいと思いました。

直木賞受賞が決定する前に読めなかったのが残念ですが、思ったより早く図書館から借りることができました。


こんな人にオススメ

・歴史小説・時代小説が好きな人

・強い女性が主人公の作品が好きな人

・石見銀山に興味がある人

・話題作を読みたい人

・千早茜さんの作品が好きな人


「しろがねの葉」あらすじ

第168回直木賞受賞作
男たちは命を賭して穴を穿つ。
山に、私の躰の中に――

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山
天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。
しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。
生きることの官能を描き切った新境地にして渾身の大河長篇!

出版社より引用

担当編集者さんは、この作品について、こう語っています。

しろがねの葉とは、銀の眠る場所に生えるといわれるシダの葉のこと。本作は、シルバーラッシュに沸く戦国末期の石見銀山で、この葉を見つけた孤児の少女が送った劇的な生涯を艶やかな筆致で描いた長編小説です。
 10年以上前のこと、著者の千早さんは旅行に訪れた石見銀山で「銀山の女は三人の夫を持つ」という言葉と出会いました。過酷な採掘現場で働く男たちの短命さを表現したもので、これに触れた千早さんは、愛する男が自分よりも先に死ぬと分かっている世界で、女たちはなぜ生きることができたのか。いや、私だっていつか必ず死ぬのに、なぜ生きるのだろう。そんな根源的な「生」への問いを抱くようになり、やがて、運命に抗いながらも3人の男を見送っていく魅力的なヒロイン、ウメが誕生しました。
 この小説には「性」の薫りも濃厚に漂っています。「獣が睦み合うような交歓シーンを、抑えた筆致でいっそ淡々と書いているのが逆に色っぽかった」とは「波」2022年10月号に掲載された刊行記念対談での村山由佳さんの言。死の床にありながら最期までウメを求める夫・隼人の姿は、「生」と「性」が生き物を動かす両輪であることを鮮やかに見せてくれます。先ごろ、今期の直木賞候補作にも選出されました。私たちの中にあるはずの野性や本能をも揺さぶる快作です。

出版社より引用


この本のテーマ

ウメという女性の一生

天才山師・喜兵衛(きへえ)に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、男たちに混ざり女一人「間歩」で働きます。

夜目が利くというウメは、男たちにも負けぬ働きを見せ、重宝されるようになります。

しかし、成長するにしたがい、ウメは「間歩」に入ることを許されなくなってしまいます。

それは「女」であるがゆえのことであり、女であることによって、理不尽な仕打ちを受けることが出てくるのです。

「間歩」で働くことのできなくなったウメは、その後男たちを支える側になります。

そんなウメの人生を力強くまた艶やかに描いた作品です。

石見銀山の情景や過酷な環境

皆さん「間歩」(まぶ)という言葉はご存知でしたか?

私はこの作品で初めて知ったのですが、間歩=鉱山で鉱石を取るために掘った穴のこと、です。

明治時代以降は「坑道」と呼ばれているようですね。

この「間歩」の恐ろしい闇のような暗さや、銀山の過酷な労働環境、そこで働く男たちの過酷な人生が、とにかくありありとビシビシバシバシ伝わってくるような文章がとても印象的な作品です。

世界遺産にも登録されている「石見銀山」の風景が目に浮かぶような描写表現が、すごく味わい深いです。



印象に残ったフレーズ

印象に残ったフレーズを2つ紹介します!

女は男の庇護の許にしか無事でいられないのか。笑いがもれた。莫迦莫迦しい、好きになど生きられないではないか。

p176 ウメの言葉

男のように間歩で働き、銀掘になるのが当然だと思っていたウメですが、女として成長するうちに、それが無理なことだと理解し始めます。

男にどうしても力で劣る女は、男に守ってもらうしかないのか、葛藤します。

女だからという理由で諦めなければならないという理不尽さもわかるし、その反面、男に守ってほしいと思う狡い気持ちも、女性として共感しました。

生きる理が知りたかったからあの人についていったんでさ。どうせたった独りで死んでいくのに何故、生きるのか。

p284 ヨキの言葉

生きる理(ことわり)、という言葉が最後の方に何度か出てくるのですが、なぜだかこの言葉が頭から離れなくなりました。

独りで死んでいくとしても、人は人と関わらずには生きていけない生物ですよね。

それを教えてくれるような物語でした。



感想(ネタバレなし)

いやぁー、これは直木賞受賞も超納得の重厚で骨太な作品でした!

個人的な好みかもしれませんが、この作品と「地図と拳」が受賞したのは、めちゃくちゃ納得です!

どちらも私好みの歴史小説です。

「地図と拳」は題材が完全に好みだったのに対して、こちらの作品は時代的にそんなに興味のある時代ではなかったのですが、それでも同じくらいおもしろかったです。

歴史小説が苦手な方はちょっと抵抗があるかもしれませんが、この作品は歴史の知識は全く必要ないので、読みにくさもほぼ無く、チャレンジしやすいのではないかと思いました。

方言も出てきますが、難しいと感じた所は全くなかったです。

石見銀山に行ったことがないのですが、行ったことのある方なら、もっとこの物語を楽しめるのかな。

石見銀山、行きたいですねー。

元々島根県自体行ったことがなくて、ずっと行きたいと思っている県なんですが、さらに行ってみたくなりました。

この物語に出てくる「仙ノ山」や「温泉津」などの地名も実在しているし、地図で確認しながら読みました。

著者の千早さんは実際に現地に足を運んだそうですよ。

 

千早茜さんの作品は初めて読みましたが、文章が素敵ですね〜。

銀の眠る場所にあるという「しろがねの葉」をウメが見つけた時の描写も、「間歩」の描写も、映像を見ているかのように文章が生き生きとしていて美しいです。

文章が動き出しそうなくらい躍動感もあって、物語全体が映像として流れてくるような感じがしました。

 

また、風景の描写だけでなく、登場人物の描写も生き生きとしてて、個性が立っててよかったです。

ウメや喜兵衛、隼人といった主要メンバーはもちろんですが、ヨキや龍のような外国の血が入った人物がいたり、出雲の阿国と思われる巫女さんが出てきたり、ウメの恋敵の女郎が出てきたり…たくさん個性的な人物が登場します。

どの人物もちゃんと役割がしっかり与えられていて、読んでいて混乱しませんでした。

 

「人はなぜ生きるのか」「性と死を書きたい」という思いで、千早茜さんはこの物語を書いたそうなのですが、ウメという一人の女性の人生を通して、そういったテーマが問いかけられています。

間歩で働く男たちは鉱山病によって、30歳くらいまでには死んでしまうという過酷な環境で働いているのですが、誰一人そこで働くことをやめようとはしません。

この物語は、ウメの人生を通して見る男たちの人生の物語でもあり、欲望のまま生きる男たちの野生的な泥臭さが匂ってくるようでもありました。

早死にするとわかっている男たちを支える、ウメを始めとする女たちの生き様もまた、哀しさの中に逞しさや力強さが感じられました。

結局、女が子供を産まないと、世の中成り立っていかないっていうことは、女の方が強いってことなのかな、とか思ってもみたり。

それなのに力では男には絶対勝てないっていうのが、私も昔から感じているこの世の理不尽なところですね(笑)

 

最後の方は、悲しくて切なくて涙が出る場面もあり、読み終わった時の余韻がすごかったです…。

読み終わってから「しろがねの葉」の絵が描かれた表紙を見ると、さらに感慨深いものがありました。

歴史小説が苦手な方も、歴史小説というよりは恋愛小説のような感覚で読めるので、ぜひ読んでみてほしいですね!



著者紹介

1979(昭和54)年、北海道生れ。立命館大学卒業。幼少期をザンビアで過ごす。
2008(平成20)年、小説すばる新人賞を受賞した『魚神(いおがみ)』でデビュ一。2009年、同作にて泉鏡花文学賞、2013年、『あとかた』で島清恋愛文学賞、2021(令和3)年、『透明な夜の香り』で渡辺淳一文学賞を受賞した。
『あとかた』と2014年の『男ともだち』はそれぞれ直木賞候補となる。


出版社より引用



感想(ネタバレあり)

この舞台となった石見銀山では、「銀山の女は三人の夫を持つ」と言う言葉がありますが、実際、ウメも生涯に3人の男を愛した人生でした。

その中でも、最初に愛した喜兵衛に対する想いはものすごく深いものであり、隼人が嫉妬するほどのものでしたが、それは男性として愛したのでしょうか?

父親代わりのような存在だったのかな、と思って読んでいたのですが、父親でも恋人でもない超越した存在だったのでしょうか。

 

ウメは初潮が来るまでは、男社会で生きていくことを望んでいましたが、それを理解してからの人生もまた過酷なものでした。

自分より先に夫も息子も死んでいってしまうことがわかっている生活なんて、辛くて仕方ないですよね…。

それでも誰もその生活から逃れようとはしないのでしょうか。

銀掘という職業や銀山への強い想いがそうさせるのでしょうか。

ウメと男たちのやり取りが印象的な物語ではありましたが、隼人をめぐる夕鶴とのちょっとした口喧嘩や、おくにやおとよなどの女たちとのやり取りも、また愛嬌があって好きでした。

ウメも隼人もモテていいなぁとか、龍とすぐ結ばれすぎじゃないの?とか、どうでもいい感想も持ってしまいましたが(笑)、最後は何とも余韻がすごくて、もっともっとウメやウメの周りの人たちの物語を読みたい気持ちになりました。

ウメはどのような最期を迎えたのでしょうか。



まとめ

千早茜さんの「しろがねの葉」についてまとめました。

直木賞受賞も納得の作品でした。

千早茜さんの他の作品を読んだことがないので、読んでみたくなりました!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!




こんにちは!

小川哲さんの「地図と拳」についてまとめます!
第168回直木賞を受賞しました!!
小川さん、おめでとうございます!!


この本を読んだきっかけ

直木賞の候補作に選ばれたということで、読まなきゃと思いました。

また、この時代の歴史に興味があるので、読みたいと思いました。


こんな人にオススメ

  • 戦争を題材とした小説が好きな人
  • 歴史小説が好きな人
  • 「地政学」「建築学」に興味がある人
  • 小川哲さんの作品が好きな人


「地図と拳」あらすじ

【第168回直木賞候補作】
【第13回山田風太郎賞受賞作】

「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」
日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。
叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野……。
奉天の東にある〈李家鎮〉へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。

ひとつの都市が現われ、そして消えた。
日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。
日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。

出版社より引用


この本の特徴やテーマ

日露戦争〜第二次世界大戦時の満州の様子がわかる

この作品は、日露戦争前夜〜第二次世界大戦の頃の満州が舞台となった、歴史×SF小説です。

満州の李家鎮という架空の村が舞台となっていますが、史実に基づいて書かれている部分も多いので、その頃の満州の様子が伝わってくるようです。

日本にとって、満州がどのような土地であったか、どんな役割を担っていたか、どのような過程で満州国建国に至ったのか、架空の登場人物を通じて描かれています。


「地図」と「拳」とは何を意味するか

この本のタイトル、「地図と拳」の「地図」と「拳」とは何を意味するのか。

簡単に言ってしまうと、「地図」=「国家」を、「拳」=「戦争」を意味しています。

なぜ「拳」=「戦争」はなくならないのか。

その答えは「地図」にあると、ある登場人物は言います。

詳しく述べてしまうと面白くないので、どういう意味なのかは、読んで確かめてください!

また、「地図」がどのようにしてできたのか、「地図」が持つ役割とは何かなど、地図について様々なことを知ることができます

昔の人が地図をどう作ってきたのか、地図の作成をめぐる逸話などもたくさん出てきます。

「地図」についてこんなにいろいろと考えたことも知ることもなかったので、とても興味深かったです。


登場人物のキャラが濃い!

一部、歴史の出来事を説明する部分に、実在した人物の名前が出てきますが、それ以外は架空の人物の物語となっています。

主な登場人物の何人かの視点で話は展開していきますが、その人物たちはみな個性的でキャラが濃いです。

主人公も何人かいて、いろんな人物の視点で語られるので、「あれ、これ誰だっけ?」とならないようなキャラ作りがされてるのかな、と思いました。

孫悟空と名乗る人物の修行の場面などは、漫画を読んでいるような感じがして、とても面白かったです。

「万能計測器」と呼ばれる明男という人物も主人公の一人ですが、なかなかキャラが濃いです。


感想

まず、なぜこの作品を読もうと思ったかというと、直木賞候補に選ばれたのはもちろんですが、この時代の歴史が学生時代から好きだったんですよね。

歴史好きな人って、戦国時代とか武士の時代が好きだったり、平安時代が好きだったりすると思うのですが、私はそういう時代にはあんまり興味がなくて。

たぶん現実主義なところがあるので、昔の話は想像する部分が多すぎて興味がわかないんですよね。

1900年代からのことって、ちゃんと事実が記録として残ってることが大半だと思うので、想像しやすいですよね。

それから、どうして日本が戦争をすることになったのか、どうして世界全体で戦争なんてしてたのか、そういうことも知りたいです。

今からそんなに昔じゃない時代に、日本が戦争をしてたなんて、なんか信じられないなぁと思ってて。

今でも、海の向こうでは戦争が起こってるし、日本も戦争の影響を引きずってるところも多々ありますが…。


 

それから、浅田次郎さんの「蒼穹の昴」シリーズが大好きなんですが、それと似た感じの作品なのかな?という興味もあって、読んでみたというのもあります。

「蒼穹の昴」は実在した人物について、浅田さんの解釈で物語を書いているのに対して(架空の人物も出てきます)、この作品は実在の人物はほぼ出てこないので、似ているようで似てないのですが、どちらも史実を基にしている点では共通しています。

参考文献の多さから、かなり研究されて書かれたことがわかります。

参考文献だけで、8ページあるんですよ!すごくないですか?

本の厚さにもびっくりしましたが、それにもめちゃくちゃびっくりしました。

この作品は歴史SF小説なので、あえて実在の都市や事件を、名前を変えて登場させているようですね。

 

とにかくこの時代に興味があるので、この作品もよかったですね〜好きですね〜。

「蒼穹の昴」シリーズもまた読み返したくなりました。

それから、第二次世界大戦中のことを書いているという点で「同志少女よ、敵を撃て」も読みたくなりました。

主人が買って読んでいたのですが、私はまだ読んでいなくて…。

 

この作品、「このミステリーがすごい!2023年版」で第9位に入っているらしいのですが、ミステリーかな?という疑問がありますね…。

ロシア人が作ったとされる地図に書き込まれた「青龍島」という小さな島が実在するのか?という謎を追うというテーマはあるのですが、その謎が解けたところで、ミステリー的解決ではないのでね…。

ミステリーを期待して読むのはちょっと…と思います。

 

この作品、とにかく勉強になることが多かったですね。

歴史についてはもちろん、地政学や建築学、気象学、人類学、言葉の語源、言葉の意味、とにかく多方面の知識が詰め込まれています。

ちょっとした哲学書みたいな印象もありましたね。

「土」の使い道もこの作品のテーマの一つだと思うのですが、なかなか深かったです。

「人体の設計」についての記述も面白かったですね〜。人体はめちゃくちゃ非効率な構造をしているらしいです。

その非効率な構造をしているからこそ、「服」と「家」ができたとか、面白いですよね〜。

 

戦争については、どうこう言えるほどの知識もないし、考えがあるわけではないので、大したことは言えないのですが、この作品にはいろんな考えを持つ人物が登場するので、どれか一つの考えに傾かないように、すごく俯瞰的に戦争を視ていると感じました。

軍国主義に傾いていった人も、戦争に負けると予想して何をすべきか考えた人も、何が正しいか分からなくなってしまった人も…。

著者の小川さんもインタビューで、フラットな視点で書いたようなことをおっしゃっていますね。

小川さんの視点は、細川の視点に近いようですが。

細川というのは、この物語で最初から最後まで登場する一番の主人公と言ってもいい人物ですが、「戦争構造学」という学問を通して、日本が負けることを見通していた人物です。

私たちが読むと、戦争に負けることはわかっているので、細川の視点に近くなるのは当然かもしれないですね。

戦時中にも細川のように日本が負ける未来を見通していた人はいたのかな。

細川が立ち上げた「戦争構造学研究所」のような機関が実際にあったようなので、もしかしたら日本の将来を見通していた人もいたのかもしれないですね。

 

一番印象に残ったのは、細川が「地図と拳」という講演をした場面です。

この作品のタイトルにもなっているので、当然インパクトのある場面にはなっていると思うのですが、ちょっと感動してしまいました。

「地図と拳」の両面から日本の未来を考えた細川ですが、いくら考えても軍人の心には響かないし、戦場では無意味だと悟ることになります。

もしこの時代に生きていたら、軍国主義に傾いていくことも仕方なかったのかもしれないとか、この物語の登場人物を通して考えてしまいました。

海の向こうで戦争が起こっている今、この作品を読んで、いろいろ考えるべきかもしれません。

小川哲さんの「君のクイズ」という作品も読んだのですが、これがまためちゃくちゃ面白かったので、小川さんにも注目していきたいと思っています。


著者紹介

 

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。
2015年に『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。
『ゲームの王国』(2017年)が第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。
『嘘と正典』(2019年)で第162回直木三十五賞候補となる。


出版社より引用


まとめ

小川哲さんの「地図と拳」についてまとめました。

戦争小説や歴史小説が苦手な人にはオススメできませんが、興味のある人にとってはとても面白い作品だと思います。

直木賞受賞なるか、注目です!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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