本のむし子

40代主婦の読書日記ブログです。読んだ本の感想などを気ままに書いていきます。

ミステリー


こんにちは!

薬丸岳さんの新刊「最後の祈り」について詳しくまとめます!



この本を読んだきっかけ

大好きな作家さんなので、新刊は買うと決めています!
 前作の「罪の境界」のサイン本がけっこう出回ってて、あー欲しかったーと後悔していたので、今回はサイン本狙いで、無事ゲットしました!!
人生初のサイン本なんですよ~嬉しい!!


こんな人にオススメ

・社会派ミステリーが好きな人 
・人間ドラマに焦点を当てたミステリーが好きな人 
・「教誨」「教誨師」について知りたい人 
・薬丸岳さんのファンの人


「最後の祈り」あらすじ

殺人犯と、娘を殺された父。 死刑執行を前に、 命懸けの対話が始まる。
娘を殺した男がすぐ目の前にいる。
贖罪や反省の思いなど微塵も窺えないふてぶてしい態度で。

東京に住む保阪宗佑は、娘を暴漢に殺された。
妊娠中だった娘を含む四人を惨殺し、死刑判決に「サンキュー」と高笑いした犯人。
牧師である宗佑は、受刑者の精神的救済をする教誨師として犯人と対面できないかと模索する。
今までは人を救うために祈ってきたのに、犯人を地獄へ突き落としたい。
煩悶する宗佑と、罪の意識のかけらもない犯人。
死刑執行の日が迫るなか、二人の対話が始まる。動機なき殺人の闇に迫る、重厚な人間ドラマの書き手・薬丸岳の新たな到達点。

出版社より引用


著者・編集者のコメント

著者 薬丸岳さんのコメントはこちら!

「死刑になりたいから人を殺した」
「誰でもいいから人を殺したかった」
世間で無敵の人と呼ばれる凶悪犯には心がないのか。
いや、そんなはずはないという祈りを込めました。
ぼくの作品の中で最も重く苦しい物語です。どうか覚悟してお読みください。

楽天ブックスより引用


担当編集者のコメントはこちら!

「罪を憎んで人を憎まず」と言いますが、実際に愛する人を殺されたら、そうすることはできるのでしょうか? 
この究極の問いを突き付けられるのは、牧師であり、無償で受刑者の精神的救済もしてきた主人公・宗佑です。
品行方正に生きてきたのではなく、過去に犯した罪の罪悪感に苦しんできた宗佑。
自分が救われたように、人々を救いたいという強い気持ちを持って真摯に仕事に取り組んできた彼が、何よりも大事にしてきた娘を惨殺されたらーー。
復讐という動機で犯人に接する宗佑に湧きおこる、まさかの感情。
犯人と、彼をこの世で一番憎んでいる宗佑との対話。
重いテーマではありますが、読む人の心を揺さぶる傑作です。ぜひご一読ください。

楽天ブックスより引用


この本で描かれていること

「教誨師」「刑務官」の仕事の過酷さ

「刑務官」という職業は知っている方が多いかと思いますが、「教誨師」という仕事については、この作品を読んで初めて聞いた方もいるかもしれません。
「教誨」とは 、受刑者等が改善更生し、社会に復帰することを支援する仕事です。
 「教誨師」とは教誨を行う者のことで、 無報酬で、多くの場合、僧侶や牧師など宗教家が、その役割を担います。
受刑者が死刑囚の場合、教誨師は、拘置所で死刑囚と面談できる唯一の民間人となります。
この作品は、教誨師の保阪宗佑と刑務官の小泉直也が語り手となる部分が多いので、彼らの心情が細かく描かれているのですが、その仕事の大変さや過酷さがひしひしと伝わってきます。
精神面ですごく大変な仕事だと思います。
ちなみに、柚月裕子さんの「教誨」という作品の記事でも紹介しましたが、私が教誨師のことを知るきっかけになった本があります。
実際の教誨師の方への取材をもとにしたノンフィクション作品ですが、半世紀にわたり、教誨師として生きた一人の僧侶の人生を通して、教誨師という仕事について書かれた作品です。
もし、興味があれば、読んでみて下さい。

この作品に出てくる教誨師さんもそうなのですが、アル中になってしまったりと、普通の精神状態ではいられないほどの仕事であることがわかります。  

贖罪の在り方

ここ最近の薬丸さんの作品は「贖罪」をテーマにしたものが多いと感じています。
前作の「罪の境界」や、昨年夏に文庫化された「告解」も、贖罪がテーマの一つになっていましたが、今作も贖罪の在り方がテーマの一つであるかな、と思いました。
この作品に出てくる犯人は、罪の意識を全く持っていないのですが、教誨師の保阪と対話することによって、意識が変わり、罪の意識を感じるようになるのでしょうか。
また、詳しくは書けませんが、教誨師の保阪もある過去の過ちに対して罪の意識を持っています。
彼もまた、自分の罪とどう向き合うか悩んでいるのです。


感想(ネタバレなし)

前作の「罪の境界」が発売されたのが昨年の12月だったので、ずいぶん早く新刊が出るなぁ~と喜んでいたのですが、「小説 野生時代」という文芸誌に2020年11月から連載されていた作品のようですね。
さすがに文芸誌の連載まではチェックし切れてなかった…。
最近の薬丸作品は、加害者や被害者に視点を当てて、その人物たちの心情を丁寧に描いた人間ドラマが多いですね。
なので、最近の作品は少し似ている感じもしますが、重いテーマを扱っているにも関わらず、スラスラ読めてしまうのが薬丸作品です。
薬丸さんファンなので、いつも贔屓目の評価になってしまっているかもしれませんが、今作もまた重厚な人間ドラマになっていて、私は好きですねー。 読み終わって、涙が出ました。
教誨師の保阪は、自分の娘を殺した加害者の石原に復讐しようと決意し、彼の教誨をするのですが、その中でかなり葛藤することになります。
全く関係のない人物の教誨をするだけでも、普通の精神状態ではいられないほどなのに、自分の娘を殺した人物と向き合うわけですからね…。
読んでいても、苦しくなる場面がすごく多かったです。
物語が進む中で、石原の育った境遇や生い立ちが徐々にわかってくるんですが、薬丸さんの作品を読むと、加害者にもいろんな事情があって、つい同情して許してしまいたくなるんですよね。
実際に自分が被害者側の立場になったら、絶対に同情なんてしないし、絶対に許せないとは思うんだけど…。
教誨を通して、石原がだんだん保阪に信頼を寄せるようになっていくのですが、保阪もそれを感じているので、なおさら葛藤することになるんですが、そこがまた読んでいて辛かったです。
刑務官の小泉の視点から語られる部分も多かったのですが、死刑に立ち会うことの精神的苦痛は、本当に想像できないものであると思いました。
自分が人を殺してしまったという罪悪感をずっと持つことになると言います。
いくら仕事とはいえ、平気で人を殺せるわけはないですよね。
教誨師も刑務官もよほど精神力が強い人でないと、かなり難しい仕事なのではないでしょうか…。  
薬丸さんはこの作品を「ぼくの作品の中で最も重く苦しい物語」だと言っていますが、確かに終始重苦しい場面が続き、明るさを感じる場面はほぼ無いかもしれません。
登場人物がみんな重たいものを抱えている人ばかりですしね。
薬丸作品は基本的に重いので、この作品が最も重く苦しいかと言われるとわかりませんが…。
刑務所や拘置所が舞台なので、閉塞感みたいなものもあり、なおさら重苦しく感じるのかもしれません。
薬丸作品に慣れている人は大丈夫だとは思いますが、初めて読む人やあまり読んだことがない人は、覚悟して読んだ方がいいかもしれません…。
薬丸さんのこういった作品はもちろん好きなのですが、犯人は誰?この話どう展開するのー?みたいなハラハラするようなミステリーも、また書いてほしいなぁとも思います。  


著者紹介

1969年兵庫県明石市生まれ。駒澤大学高等学校卒業。2005年、『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。連続ドラマ化された刑事・夏目信人シリーズ、『友罪』『ガーディアン』『告解』など多数の作品を意欲的に発表している。
出版社より引用



感想(ネタバレあり)

ここからはネタバレありの感想を書いていきますので、まだ読んでいない方は注意してください!!

 
 

保阪の過去の過ちがまたけっこうな過ちでしたね…。
それは一生かけて償わないといけないと感じるのも無理ないですね。
真里亜が、石原の教誨をすることによって復讐できないかと、保阪に持ちかけるわけですが、それはちょっと強引じゃないかとは思いました。
自分が復讐する方法がないからといって、教誨師という仕事の辛さを知っていたら、なかなか頼めることではないんじゃないかな…と。
でもその復讐計画がないと、物語が成り立たないか…。
裁判で死刑が確定しても何もすっきりしない、というのは当然あるとは思いますが、死刑になるその瞬間まで復讐したいと思うものなのか、私には想像できません。
保阪は石原の教誨をするにつれて、石原のことを許したいと思うようになったり、やっぱり許せるわけないと思ったり、心境が揺れまくったと思います。
石原の死刑執行がもう少し後だったら、もっと他の心情が芽生えていたのかな。
石原にもっと反省する態度が見えてきていたら、どうだったのかな…。
最後、石原なりの贖罪の形がわかって、なんだかやるせなかったですね。
死刑執行の場面から最後は、読むのが本当に辛かったです。
読み終わって涙が出ましたが、何の涙かと言われると説明が難しいです。
何ともやるせないというか悔しいというか。
石原の生い立ちのせいでこんな事件が起こってしまったのだとしたら、彼にもし違う人生があったら、こんな事件は起こらなかったのかな、と思ってしまいますよね。
保阪も、教誨を通して、石原に「死にたくない」と思わせることができたのは少しでも復讐ができた、と捉えているようですが、きっと今後も一生どこかすっきりしない思いを抱えて生きていくのではないでしょうか。
保阪は、優里亜のことも由亜のことも、石原のことも、どれもすっきりしないままですよね。辛すぎますね…。
読者視点では、最後に保阪が石原に「わたしが許した…」と言ったのを聞いて、何となく救われた気にはなりましたが、これからの保阪の人生を思うと、なんとも救いがないというか…。  
この作品について書評家さんが、「なぜ裁判でも証言しなかった由亜の最期の言葉を、石原は宗佑に伝えたのか? その真相は作中で直接的には記されていないのだが、おそらくこうであろうと行間から感じ取ることになった瞬間、戦慄した。」と書いているのですが、皆さん行間から読み取れましたか?
私は、ただ単純に、石原が姉の遥と接したことによって、由亜の最期の言葉を誰かに伝えないといけないと感じたからかな?と思ったのですが、もっと他に理由があるのでしょうか?
石原が、由亜の父親が保阪であると知っていた、とかでしょうか?
私はそれは知らないんじゃないかと思ったんですけど、どうなんでしょうか?
誰かどういうことかわかったら、教えてくださーい!


まとめ

薬丸岳さんの最新刊「最後の祈り」についてまとめました。 薬丸さんらしく重くて苦しい物語でしたが、登場人物の心情が細かく描かれていて、素晴らしい作品だと思います。 ぜひ、読んでみてください!!


最後までお読みいただき、ありがとうございました!





小西マサテルさんの「名探偵のままでいて」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

『このミステリーがすごい!』大賞に選ばれた作品なので、目にすることが多く、評価も高そうだったので、読んでみようと思いました。

ちなみに、『このミステリーがすごい!』は、『このミス』と呼ばれ、1988年から『別冊宝島』(宝島社)で発行されている、ミステリー小説のブック・ランキングのことです。

2002年からは新人作家の作品を募集した『このミステリーがすごい!』大賞が創設されました。

この作品は、第21回大賞受賞作です。


こんな人にオススメ

・ミステリー短編集が好きな人

・探偵ものが好きな人

・古典ミステリーが好きな人

・『このミステリーがすごい!』大賞に注目している人


「名探偵のままでいて」あらすじ

第21回『このミステリーがすごい!』大賞 大賞受賞作

「認知症の老人」が「名探偵」たりうるのか? 孫娘の持ち込む様々な「謎」に挑む老人。日々の出来事の果てにある真相とは――?
認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、不可能犯罪に対する名推理を披露する連作ミステリー!


<あらすじ>
かつて小学校の校長だった切れ者の祖父は、71歳となった現在、幻視や記憶障害といった症状の現れるレビー小体型認知症を患い、介護を受けながら暮らしていた。
しかし、小学校教師である孫娘の楓が、身の回りで生じた謎について話して聞かせると、祖父の知性は生き生きと働きを取り戻すのだった!

そんななか、やがて楓の人生に関わる重大な事件が……。


出版社より引用


この本の特徴

安楽椅子探偵の祖父がカッコいい!

レビー小体型認知症を患っている祖父が、安楽椅子探偵として活躍する物語ですが、「レビー小体型認知症」という認知症について初めて知りました。

レビー小体型認知症とは…

病床期から視空間認知障害、問題解決能力の低下などの「認知機能障害」のほか、現実にないものが見える「幻視」、身体の動作が遅くなる、転びやすいなどの「パーキンソン症状」、睡眠時に激しい体動や大声を出すなどの「レム睡眠行動異常症」などが特徴の病気です。

中でも「幻視」が見えるということが最大の特徴だそうで、この物語の祖父も数々の「幻視」を見ています。

ちなみに、「安楽椅子探偵」という言葉にも馴染みのない方がいるかもしれないので、一応補足説明をしますね。
 

安楽椅子探偵とは…

現場に赴くなどして自ら能動的に情報を収集することはせずに、室内にいたままで、来訪者や新聞記事などから与えられた情報のみを頼りに事件を推理する探偵、のことです。
 

この安楽椅子探偵の祖父が大活躍する物語なんですが、
めちゃくちゃカッコいいんです!

小学校の校長を務めていた聡明な男性で、長身で鼻が高く、孫の楓が「モテたんだろうな」と言っていることからも、さきっと見た目も中身も素敵な祖父なのだろうと想像できます!


古典ミステリ好きにはたまらない!

この作品は、古典ミステリのオマージュ的作品であり、たくさんの古典ミステリが出てきます

アガサ・クリスティやディクスン・カーなどの超有名作家はさすがにわかりましたが、全く知らない作家や作品名もたくさん出てきました。

私があまり古典ミステリや海外ミステリに詳しくないのもありますが…。

そういうジャンルに詳しい人が読めば、もっとこの作品を楽しめると思います!


恋愛要素もあり!

この作品は、連作ミステリ短編集ですが、楓の恋愛についても描かれているので、恋愛小説としても楽しめるものとなっています。

ミステリに恋愛要素が入るのが、好きな人もそうでない人もいるかとは思いますが、私はけっこうこの作品の恋愛要素は好きです。


感想(ネタバレなし)

私はこの作品、評判通りけっこう楽しめました。

感涙ものだという評判もチラホラ見かけていましたが、ほろっと涙が出る場面もありました。

最後は余韻がすごかったです。

6章から成る連作短編集で、長めの章があったり、短めの章があったり、いろんな話が楽しめるのですが、祖父の名探偵ぶりが本当にすごくて、めっちゃカッコよかったです!

一つの事件に対して、二つの推理をしてみせたり、その推理を「幻視」として見て、あたかも本物の場面を見ているかのように語ってみせるのですが、推理をしている時は頭がキレッキレになるんですよね。

その時の楓と祖父の間の、温かい空気感が何とも心地よく感じました。

「名探偵のままでいて」というタイトルも、楓の切な願いを表していて、読後にまたこのタイトルを見ると、じーんとしてしまいました。

最初の方は、普通のミステリ短編集だなーという感じだったのですが、段々と登場人物が増えてくるにしたがって、楓の恋愛ストーリーも絡んできて、どんどん面白くなってきた感じがしました。

楓と祖父以外の登場人物も個性があって、私は好きでした。

楓に直接関わってくる事件が起こるわけですが、その中で明らかにされることがあったり、後半はハラハラする場面あり、びっくりする場面ありで、かなり面白く読めました。

ミステリなんだけど、読後は優しい気持ちになるような温かい作品でした。

トリックに無理がある、というような口コミもチラホラ見かけましたが、私はあまりトリックにはこだわりがない派なので、全然気にならなかったです。

著者の小西マサテルさんは、作家としては新人ですが、放送作家をずっとされてる方なので、全くの新人という感じでは無いのかもしれません。

この作品、映像向けな作品という印象があり、そのうちドラマ化されそうな気もしますね。

そして、楓の恋の行方なども気になるので、続編に期待したいですね。

それにしても、著者のミステリ愛がすごいです。いろんな古典作品が出てきましたが、私は全くその方面には知識がないので残念でした。

阿津川辰海さんの作品を読んだ時に、阿津川さんのミステリ愛にびっくりしたのを思い出しました。

でも、古典ミステリとか、海外ミステリとか、どうも興味がわかないんだよなぁ…。


著者紹介

1965年生まれ。香川県高松市出身、東京都在住。明治大学在学中より放送作家として活躍。
第21回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、本作にてデビュー。
2022年現在、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』『徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー』『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン.TV@J:COM』『明石家さんま オールニッポン お願い!リクエスト』や単独ライブ『南原清隆のつれづれ発表会』などのメイン構成を担当。


出版社より引用


まとめ

小西マサテルさんの「名探偵のままでいて」についてまとめました。

楓と祖父のやりとりが温かくて、優しい気持ちになる作品だと思います。

今後の活躍にも期待できる作家さんではないでしょうか!
 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!




4月から天海祐希さん主演でドラマが始まる
柚月裕子さんの「合理的にあり得ない」の原作について
まとめていきます!!


この本を読んだきっかけ

4月からドラマ化されると聞いて、原作を先に読みたい!と思い、慌てて借りてきました。

柚月裕子さんは好きな作家さんですが、この作品は未読でした…。

こんな人にオススメ

  • ミステリー短編集が好きな人
  • 探偵ものが好きな人
  • 男女のバディものが好きな人
  • 柚月裕子さんの作品が好きな人

「合理的にあり得ない」あらすじ

出版社によるあらすじ紹介

法より節義に報いたい。 
危うい依頼は美貌の元弁護士がケリつけます!

『孤狼の血』『慈雨』『盤上の向日葵』著者の鮮烈ミステリー!!

上水流涼子は弁護士資格を剥奪された後、頭脳明晰な貴山を助手に探偵エージェンシーを運営。
金使いが荒くなった妻に疑念を抱く夫、賭け将棋で必勝を期すヤクザ、野球賭博絡みのトラブルetc。
欲に塗れた人物たちの難題を涼子は知略と美貌を武器に解決するが……。
著者の魅力全開、極上痛快エンターテインメント

出版社より引用

上水流涼子は「かみづるりょうこ」と読みます!
珍しい苗字ですよね!


あらすじを詳しく紹介!

この小説はつの章からなっています。

あらすじをもっと詳しく見ていきましょう!!

確率的にあり得ない

〔登場人物〕
◯本藤仁志(ほんどう ひとし)…藤請建設の二代目経営者。先代と同じくらい器が大きく、社員にも秘書の大輔にも優しいが、決断力に欠けるところがある。

◯新井大輔(あらい だいすけ)…本藤の秘書。

◯高円寺裕也(こうえんじ ゆうや)…高円寺総合研究所の所長で、経営コンサルタント。

ある日、本藤は行きつけのクラブで、ママの紹介により高円寺と出会います。

高円寺には特別な力があり、未来を見通す力があるのだと言います。

それを証明してもらうため、本藤は自宅に高円寺を招きます。

そこで、高円寺は本藤の前で奇跡ともいえるその力を本当に見せます。

本藤は高円寺をすっかり信じるようになり、高額なアドバイス料を支払い、会社が重大な決断をしなければならない時に、高円寺に意見を聞くようになります。

高円寺の予言は毎回的中し、本藤は高円寺にはまり込んでいきますが、秘書の大輔は高円寺のことを信用してはいませんでした。

高円寺総合研究所を藤請建設の正式な経営コンサルティング会社とすることになり、契約料として5000万円を支払うことになったのですが…。

高円寺の未来を見通す力は本当のものなのかーー。

合理的にあり得ない

〔登場人物〕
〇神崎恭一郎(かんざき きょういちろう)…バブル期に多額の資産を手に入れた資産家。

○朱美…恭一郎の妻。

○克哉…恭一郎と朱美の息子。いじめに遭ってから引きこもっている。

神崎恭一郎は悠々自適な暮らしを送っていますが、最近妻の朱美が外出することがやけに増え、その行動に不信感を持っています。

いじめが原因で引きこもりとなってしまった息子の克也を身守る為に、朱美が外出することはこれまではほぼなかったのです。

ある時、神崎は銀行からの連絡により、朱美が神崎に内緒で多額の預金を銀行から引き出していることを知ります。

神崎は朱美を問い詰めると、朱美はある霊能力者のところに通い、幸運になれるという皿や壺などを購入する代金に使ったと言います。

神崎はその霊能力者を詐欺師だと思い、興信所に正体を突き止めるよう依頼します。

その霊能力者は綾小路緋美子という女性でした。

その霊能力者の正体は一体ーー。

彼女が朱美に近付いた真の目的とはーー。

戦術的にあり得ない

〔登場人物〕
〇日野…関東幸甚一家という暴力団の総長。将棋が趣味で、アマチュア四段クラスの実力を持つ。

〇財前…横山一家という暴力団の総長。

涼子と貴山のもとに、暴力団の総長である日野から依頼がありました。

日野は二年前から横山一家の総長・財前と将棋をするようになり、二人の実力は五分五分で拮抗していました。

ところがある時から財前の腕が見違えるほど上達し、日野は連敗してしまいます。

日野は財前が何か不正をしていると考えます。

次の勝負は一億円を賭けていて、その対局で勝負を終わりにするつもりだと言い、なんとしても勝つ方法を考えてほしい、という依頼でした。

貴山は実は東大の将棋部の主将を務めていたほどの実力者であり、勝つ方法を考えます。

果たして財前は不正を行っていたのかーー。

日野は最後の勝負に勝つことはできるのかーー。

心情的にあり得ない

〔登場人物〕
〇諌間慶介(げんま けいすけ)…海運や造船業で名の知れた諌間グループの会長。

〇久美…諌間の孫娘。大学2年生。

◯広瀬智哉(ひろせ ともや)…久美が貢いでいると思われる男。

◯丹波勝利(たんば かつとし)…組織犯罪対策課に勤める古参刑事で、薬物銃器対策係の主任。

涼子は諌間から、いなくなってしまった孫娘の久美を探し出してほしい、という依頼を受けます。

ある時期から、久美はサークル活動に費用がかかると嘘をつき、母親にお金をねだっていましたが、その金額と頻度が大きくなってきたため、父親と母親は何に使っているのか問い詰めました。

久美が本当のことを言わないため、興信所を使って、久美の身辺を調べさせます。

すると、久美は広瀬というホストあがりの男にはまり、多額のお金を貢いでいるようでした。

父親は広瀬に手切れ金を渡し、関係を終わらせますが、その後、久美は失踪してしまいます。

広瀬もまた、姿をくらませてしまいました。

実は、諌間は涼子な弁護士資格を剥奪された原因となった人物なのです。

そんな憎むべき人物からの依頼を受けることを貴山は反対しますが、涼子は依頼を受けます。

久美と広瀬を見つけることはできるのかーー。

涼子が弁護士資格を剥奪された理由は何だったのかーー。

涼子と貴山の過去も明かされるので、そこにも注目です。

心理的にあり得ない

〔登場人物〕
〇桜井由梨…父を自殺で亡くした。野球賭博に手を出して騙されたのではないかと疑っている。

〇予土屋昌文(よどや まさふみ)…野球賭博に関わっている。

桜井由梨は、父親が3年前に多額の借金を残して自殺した原因が、野球賭博で誰かに騙されたのではないかと考え、涼子に父の無念を晴らしたいと依頼してきます。

遺品の手帳には、予土屋という男の名前と電話番号が残されていました。

貴山は予土屋を騙すための計画を立てます。

貴山の立てた計画はうまくいくのかーー。

予土屋はどうなるのかーー。

この本のテーマや特徴

痛快爽快な話が5つ!

5つの章からなる短編集ですが、どれも勧善懲悪ものの話で、スカッとする内容となっています。

どんでん返しや巧妙なトリックが楽しめるようなミステリーではないですが、素直な感じのミステリーとなっています。

涼子と貴山がどう「悪」を懲らしめるのか、要注目です。

涼子と貴山のコンビがいい!

この2人のコンビがとてもいい感じで、まさにドラマ向きです!

涼子はその美貌と頭脳を活かし、「殺し」と「傷害」以外は引き受けるというスタンスで、次々と依頼をこなしていきます。

空手の黒帯を持っていて、体を張った仕事をすることもあるようです。

貴山は東大卒でIQ140という並外れた頭脳を持ち、実務能力も非常に高く、顧客の依頼に対しては彼の能力が発揮される場面が多いです。

男女のバディものが好きな人にはかなりおすすめです!


感想

これは、ドラマにぴったり!!という作品でしたねー!!

いろんな方の感想を読んでいたら、「これはドラマ化されそう」という感想がいくつもありましたが、それも納得でした!

その感想を書いた方たち、ズバリ当てましたねー、すごい!

キャストを知ってしまってから読んだので、完全に天海祐希さんと松下洸平さんのイメージで読んでしまいましたが、涼子は原作では30代となっていますね…。

天海祐希さん、御年55歳!なんですか…。かなりお若く見えるのでアリとしましょうか…。

年齢を無視すれば、天海さん、キャラ的にはピッタリだと思います。

もし天海さんと松下さんというキャストを知らずに読んだら、誰をイメージしてたかな。涼子は菜々緒さんとかどうでしょうか(笑)

他のキャストも誰がやるのか、今からちょっと予想しておこうかな。

ドラマの話はさておき、この作品は柚月裕子さんの作品を何冊か読んできた印象からすると、かなり軽いタッチで読みやすさ抜群ですね。

柚月さんといえば、けっこう重い作品が多いですからね。

こんな軽いタッチの作品も書くんだなぁ、と思いました。

ただ将棋をテーマにした話がありましたが、「盤上の向日葵」という長編作品が将棋をテーマにしていたので、そこからの知識を活かしたのかな、と思いました。

柚月さんは、長編作品を書くときにかなりそのテーマを深く研究されているイメージがあるので、知識量が半端なさそうな印象があります。

そんな印象なので、この作品はちょっと物足りなく感じてしまう人も多いかもしれませんね。

柚月さん自身はこの作品のことを「思いっきり楽しんで書きました!」とおっしゃっているので、サラッと楽しむには最高の一冊と言えると思います。

個人的に物足りなかったのが、貴山の活躍がすごすぎて、涼子の活躍があまり見られなかったのが残念だったかな、という点です。

涼子が体を張る場面も出てきましたが、基本的には貴山の頭脳に頼りすぎな感じがありました…。

日刊ゲンダイで続編が連載されていたようなので、その続編もドラマでやりそうな気がしますね。

ドラマ開始にあわせて、書籍化もするでしょうか。

刑事の丹波が続編にも登場していて、ちょっとした準主役的な役割を担っていそうなので、キャストが気になりますね〜。

これはいろいろ続報が期待できて楽しみですね!

著者紹介

1968年、岩手県生まれ。2008年、『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。2013年に『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、2016年に『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。他の著書に『最後の証人』『あしたの君へ』『慈雨』『盤上の向日葵』『検事の信義』『暴虎の牙』などがある。

出版社より引用


まとめ

柚月裕子さんの「合理的にあり得ない」について、詳しくまとめました!

2023年4月からドラマが始まるので、原作を先に読みたい!という方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


長浦京さんの「プリンシパル」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

『このミステリーがすごい!2023年版』でも第5位にランクインしていたり、Twitterで時々見かけたりして、注目していました。

また、戦後史に少し興味があったので、読んでみることにしました。

こんな人にオススメ

・ヤクザもの、任侠ものの話が好きな人

・強い女性が主人公の物語が好きな人

・戦後史や歴史小説が好きな人

・話題の本が読みたい人

・長浦京さんのファンの人

「プリンシパル」あらすじ

1945年、東京。大物極道である父の死により、突如、その「代行」役となることを余儀なくされた綾女。大物議員が巡らす陥穽。GHQの暗躍。覇権を目論む極道者たちの瘴気……。綾女が辿る、鮮血に彩られた謀略と闘争の遍歴は、やがて、戦後日本の闇をも呑み込む、漆黒の終局へと突き進む! 脳天撃ち抜く怒濤の犯罪巨編、堂々開幕。

出版社より引用

物語は、終戦の日、水嶽綾女(みたけあやめ)が教師をしていた疎開先の長野から帰京するところで幕が開きます。

その夜、危篤だった父・玄太は亡くなり、綾女は未だ戦地にいる兄たちの代わりに喪主を務めるように言われるが、彼女は引き受け付けるつもりはありませんでした。

しかしその夜、彼女は水嶽組が隠匿する食糧・軍需物資を狙う敵対勢力の襲撃にあい、綾女が宿としていた青池家が襲撃を受けてしまいます。

青池家の人々は、綾女を必死で匿い、綾女の幼馴染の修造とその嫁以外は拷問の末に殺されてしまいます。

綾女は青池家の惨状を目の当たりにして、激しい怒りや憎しみを感じ復讐を誓い、水嶽組の跡を継ぐことを決心するのです。


本のタイトル「プリンシパル」は、
長、支配者、社長、主役」という意味です!

本の表紙にバレリーナのような女性が載っていて、バレエ団の最高位のダンサーのことを「プリンシパル」と呼びますが、この物語は全くバレエとは関係ありません!!

本の表紙だけを見て、バレエの話かな…と思って買う人もいそう…。

この本のテーマや特徴

綾女の成長物語

青池家にされたことに対しての復讐心から、水嶽組を継ぐと決めた綾女は、命を張って水嶽商事の会長兼社長代行をやると宣言します。

結果を出せなければ命を差し出す、とも。

自分たちを襲った者には容赦のない報復措置を取り、身内に敵対勢力への内通者がいたことを知った時も容赦なく報復していきます。

その方法がまたすごいんですよね。

読んでもらえばわかりますが、なかなかにエグいです。容赦ないです。

彼女に流れた「血」のせいなのか、組を守るという目的だけではなく、彼女自身の命を守るためにそこまで残酷にならざるを得なかったのか…。

彼女は「ヒロポン」を常用していたのですが、その影響もあるんでしょうか…。


ヒロポン
は商品名で、薬名はメタンフェタミンといいます。
いわゆる覚醒剤、スピード、あるいは警察や暴力団用語でいうシャブとまったく同じドラッグです。

ヒロポンは薬局で誰でも買えたそうですね…。

戦後日本の様子がわかる!

著者の長浦京さん曰く「基本的に僕は、まさかと思うような史実や事実を元に話を作るタイプ」とのことなので、この物語はノンフィクションに近い物語なのかもしれません。

敗戦後、日本は7年間にわたりアメリカ主力の連合国軍の占領下に置かれ、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が日本政府を通じて支配する間接統治でした。

日本の警察はほぼ機能しておらず、治安を維持していたり、食糧難に喘ぐ人々を救った闇市を取り仕切っていたのがヤクザであったと言われています。

この物語では、水嶽組と旗山市太郎吉野繁実といった大物政治家やGHQとの密接な関係が書かれており、いかに大きな影響力を持っていたかがわかります。

旗山市太郎、吉野繁実とは、鳩山〇郎氏と吉〇茂氏のことであると思われますね。

また、水嶽組はギャンブルや芸能興行の世界にも幅を利かせていくのですが、その中で、綾女は美波ひかりというスター歌手と関わることになります。

美波ひかりは、美〇ひばりさんがモデルとなっています。

物語を通して、戦後日本の様子を垣間見ることのできる作品となっています。


感想(ネタバレなし)

ヤクザものといえば『セーラー服と機関銃』や『ごくせん』を思い浮かべる人が多いようですが、私はどちらも読んだことも観たこともないので、比べることはできないのですが、それよりは『ゴッドファーザー』に近いようですね。

すみません、『ゴッドファーザー』も観たことないんです(汗)あの有名な曲は思い浮かぶんですけど(笑)

それほど、こういうジャンルには興味がなくて…。

ヤクザと言って最近思い出すのは、好きな俳優さんでもある鈴木亮平さんが『孤狼の血 LEVEL2』で演じていたのを思い出しますが、好きな俳優さんが出ていても観ようとは思わないくらいの、興味のないジャンルなんです…。

別に怖いのが苦手とか、血が苦手とか、強がりを言ってるわけじゃないんですよ?ただ興味がないのです。

なので、この作品もそういうジャンルの作品だと知ってて読んだとはいえ、失敗したかな~と思ってしまったのですが、ところがどっこい!めちゃくちゃ面白かったですねー!!

あらすじに書いたのですが、最初の青池家の人たちが惨殺されてしまう場面の描写からエグイ!グロイ!ので、うわー!と思ったのですが、その後も最後までそんな感じが続くのでした。

このエグさグロさは、直木賞を受賞した『テスカトリポカ』以来でしたよ。

あちらは、メキシコの麻薬密売人の話ですが。

史実が既に劇的なので、物語部分は極力シンプルを心がけた」と著者の長浦さんはおっしゃっていますが、物語部分のエグさグロさ、すごかったですよー!?

シンプルにエグいということでしょうか(笑)何度、を見たことでしょう…。

血、血、血ーーでした。

 

最初は復讐のために仕方なく組を継ぐことにした綾女ですが、徐々に彼女に流れる「血」のせいかどんどん残忍な女性になっていくのが、哀しくも恐ろしいものがありました。

その残忍さを恐ろしいと思いつつ、少し爽快でカッコいいと思ってしまったのですが、さすがに容赦なく殺しすぎですよね。

いくら何でも…と思う場面が多かったです。

とは言え、私は強い女性が好きで、このヒロインの綾女もけっこう好きなので、この物語を楽しめたのかもしれないですけど、綾女にあまりいい印象が持てないと、この作品も楽しめないかもしれないな、と思いました。

 

政治家や芸能人は誰をモデルにしているかわかりやすいけど、この綾女や水嶽組は誰をモデルにしているか、少し調べた感じではわからないんですよね。

実在のモデルがいるんでしょうか?

物語の中では、東の水嶽組、西の竹岡組、となっていて、西の竹岡組はあの暴力団のことだろうとわかるのですが。

旗山と吉野のモデルとなった2人の大物政治家や美波ひかりのモデルとなった歌手については、少し調べてみましたが、実際にもこの物語のような感じだったのかなぁ〜と、とても興味深かったです。

政治家や芸能界とヤクザの関係は実際にもこんな感じだったのでしょうかね。というか今もですかね?

その辺りのことも学べたので、読んでよかったです。

あ、そういえば、「このミステリーがすごい」にライクインしているようですが、ミステリー的な要素はそんなになかった感じもします。

まぁ、あると言えばあるんですが、ミステリーを期待して読む作品ではないかと思います…。


著者紹介

1967年埼玉県生まれ。法政大学経営学部卒業後、出版社勤務を経て、放送作家に。
その後、闘病生活を送り、退院後に初めて書き上げた『赤刃』で2011年に第6回小説現代長編新人賞、2017年『リボルバー・リリー』で第19回大藪春彦賞を受賞する。
2019年『マーダーズ』で第73回日本推理作家協会賞候補、第2回細谷正充賞を受賞。2021年『アンダードッグス』では第164回直木賞候補、第74回日本推理作家協会賞候補となる。
他の作品に『アキレウスの背中』がある。


出版社より引用

感想(ネタバレあり)

ここからは、ネタバレを含む感想を書いていきますので、未読の方は気を付けてくださいね!!

 
 


この物語の終わり方ですが、個人的には、まぁーそうなるよねー、と納得の終わり方でした。

そんなに上手く行くはずがないですもんね。

きっと復讐されて終わるんじゃないかな…と予想していました。

ただ、兄の桂次郎は綾女を恨むような関係性じゃなかったよね?と思ったんですが、読み落としてますかね…。

その他の人物は綾女を恨んでいた人物ばかりだけど。

でも、綾女もやっぱり強いですねー。やられっぱなしではなくて、由結子にやり返すのがまた見事でした。

そして、最後の最後まで、この世への未練を残し、「生きたい」と「生」への強い想いを持っているのが、綾女らしいと思いました。

こんな凄惨な人生を送ってきてもなお、生きることに執着するのはすごいですよね。

何度も殺される覚悟をして、死んでもいいと思っていたはずなのに。

最後は誰が撃たれたんでしょう。

この先、水嶽商事はどうなっていくんでしょうか。知りたいですね。

なんとなくですが…、カリスマ的存在の綾女がいないと水嶽商事は上手く機能しないような気がしますね。

 

それから、途中まで綾女は青池家の人々の亡霊を見ていたのですが、彼らは綾女の活動を応援していたのでしょうか?

途中から見なくなったということは、綾女が充分一人でも活動できる自信みたいなものが付いたからでしょうか。

ヒロポンのせいで幻覚でも見てたのかな?とも思いましたが…。

 

また、ラスボス的存在の熊川万理江ですが、なかなか手強かったですね。

さすがの綾女もお手上げかと思いました。

最後の殺し合いの場面も凄まじかったですね。

それにしても、登場人物みんな悪者ばっかりでしたね!

一人くらい良心的な存在がいれば救われたのですが、誰もいない(笑)

美波ひかりのスター的存在感が物語を輝かせるものであったことくらいでしょうか。

長浦さんの筆力がすごいからおもしろかっただけで、こういうジャンルをおもしろいと感じるかどうかは、まだ未知数かもしれません。

ヤクザという親近感を感じにくいヒロインの物語であり、普段読まないジャンルの作品ということで、薄っぺらい感想になってしまい、申し訳ないです(汗)

まとめ

長浦京さんの「プリンシパル」についてまとめました。

ゴリゴリのヤクザものでしたが、めちゃくちゃおもしろかったです!

こういうジャンルも評価が高いものは、避けずに読んでいこうと思いました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!



柚月裕子さんの「教誨」について詳しくまとめます!



この本を読んだきっかけ

柚月裕子さんの作品は今までにいくつか読んだことがあり、好きな作品が多いので、新刊が出たら絶対に読もうと決めていました。


こんな人にオススメ

・社会派ミステリーが好きな人

・重めのミステリーが好きな人

・「教誨」や「教誨師」について知りたい人

・柚月裕子さんのファンの人


「教誨」あらすじ

女性死刑囚の心に迫る本格的長編犯罪小説!
幼女二人を殺害した女性死刑囚が最期に遺した言葉――
「約束は守ったよ、褒めて」

 吉沢香純と母の静江は、遠縁の死刑囚三原響子から身柄引受人に指名され、刑の執行後に東京拘置所で遺骨と遺品を受け取った。
響子は十年前、我が子も含む女児二人を殺めたとされた。
香純は、響子の遺骨を三原家の墓におさめてもらうため、菩提寺がある青森県相野町を単身訪れる。
香純は、響子が最期に遺した言葉の真意を探るため、事件を知る関係者と面会を重ねてゆく。
 


出版社より引用

著書の柚月裕子さんは、この作品について、こう語っています。

「自分の作品のなかで、犯罪というものを一番掘り下げた作品です。
執筆中、辛くてなんども書けなくなりました。
こんなに苦しかった作品ははじめてです。
響子が交わした約束とはなんだったのか、香純と一緒に追いかけてください」


出版社より引用


「教誨」とは

教誨」や「教誨師」という言葉を、この作品を読んで初めて聞いた方もいるかもしれません。

「教誨」とは 、受刑者等が改善更生し、社会に復帰することを支援する仕事です。

「教誨師」とは教誨を行う者のことで、 無報酬で、多くの場合、僧侶や牧師など宗教家が、その役割を担います。

受刑者が死刑囚の場合、教誨師は、拘置所で死刑囚と面談できる唯一の民間人となります。

私が教誨師のことを知るきっかけになったのが、数年前に読んだ下記の本なのですが、実際の教誨師の方への取材をもとにしたノンフィクション作品です。

柚月裕子さんのこの作品の中でも、参考文献として記載されています。

半世紀にわたり、教誨師として生きた一人の僧侶の人生を通して、教誨師という仕事について書かれた作品です。

もし、柚月裕子さんのこの作品を読んで、教誨師についてもっと詳しく知りたいと思った方がいれば、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。



この本のテーマ

女性死刑囚の人生と遺した言葉の意味

遠縁の女性死刑囚である三原響子の身柄引受人に指名された吉沢香純は、響子が最期に遺した言葉―「約束は守ったよ、褒めて」という言葉の意味を探して、響子の人生を追うことになります。

香純は子供の頃に一度響子に会っただけなので、響子について、ほぼ何も知らないのです。

響子はなぜ我が子を含む女児二人を殺害したのか、また最期に遺した言葉の真意は何なのか、事件を知る関係者と面会を重ねていきます。

関係者と話していくうちに、響子の人生が見えてきて、最期の言葉の意味もわかってきます。

一体真実は何なのか、きっと気になって一気読みしてしまうことでしょう。

 

地方や田舎の閉塞感

地方や田舎の閉鎖的な環境について書かれた作品は、今までにもけっこう読んできましたが、この作品でも田舎特有の雰囲気がリアルに書かれています。

町の人みんなが同じ情報を共有していて連体感があると言えば聞こえはいいですが、一歩間違えるとみんなから弾き出されてしまうような環境は恐ろしいですよね。

田舎って今でもそういう閉鎖的な所が多いのでしょうか…。



印象に残ったフレーズ

印象に残ったフレーズを2つ紹介します!

「ケンカってのは味方がいないとできないんだ。独りで挑んでいっても、返り討ちにあっちまう」

p198 釜淵の言葉

味方がいないケンカは、もはやケンカじゃないですよね。

それはいじめというのではないでしょうか。

「誰もが目に見えるものだけで決めつけて、その裏にある事情なんて考えもしない。目に見えないものにこそ、大事なことが詰まっているのにさ」

p238 スナックコスモスのママの言葉

こういう事件のことに限らず、何事も表面だけ見て決めつけてしまいがちですが、いろんなことを想像しないといけないな、とはいつも思っています。


著者紹介

1968年岩手県生まれ。
2008年、『臨床真理』が第7回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞を受賞し デビュー。
2013年、『検事の本懐』が第15回大藪春彦賞を受賞。
2016年『孤狼の血』が第69回日本推理作家協会賞を受賞(長編及び連作短編集部門 )。第154回直木賞候補。
2018年、『盤上の向日葵』が本屋大賞第2位。
2022年、『ミカエルの鼓動』が第166回直木賞候補。


紀伊國屋書店サイトより引用


感想(ネタバレあり)

響子が交わした約束が何か、誰と交わした約束だったのか、それが気になって一気読みでした。

柚月さんの作品は読みやすいので、スラスラ読めてしまいます。

この作品は「秋田児童連続殺害事件」をモチーフにしていると思われ、事件の内容も受刑者の境遇や生い立ちなどもよく似ているので、どうしてもその事件と重ねて読んでしまいました…。

でも、この作品はフィクションなので、その事件の真相とは別なのだとは思います…。

 

最後に明らかになった響子が遺した言葉の意味ですが、ちょっとこれは肩透かし的な感じがしましたが…何にしてもとてもやるせない物語ですね。

どうにかならなかったのかな…って読んでる方は簡単に言えますけど、当事者はどうにもできないから、こんな哀しい事件が起こってしまったんですよね。

全てが悪い方向に向かってしまったような話で、本当にやるせない話でした。

 

この作品も言ってしまえば「毒親」ものに分類されるのでしょうか。

最近そんなテーマの作品を読みすぎているせいか、めちゃくちゃ心が動かされることはなかったのですが、これもやっぱり少し響子に同情してしまいそうになりますね。

決して殺人を犯した人の味方をするわけではないですが、やっぱり親の呪縛とか環境の影響っていうのは大きいですよね。

この物語も響子の母親の千枝子がもう少し響子のことを考えてあげてたら違ってたかな、とは思うんですが、千枝子も嫁として夫の健一に逆らえず、響子の味方についてあげられないような状況だったわけで、簡単な話ではないですね。

そこに、田舎特有の地主と小作人の結婚という事情も加わって、いろんな面でがんじがらめな状態です。

ただ、響子も千枝子も健一のことを怖がっていたにしても、千枝子が響子のことをもっと肯定して育ててあげてほしかったです。

響子が自分のことを否定してばかりになってしまい、愛理のことを育てる上でも、健一に叱られないように育てなきゃと考え、愛理がちゃんと躾ができてないのも全部自分のせいにしてしまうところが、気の毒でした。

それでも、響子は千枝子のことを全く責めない、というのも、毒親育ちあるあるだな、と思いました。

育児ノイローゼか鬱病か、精神的に普通の状態でなかった響子は、「あの子がいなかったら、あんたもこんなに苦しまなかったのかね。可哀そうだね」という千枝子の言葉を聞いて、どこか張り詰めていた糸がプツンと切れてしまったような感じだったのかもしれないですね…。

こんなこと親が子供に言ってしまったら絶対ダメでしょう。

「可哀そう」なんて親が子供に言っていい言葉じゃないですよ。

それから、厳しく育てるということと、否定して育てるということは全く別物だし、とにかく、子供のことは否定しないように肯定して育てたい、という気持ちがまた大きくなりました。

私も親に褒められた記憶がないんですよね。否定された記憶はけっこうあるんですけど…。

親以外に褒めてくれる存在が外の世界にあったからなんとかやってこれたかな、という想いはずっと私の中にもあります。

 

スナックのママさんがかなりまともな考えの持ち主だったので、響子がこのママのもとでもっと働けていたら、支えてくれるような存在だったのかもしれないな…と思いました。

このママさんの言葉、ずっしりとくる言葉が多かったです。

 

故郷に帰りたい、という想いは、こんなに嫌な思い出がある場合でも、そんなに強いものなんでしょうか?

そんな閉塞感のある場所で育って、いい思い出なんて全然ないのに、それでも故郷に帰りたいと願うものなんでしょうか…。

母と同じお墓に入りたいと思う気持ちは分からなくもないですが…。


 

また、「教誨」というタイトルから、もう少し教誨師とのやり取りなどが記述されているのかな?と想像していましたが、そんなになかったですね…。

もう少し響子と教誨師のやり取りの部分があってもよかったかな、とは思いました。

響子が教誨師とどのような会話を交わしたのか、もう少し知りたかったですね。

 

それにしても、昨年から毒親がテーマの作品を読みすぎているので、もうそろそろ卒業しようかな、と思うようになってきました(笑)

ただ、毒親とか親ガチャとかが社会問題になっているので、そういったテーマの作品が増えてるんでしょうね。

まだまだ出会ってしまいそうな気もしますが…。

毒親や親ガチャがテーマのものをもっと読みたい!という方は、これまでの記事をぜひ参考にして下さい。

「八月の母」「レッドクローバー」「イオカステの揺籃」「母性」「光のとこにいてね」など、たくさん書いていますので…。



まとめ

柚月裕子さんの「教誨」についてまとめました。

柚月裕子さんの文章は読みやすく、自然と引き込まれてしまいます。

今後出る作品も過去の作品も、たくさん読んでいきたいと思っています。
 

最後までお読みいただき、ありがとうございました!



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