本のむし子

40代主婦の読書日記ブログです。読んだ本の感想などを気ままに書いていきます。

2022年12月


瀬尾まいこさんの
掬えば手には」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

瀬尾まいこさんの作品をいくつか読んできて、好きな作品が多かったので、この作品も読みたいと思いました。


こんな人にオススメ

  • ほっこりしたい人
  • 優しい気持ちになりたい人
  • 人との関わり方について考えたい人
  • 高校生・大学生くらいの若い人
  • 瀬尾まいこさんの作品が好きな人

「掬えば手には」あらすじ


ちょっぴりつらい今日の向こうは、光と音があふれてる。

『幸福な食卓』本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』に連なる、究極に優しい物語

私は、ぼくは、どうして生まれてきたんだろう?

大学生の梨木匠は平凡なことがずっと悩みだったが、中学3年のときに、エスパーのように人の心を読めるという特殊な能力に気づいた。
ところが、バイト先で出会った常盤さんは、匠に心を開いてくれない。常盤さんは辛い秘密を抱えていたのだった。
だれもが涙せずにはいられない、切なく暖かい物語。

出版社より引用

この本の特徴やテーマ

「平凡」とか「普通」って?

主人公の梨木は、自分が「平凡」であることを悩んでいます。

勉強も運動も何もかもが「普通」で特徴ゼロ、どの集団にいてもちょうどど真ん中平均値だと、自分のことを評価しています。

そんな梨木ですが、中学3年生の時に「他人の心を読める能力」があるかもしれない、と気付きます。

その能力を活かして、いろいろな人と上手く付き合い、「人たらしだ」と言われるくらい他人に好かれるのですが、新しくバイトに入ってきた常盤さんだけは、梨木に心を開いてくれないのです。

梨木には「他人の心を読める能力」なんてなくて、本当に「平凡」な人だったのでしょうか?

そもそも「平凡」とか「普通」な人って何? 特別な能力がないといけないの?

そんなことを問いかけてくる作品です。


ファンタジー要素とミステリー要素あり!

ネタバレになるので詳しくは書けませんが、梨木は常盤さんに出会って少し経った頃から、ある特殊なことができるようになります。

それが、常盤さんの辛い秘密にも関わってくるのですが、ファンタジーでもあり、ほんの少しミステリーでもあります。

常盤さんの秘密は何なのか、読んでいる途中でわかる方も多いかもしれませんが、最後にどうなるのか、ぜひ読んで確かめてみてください!


心に残ったフレーズ

特に印象的だったフレーズを紹介します!

「思いつくこと何でもしてみたら?空回りでも同情でも的外れでも、なんとかしたいって気持ちは、間違いじゃないんだから」

p80 河野さんの言葉

やらずに後悔するなら、やって後悔した方がいい、ってことですよね。

梨木が常盤さんのことをなんとかしてあげたいって思う気持ちについて、友達の河野さんが言った言葉ですが、なかなか清々しいなって思いました。

でも、相手に嫌がられたり、拒絶される可能性もあるから、実際に行動するのは難しいですよね…。


名前なんてなんだっていい。そんなの記号のようなものだと言う人もいるけど、ぼくは自分の名前が重かった。誰かの思いが込もっている言葉は、どうしてもそこに意味がついてしまう。

p173 梨木の言葉

これは親の立場で読むと、複雑ですね…。

我が子たちも、自分の名前が重いと感じる日が来ないだろうか…と心配になってしまいました。

いろんな思いを込めて付けましたが…。そんな日が来ないことを願います。 


感想(ネタバレなし)

瀬尾まいこさんの作品はいくつか読んだことがあり、面白くてほっこりするものが多かったので、きっとこの作品も!と期待して、2022年の締めの一冊にしました。

今までに読んだ瀬尾さんの作品で、悪人と出会ったことがないのですが、悪人が出てくる作品もあるのでしょうか?

この作品も悪い人が出てこなくて、ほっこりして温かい気持ちになりました。

私の苦手なファンタジー要素が少し入っていましたが、それでも好きだなぁと思える作品でした。

この作品を一年の終わりの作品に選んで正解でした!


 

登場人物、みんな個性があって、みんな好きでしたが、梨木がバイトしてるオムライス店の大竹店長がナイスキャラでしたね〜。

パワハラ全開の店長なんて、一緒には絶対働きたくないですけどね。

でも、嫌な人に見せといて実はいい人、みたいなのって、架空の世界ではありがちだけど、実生活でもまぁありますもんね。

梨木は倍ほどの歳の大竹にも人たらしを活かして打ち解けたのがすごいですね。

私がパートで働いたとして、大竹店長と上手くやっていけるかな?って変な想像してしまいましたよ。


 

河野さんも香山もみんな若いって感じがしてよかったなぁ〜。

おばさんが読むと、みんなキラキラして眩しく感じるくらいでした(笑)

これは、ぜひ高校生・大学生(中学生でもいけるかな?)若い方に読んでもらいたいな、と思いました。

自分には何の取り柄もないとか、自分って何でこんな平凡なんだろうとか、悩んでる若者ってけっこう多いと思うんですけど、ぜひそういう方に読んでもらいたいです。

「単純明快に暗いところゼロで十代をやり過ごしているやつなんていないもんな」っていうセリフが出てくるんですけど、それはほんとそうだと思いました。

若い人の方が悩みに敏感なんですよね。

思春期前後の人が読んだら、きっとけっこう刺さると思います。


 

瀬尾まいこさん、映画も大ヒットした『そして、バトンは渡された』など読みましたが、今のところハズレなしです!

あまり話題にはなりませんが、個人的に『戸村飯店 青春100連発』が大好きなんですよね。

まだまだたくさん他の作品も読んでいきたいです!


著者紹介

1974年、大阪府生まれ。大谷女子大学文学部国文学科卒。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』で作家デビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、08年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。『あと少し、もう少し』『春、戻る』『傑作はまだ』『夜明けのすべて』『その扉をたたく音』『夏の体温』など著書多数。唯一無二の、爽やかで感動的な作風が愛されている。


出版社より引用

感想(ネタバレあり)

ここからは、ネタバレを含む感想を書いていきますので、未読の方は気を付けてください!!



 

 

 

梨木の「他人の心を読める能力」は、結局エスパーでも神様でもなくて、彼がただただ人に寄り添う能力が高い、ということだと思うのですが、もうそれは素晴らしい能力だと思いました。

彼は自分が「平凡」だと思い込んでるけど、「人たらし」と呼ばれて、どんな人とも上手く付き合えて、ってかなりの才能だと思います。

人の気持ちを読み取り過ぎるから彼女と長く付き合えないとか、大変な面もあるようですが、それは歳をとるごとに上手くできていくようになればいいな、と思いました。

人の気持ちを読んで、良い方向にしかその能力を使わないのが、また彼らしいし、もし人の気持ちが読めても、なかなかどうにかしようとは思わないですしね。

人のために動けるめちゃくちゃ温かい人で、こんな友達いたらいいなぁって思うような魅力的な主人公でした。

お節介といえばお節介ですけどね。


 

でも、なぜか、一番近くにいる河野さんの気持ちは読めないのが、面白いですよねー。

気付かないフリをしてるのかと思ったら、本当に気付いてなさそう(笑)

河野さん、このままでいいのかなーって心配になっちゃいました。

 

途中から、常盤さんから声が聞こえてくるというファンタジーな展開になりましたが、その声の持ち主、言われてみればすぐ気付きそうなのに、気付かず読みました。

気付いたっていうレビューもチラホラ見たので、まだまだ読み込みが浅かったです(笑)

常盤さん、元の明るい常盤さんに戻れそうな終わり方だったけど、秋音の存在を知って余計に悲しくなってしまわないのかな、とも思いました。

お腹にいた子が明るくて元気な子だったと分かったら、産みたかったなぁとか、そんな子を堕ろしてしまったんだ…とか、思い返してしまうこともあるかも…と思ってしまって、少し常盤さんのことが心配になりました。


 

それから、初回限定の「アフターデイ」という後日譚が付いてたんですが、これが大竹店長目線のストーリーでまたよかったです。

大竹店長、嫌なやつかと思ったら、案外ちゃんと人のことを見ていて、気配りもできて、なんか損してるなーと思いましたが、梨木と出会ってよかったですよね。

親子みたいな感じで、読んでいてとても微笑ましかったです。

梨木が就職しちゃったら、大竹店長めちゃくちゃ寂しがりそう。

オムライス店の社員になっちゃえばいいのに、とか思っちゃいました。


 

それから、この本のテーマでもある「平凡」ということについてですが、「平凡」とか「普通」の人なんていないんだよ、というメッセージを私は受け取りました。

どんな人でも誰かにとっては特別な存在だし、誰かにとって何者でもない人なんて、世の中には1人もいないんだよな、っていう。

私も誰かの特別な存在になってたらいいな、と思いました。

そして、梨木のように、人に寄り添えるような気持ちを少しでも持つようにしよう、と思います。


まとめ

安定の瀬尾ワールドで、ほっこり温かい気持ちになれる作品でした。

優しい気持ちになりたい時は、瀬尾まいこさんの作品を読もうかな、と改めて思いました。


2022年最後の投稿になります!
来年もよろしくお願いします!



寺地はるなさんの
川のほとりに立つ者は」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

寺地はるなさんの作品をいくつか読んできて、好きな作品が多かったので、この新刊も読みたいと思いました。


こんな人にオススメ

  • 「普通」や「正しさ」について考えたい人
  • 人との関わり方について考えたい人
  • 寺地はるなさんの作品が好きな人

「川のほとりに立つ者は」あらすじ


カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

出版社より引用

この本の特徴やテーマ

「普通」や「正しさ」とは何か

寺地はるなさんの作品は、「普通」とは何なのか、ということを問いかけているものが多いように感じます。

自分の中の「普通」や「正しさ」を基準にしてしまっていないか?

その基準を人にも当てはめようとしていないか?

そんなことを問いかけてくる作品が多い印象ですが、この作品もそういった問いかけがより鋭く描かれているように感じました。


ちょっとミステリー仕立て!

この作品は、寺地はるなさんの作品には珍しく、ちょっとしたミステリー仕立ての展開となっています。

なぜ恋人とその親友は歩道橋から転落したのか、恋人が隠している真実とは何なのか、気になってどんどん読み進めたくなること間違いなしです。

寺地さん自身がミステリー風にしようと思ったのかはわかりませんが、私は「寺地さん、ミステリーっぽいのも書くんだ!」と少し興奮しましたよ(笑)

小説の中の小説も気になる!

この物語は、外国文学の『夜の底の川』という架空の小説の文章から始まります。

その小説の人物が「あなたはわたしのことを、どれだけ知っている?」と問いかける場面があり、清瀬が自分は恋人の松木について何をどれだけ知っているのだろう、と問いかける様子と重なります。

『夜の底の川』の話が頻繁に出てくるわけではないですが、この2つの小説がリンクしているところもあります。

「川のほとりに立つ者は」という本のタイトルも、この『夜の底の川』の一節に由来しています。

『夜の底の川』という作品も少し読むだけでも興味深くて、もっと読んでみたいと思うような作品でした。


心に残ったフレーズ

特に印象的だったフレーズを紹介します!

親というものはときどき平気な顔で、人前で自分の子どもを貶す。謙遜のつもりなのだろうか。自分の子どもを自分の一部みたいに思っているのかもしれない。

p83 松木の言葉

これねー、わかります…。

育児本とか読むと、子どものことを下げるようなことを言うのはダメ、って書いてありますよね。

特に子どもがそばにいる時には

家では褒めていたとしても、外で貶すようなことを言うと、子どもは「え、褒めてくれてたのに違うの?家で言ってることと違うじゃん」って思ってしまう、と。

自分のことを謙遜するのとは違うんですよね。

これは親として気を付けないといけないことだと思います。


誰もが同じことを同じようにできるわけではないのに、「ちゃんと」しているか、していないか、どうして言い切れるのか。(中略)まじめでがんばり屋。でもたまにその長所はそのまま、他人への狭量さという短所に変わってしまう。

p143 松木の言葉

これもわかりますねー。

まじめでがんばり屋の人って、相手にもそれを求めてしまうところがありますよねぇ…。

自分がこれだけ頑張ってるのに、どうしてみんなは頑張ってくれないの!とか、何でもっとちゃんとできないの!とか、つい思ってしまうんですよね…。

はい、思い当たるところバッチリありますね…すみません、自分でまじめでがんばり屋だと言いたくはないのですが、どちらかと言うとそちら側の人間です(笑)


「ほんとうの自分とか、そんな確固たるもん、誰も持ってないもん。いい部分と悪い部分がその時のコンディションによって濃くなったり薄くなったりするだけで」

p161 篠ちゃんの言葉

これはほんとに人間誰でもそうだと思います。

調子良い時は他人にも寛容になれたり、優しくなれるけど、調子悪い時は自分のことで精一杯で他人のことなんて考える余裕無くて…。

きっとみんなそんな感じで生きてますよね。

人の一面だけ見るのではなく、いろんな面を見ることが大切だと思います。

感想(ネタバレなし)

寺地はるなさんの作品は、たまーに合わないものがあるんですが、この作品はすごく好きです。

私は主人公の清瀬に少し似てるかもしれない、と思いました。

清瀬よりは凝り固まってはないと思うんですが、他人に対して度量が狭いところなんかは似てますねぇ…汗

自分の「普通」を他人にも当てはまってしまったり、求めてしまったり、良くないことなのは自覚してるんですが…。

自分の当たり前は人の当たり前ではないということをよく理解して、他人やいろいろな物事を自分の当たり前で決めつけないようにしよう、と改めて思わされる作品でした。

世の中には白か黒かハッキリしたものばかりじゃなくて、グレーのものもあるし、どちらかというとグレーのものばかりなんだろうな、とも思います。

この物語にも出てきたけど、発達障害についても、グレーゾーンの人がたくさんいるんだろうし、発達障害といっても同じような特徴の人ばかりじゃないし、どんなことでも一括りにできるわけじゃないですよね。


「多様性」という言葉がよく聞かれる時代なので、最近そういうテーマの作品もよく読みますが、どういうスタンスで他人と接したらいいのか、考えれば考えるほど、わからなくなってきました…。

他人を傷付けないように、ってことばかり気にしてたら、当たり障りのないことしか言えないし、誰とも一歩進んだ付き合いができないような気もしてしまう。

かと言って、あなたのことを理解してますよ、みたいなスタンスでいるのも良くないと思う。

人との接し方って、ほんとに難しいですね…。

こういう作品を読んでいろいろ考えてはいますが、正解はないというか…。

いろんなことを想像することが大切、ということをとにかく覚えておいたらいいのかな…。


 

清瀬も考えが堅いところはあるけど、決して気遣いや気配りができないわけではないんですよね。

物語の中でいろんな気づきを得て成長していく姿が頼もしく感じました。

寺地さんの作品って、嫌な感じで終わる作品をまだ読んだことがない気がします。

この作品も、最後はほっとするというか、ちゃんと救いがある感じで終わるので、読後感は良かったです。

それにしても、寺地さんの作品は、人間のいいところも悪いところも、強いところも弱いところも、たくさん見せてくれるから、共感したりハッとさせられたり、恥ずかしくなったり、感情を揺さぶられますね。


著者紹介

1977年、佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞し、同作でデビュー。
21年、『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。
著書に『夜が暗いとはかぎらない』『どうしてわたしはあの子じゃないの』『声の在りか』『ガラスの海を渡る舟』『カレーの時間』などがある。


amazonより引用

感想(ネタバレあり)

読後感は良かったのですが、うーん、天音のことがどうしても好きじゃないし許せないと思った私は、やっぱり考え方が堅いんでしょうか…。

そこだけがモヤモヤしました…。

「あんたが男を利用せずに生きていけるのは、あんたがわたしより優れてるからじゃない、ただ運がよかっただけ」みたいなことを天音が言うんですけど、じゃあ運が悪かったら男とか他人を利用していいってこと?って、心の中で反論してしまいましたよ…。

でも、清瀬の友達の篠ちゃんは、天音の言うことが少しわかる気がするって言うし、清瀬も天音に寄り添おうとする態度を見せるんですよね。

私ならきっと天音みたいな人は許せないし拒絶してしまうだろうなぁ、と思うんです。

寄り添って拒絶されてもなお「天音さんがこれから迎える明日が、よい日であり続けますように」と願う清瀬のようにはなれそうな気がしないけど、そうした方がいいのか?それもわからないです。

好きな人や大切な人に「明日がよい日でありますように」と願うことはできるけど…。

いろいろ考えさせられる作品ですね。

他人の境遇を想像できたとしても、寄り添うことが正解なのか、寄り添おうとするのもただの傲慢じゃないのか、とかね…。


 

松木と松木の親との関係を読んで、子どもとの接し方についても、決めつけや思い込みなどには本当に気をつけないといけないな、と感じました。

学校で何か悪さしたからといってすぐに乱暴者と決めつけたり、自分の子どもの言うことを信用しなかったり、そういうことのないように、子どもの言うことや意見にちゃんと向き合いたいと思いました。


 

それから、松木といっちゃんの関係性がほんとにいいですよね。

「六年間の思い出」の文章、感動しました。

六年間いろんなことがあったと思うのに、1年生の時のいっちゃんの言葉や態度が一番印象に残っているなんて、すごいですよね。

そこからずっと関係が続いていて、お互いが尊敬し合っていて、すごくいい関係だと思いました。

それに、清瀬と篠ちゃんの関係もよかった。

天音に言わせれば、そういう友達がいるのも、全て運のおかげなのかな。

私は運だけの問題じゃないと思うんだけどなぁ。

家族は選べないけれど、いい友達を見つけていい関係を築くのは、運だけの問題じゃないと思うんですが…。

家族との関係が悪いと、いい友達関係を築きにくいというのはあるかもしれないですけどね。

 

最後に松木の意識が戻って、清瀬との仲も復活してよかったです。

2人の未来が「よい日であり続けますように」。






まとめ

これまでに読んだ寺地作品と同じように、この作品もいろいろなことを考えさせられました。

他人のこともさまざまな出来事も、一つの面だけからではなくて、いろんなことを想像していろんな面から捉えられるようになりたいですね。

今後も寺地はるなさんの作品は追い続けていきたいです!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!



青山美智子さんの
月の立つ林で」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

青山美智子さんの作品をいくつか読んできて、どれもすごく好きな作品ばかりなので、こちらは購入することにしました!


こんな人にオススメ

  • 心温まるヒューマンドラマが好きな人
  • 前向きな気持ちになりたい人
  • 月や月にまつわる話が好きな人
  • 連作短編集が好きな人
  • 青山美智子さんのファンの人

「月の立つ林で」あらすじ


似ているようでまったく違う、
新しい一日を懸命に生きるあなたへ。

最後に仕掛けられた驚きの事実と
読後に気づく見えない繋がりが胸を打つ、
『木曜日にはココアを』『お探し物は図書室まで』
『赤と青とエスキース』の青山美智子、最高傑作。

長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。

つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。
月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく――。

出版社より引用

この本の特徴やテーマ

ポッドキャスト『ツキない話』を聴いてる人々の話

あらすじに書かれているように、この物語では性別も年齢も異なる5人が主人公となっています。

その5人に共通しているのは、「ツキない話」というポッドキャストを聴いているという点です。

そのポッドキャストはタケトリ・オキナという、顔も年齢も職業も明かされていない男性が配信しており、

毎朝7時に10分間「月」についての豆知識や想いを語り続けるという内容のものです。

主人公の5人はそれぞれの想いを持って、「ツキない話」を聴いています。

「月」に関する知識が深い!

タケトリ・オキナがポッドキャストで語ってくれる「月」に関する知識は、一般的に知られているようなものもありますが、へぇーそうなんだ!と思うような深い知識もありました。

二章の名前が「レゴリス」なのですが、この言葉、初めて知りました。

月はレゴリスという細かい砂に一面覆われていて、それによって月は地球から見ても縁まで明るく見えるのだそうです。

その他にもたくさん月にまつわる話を知ることができて、これから月を見る時はもっとじっくり眺めたいな、って思いました。

また、タケトリ・オキナは、「新月」にとりわけ思い入れがあるのかな、という印象がありました。

登場人物の「繋がり」

青山美智子さんの連作短編集の特徴として、各章の登場人物がゆるく繋がっている、というものがあるのですが、この作品にもその特徴が当てはまります。

その繋がりを予想しながら読むという楽しみ方もありますよね。

一章から五章までの登場人物がどう繋がっているのか、また「最後に仕掛けられた驚きの事実」とは何なのかーー。

ぜひ読んで確かめてみて下さい。

心に残ったフレーズ

青山美智子さんの作品は、心に残るフレーズが本当に多いです。


特に印象的だったフレーズを紹介します!

「悩んでるときって、自分を見失ったりするじゃない。私がいるよっていうのは、あなたがいるよって伝えるのと同じことだと思うの。彼女を想ってる私の存在が、彼女の存在の証しになるんじゃないかなって」

p52 樋口さんの言葉

自分を見失ってしまう時って、自暴自棄になって、もう一人にしてよ!みたいな気持ちになってしまうこともありますが、誰か親しい人がそばにいてくれたら、それは絶対嬉しいし、心強いですよね。

そんな人がいたら、幸せですね。


「月って、願いよりも祈りがふさわしいと思うんです。願いは自分でなんとかしようって強く思って行動できるようなことで、だけど祈りは、なすすべのないことにただ静かに想いを込めることなんじゃないかな」

p105 タケトリ・オキナの言葉

「新月に願い事をすると叶いやすい」と太古の昔から信じられぬていることについて、タケトリ・オキナが述べているところです。

願いと祈り、似ているようで似ていないのかもしれません。

願いの方が叶いやすいイメージはありますよね。


「あたりまえのように与えられ続けている優しさや愛情は、よっぽど気をつけてないと無味無臭だと思うようになってしまうものなのよ。(中略)それは本当の孤独よりもずっと寂しいことかもしれない」

p238 リリカさんの言葉

すぐ近くにある幸せを見逃したらダメ、ということですよね。

いつも一緒にいる人や親しい人の存在はつい当たり前のように感じてしまうけど、その当たり前を大切にしないといけませんね。


感想

「月」をテーマにして、こんな素敵な物語を書ける青山美智子さん、本当にすごいなぁと思いました。

月からこんなに世界が広がる話が書けるのがすごい。

皆既日食とか皆既月食のようなめったにないイベントにはさすがに注目するし、普段何気なく月を見ることはあるけど、そんなに月についていろいろ考えたこともなかったので、勉強にもなりました。

大昔の人にとっては月ってすごいエンタメだったんだろうな」というセリフが出てきたのですが、ほんとそうですよね。

奈良時代や平安時代の昔の俳句や和歌などにも「月」を詠んだものって、けっこうありますよね。

毎日姿が変わる月を見て、きっと不思議に思っていたんだろうな。

電気などがなかった時代には、今よりももっと明るく見えていたのでしょうね。


 

物語の内容はというと、またまた安定の青山美智子さんですよね(笑)

青山美智子さんの作品にハズレなし」といった声も耳にしますが、ほんとそれ、です。

登場人物が緩く繋がっていって、最後にちょっとした仕掛けがわかる、というのが青山さんお得意の展開ですが、読者はその展開の仕方を期待して読んでいるところがあると思います。

またその展開か…と思ったり、そんな上手いこと世の中繋がってるわけないよ…と思う方も中にはいるかもしれませんが…。

私はこの展開が大好きなので、今後も青山美智子さんの作品はずっと読んでいきたいです。

この作品も一章に出てきた人が二章に出てきて、という風に進んでいくのですが、その繋がりを楽しみつつ、最後に仕掛けられた事実をぜひ知っていただきたいと思います。

 


どの章も感動したし、多くの登場人物に共感もしましたが、特に好きなのは三章と四章です。

親と子の物語には弱いですね〜。

特に三章の素直になれないお父さん、こんなお父さん、世の中にたくさんいそうだなぁ、って(笑)

お父さんだけじゃなくて、お母さんでも子供でも、こういう素直になれない感じはありますよね。

親子でもやっぱり口に出して想いは伝えた方がいいな、と改めて思いました。


この物語もそうですが、青山美智子さんの作品を読むと、みんないろんな悩みや苦労があって、みんな自分なりに頑張って生きてるんだなぁ、と感じます。

登場人物、ほとんどの人に不思議と共感できるんですよね。

みんな誰かに支えられていて、もしかしたら自分も知らない誰かのことを支えているかもしれない、そんな人と人との繋がりが青山美智子さんの作品のテーマなのかな、と思います。


最後に、タイトルにもなっている「月が立つ」という表現、すごく素敵だなと思いました。

「ついたち」の語源にもなっている表現ですが、この言葉の響きと、装丁の美しさ、物語の素晴らしさ全て、大満足の作品で、購入して大正解でした!

ぜひ、皆さんも青山ワールドに触れてみて下さい。


著者紹介

1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。続編『月曜日の抹茶カフェ』が第1回けんご大賞、『猫のお告げは樹の下で』が第13回天竜文学賞を受賞。(いずれも宝島社)『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が2021年本屋大賞2位。『赤と青とエスキース』(PHP研究所)が2022年本屋大賞2位。他の著書に『鎌倉うずまき案内所』『ただいま神様当番』(ともに宝島社)、『マイ・プレゼント』(U-kuとの共著・PHP研究所)など。


出版社より引用



まとめ

青山美智子さんの「月が立つ林で」についてまとめました。

いつも心温まる物語を届けてくれる青山さん、今後の作品もずっと追いかけていきたいです。

皆さんもぜひ読んでみて下さいね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

こんにちは!

薬丸岳さんの新刊「罪の境界」について詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

めったに単行本を買うことはないのですが、大好きな作家さんの新刊ということで、予約して買いました!

ただ…サイン本がけっこう出回ってるので、サイン本欲しかった…(涙) 


こんな人にオススメ

・社会派ミステリーが好きな人

・重めのミステリーが好きな人

・薬丸岳さんのファンの人 


「罪の境界」あらすじ

無差別通り魔事件の加害者と被害者。
決して交わるはずのなかった人生が交錯した時、慟哭の真実が明らかになる感動長編ミステリー。

「約束は守った……伝えてほしい……」
それが、無差別通り魔事件の被害者となった飯山晃弘の最期の言葉だった。
自らも重症を負った明香里だったが、身代わりとなって死んでしまった飯山の言葉を伝えるために、彼の人生を辿り始める。
この言葉は誰に向けたものだったのか、約束とは何なのか。

出版社より引用


著者・編集担当者のコメント

著者のコメントはこちら!

今まで犯罪にまつわる作品をいくつも書いてきましたが、今回は初めて犯罪被害者自身を軸にした物語になります。
主人公の女性は見ず知らずの男が起こした通り魔事件の被害に遭います。
理不尽な犯罪によって幸せな生活を壊され、苦しみと絶望に突き落とされながらも、必死に再生しようとする人間の強さを描きたいと思います。

徳島新聞社のインタビューより引用

編集担当者のコメントはこちら!

加害者と被害者。犯罪のその先にある彼らの人生。
犯罪をめぐるたくさんのミステリーを書いてきた薬丸岳さん。
今作は、犯罪そのものではなく、ニュースなどでは決して報道されない、犯罪が起きた後の物語です。
加害者や被害者、そしてその家族は、どう生きていくかが描かれています。
「人を絶望に叩き落とすのは人ですが、人を絶望から救うのも人」。
執筆前の打ち合わせの際に、著者が発した言葉です。
彼らの人生に寄り添いながら、その希望を一緒に探して頂けたら嬉しいです。

出版社より引用


この本のテーマ

「被害者の願い」と「加害者の望み」

この物語の主軸となっているのは、通り魔事件の被害者である浜村明香里ですが、加害者である小野寺圭一についても、彼に興味を持った溝口省吾という記者によって、生い立ちや事件を起こした背景などが、徐々に明らかになっていきます。

明香里は、自分の身代わりになって死んでしまった飯山晃弘の最期の言葉の意味を探しながら、必死に前を向いて生きていこうとします。

また、記者の省吾は、自分自身の生い立ちが加害者のものと似ていることもあり、加害者が何を望んで事件を起こしたのか、その背景にあるものとは何なのかを追求していきます。

明香里やその家族・恋人の視点から語られるパートと、圭一と省吾の視点から語られるパートが交互に繰り返されていく中で、真実がだんだん明らかになっていきます。


被害者の苦悩

明香里は事件によって生死をさまよい、身体にも心にも深い傷を負ってしまいます。

治療とリハビリを続けてなんとか日常生活を送れるようにはなりましたが、もちろんすぐに身体も心も元気になるわけはありません。

自暴自棄になってしまったり、心配してくれている家族や恋人ともそれまでと同じように接することができなくなったり、PTSDに悩まされたりと、たくさん苦悩する場面が描かれています。

このようなひどい事件に巻き込まれたら、とてもじゃないけど、普通の精神状態ではいられないのだろうということが伝わってきます。

加害者の不満

ネタバレになるので、あまり詳しくは書けませんが、加害者は社会に対する不満、親への不満を強く持っています。

底辺でしか生きられない宿命で、どんなにあがいても死ぬまでそこから這い上がれないだろうという絶望感を抱えています。

加害者の圭一の生い立ちが壮絶なものであり、事件に深く関わっていることが描かれています。


心に残ったフレーズ 

心に残ったフレーズを2つ紹介します!

たとえ一時でも、たとえひとりでも、自分の人生の中で優しくしてくれた人がいれば、その記憶がわずかでも残っていれば、自分や他者を傷つけるのを思い留まれるのではないかと願っている。

p310 明香里の言葉

このような趣旨のセリフを他の本でも聞いたことがありますが、これは本当にそうですよね。

家族でも友達でも、近所の人でも、誰かひとりでも優しく接してくれて、自分の味方がいてくれるということは、本当に心強いです。


「人生には、絶対に覚えているべきことと、早く忘れてしまったほうがいいことがあると思うんだ。」

p418 陣内の言葉

明香里みたいなひどい事件の被害者に対して、軽々しく「忘れた方がいい」とは言えませんが、負の感情が出てくるものは忘れたり手放した方がいいと聞きますよね。

なかなか難しいことではありますが…。

最後の方に、たくさん心に残る言葉が出てきますが、ネタバレになると思うので、やめておきます…。


感想(ネタバレなし)

少し前に、この作品の前に出された「刑事弁護人」を読んで、やっぱり薬丸岳さん好きだわーと思ったばかりだったのですが、この作品の方がさらに好きかもしれません。

薬丸さんの作品には、被害者の家族からの視点で書かれた作品はありますが、被害者自身を軸とした作品は意外にも初めてということですね。

被害者の明香里の苦しみが伝わってきて、辛かったですね…。

こんなひどい事件に巻き込まれた被害者の苦しみや怒りは、私などが想像できるものではないですが、この物語の明香里のようになってしまっても当然だろうな、と思いました。

ひどいPTSDに悩まされて、一生その苦しみから抜け出せないこともあるのだろうな、と。

この物語では、明香里には支えてくれる家族も恋人もいて、自分の身代わりになって死んでしまった晃弘から受け取った言葉の意味を探すという目的もあって、なんとか前を向いていこうという展開になったけど、実際にはそういうケースばかりではないのだろう、とも思います。

明香里は強かったですね。

自分の身代わりとしてしまった晃弘への償いの心が、彼女を突き動かしたのでしょうね。

晃弘の残した言葉の意味がわかって、誰に向けて言った言葉だったのかわかって、本当によかったと思います。

薬丸さんの作品を読んでいると、加害者にもひどい生い立ちや背景があったりして、どうしても加害者側に同情してしまいそうになるのですが、何の関わりもない人に矛先を向けるなんて、誰がどう考えても許されることではないですよね。

最近あった某事件でも、加害者の生い立ちに同情して、加害者を崇拝するような動きが見られたということがありましたよね。

どんなに生い立ちや境遇がひどいものであっても、それに同情することと、その怒りを人に向けることとは、きっちり切り離して考えないといけないと思います。

「罪の境界」というタイトルだけを見ると、どういうことを意味しているのか、あまり想像がつかなかったのですが、読み終えて「なるほど、そういう意味だったのか…」と、その言葉の重さがずしーんとくるものがありました。

タイトルが秀逸です。

薬丸さんは常に「性善説」に立っている、というようなレビューを読んだことがあるのですが、私はきっとそうだから薬丸作品が好きなのかなぁって思うんですよね。

極悪人が出てきたり胸糞悪くなるようなミステリーも嫌いじゃないけど、薬丸作品には「救い」や「赦し」があって、重い話ではあるけれど、読後感は悪くないというか…。

薬丸さんも「自分がこうなったらいいなと思うことを書いている」みたいなことを確かおっしゃってた気がするので、どこか優しさを感じる作品が多いのかな、と思います。

「小説幻冬」12月号に、「罪の境界」についての薬丸さんのインタビューが掲載されていて読んだのですが、この作品は、2018年の東海道新幹線無差別殺傷事件にインスパイアされたようです。

実際に起きた事件がきっかけとなって、作品を書くことが多いらしいのですが、こういうシリアスな犯罪ものの作品は、実は書きたくない、と薬丸さんが本音を漏らしています(笑)

いやいや、ずっと書き続けて下さい!薬丸さん!って、思わず叫びたくなりました。



著者紹介

1969年兵庫県明石市生まれ。駒澤大学高等学校卒業。2005年、『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。連続ドラマ化された刑事・夏目信人シリーズ、『友罪』『ガーディアン』『告解』など多数の作品を意欲的に発表している。


出版社より引用



感想(ネタバレあり)

ここからはネタバレありの感想を書いていきますので、まだ読んでいない方は注意してください!!

 

本の帯に、「加害者の望みは、自分を捨てた母親を探し出すこと」と、若干ネタバレ気味のことが書いてあるので、隠す必要はないかとも思ったのですが、一応ここまでは伏せておきました。

最初は、母親を探し出すというよりは、「母親を殺すのが目標だ」と圭一は言っていたのですが…。

どんなに虐待されたり、どんなに放っておかれた過去があっても、母親に会いたいという気持ちがあったんでしょうか。

殺してやりたいと思ったり、裁判で自分が責められる姿を見せてやりたいと思う気持ちの裏には、母親に会いたいという気持ちがあったのかな。

裁判が終わった後も、母親に面会に来てほしいと思っている所を見ると、そうなのかもしれないですね。

 

最近、毒親関連の本を読むことが多いのですが、毒親に育てられた子供はあまり親に会いたいとは思ってないケースが多いのかな、と思ってたんですよね。

ただ、それは母と娘の場合についてのことなので、母と息子の場合だと、また違うのかな…と思いました。

 

圭一の母親も本当に圭一を捨てようとしたのではないことが最後にわかりましたが、それは圭一には全く伝わらないですよね…。

いつか会いに行こうとしてたなんて今更知らされても、圭一もどうにもやり切れないでしょうね…。

やっぱりそういう点で圭一に同情してしまう部分は正直あります…。

圭一の母親はもっと面と向かって、圭一と向き合うべきだったと思います。

「一線を越えてしまった息子の願いを聞いてやるわけにはいかない。」と言って面会にも行かないなんて、あまりにも酷すぎると思いました。

ちゃんと向き合って罪を償うように話して、自分がしたことへの謝罪もするべきではないかと思いますね。

 

「この本のテーマ」にはネタバレになる可能性を考えて書かなかったのですが、「毒親の呪縛」「負の連鎖」「毒親への想い」みたいなものも、この作品のテーマの一つなのかな、と思いました。

記者の省吾もまた母親を殺したという過去があるわけですが、それでも永遠に母親の呪縛から逃れられずに苦しんでいます。

親から愛されたいという想いを持たない子供なんて、誰一人いないですもんね。

どんなにひどい母親でも愛されたかったんでしょう…。


 

「罪の境界」というタイトルについて、読み終えた時に、その言葉の意味が重くのしかかってくるようでした。

裁判での明香里のセリフにあるように、どんなにつらいことがあっても、決して「罪の境界」を越えてはいけないんだ、ということを薬丸さんは言いたかったのかな、と感じました。

 

明香里が前を向いてくれたことが救いでしたよね。

彼女は家族に愛されて育ってきたから、きっと子供のことも当然のように愛し、幸せな家庭を築いていくことだと思います。

辛い過去が蘇ることがあっても、支えてくれる人がいるから大丈夫だと思います。



まとめ

薬丸岳さんの新刊「罪の境界」についてまとめました。

薬丸さんのファンとして、また素晴らしい作品に出会えてよかったー、としみじみ感じました。

薬丸さんの作品をまだ読んだことのない方も、ぜひ手にとっていただけたら嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!





芦辺拓さんの「大鞠家殺人事件」についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

ミステリーランキングなどでたびたび見かけるので、気になりました。

こんな人にオススメ

  • 大阪の昔の商人文化などに興味がある人
  • 戦争を題材とした小説が好きな人
  • 本格ミステリーが好きな人
  • 古典ミステリーが好きな人

「大鞠家殺人事件」あらすじ

むし子
むし子

amazonの紹介文はこちら!

斬りつけられた血まみれの美女、
夜ごと舞いおどる赤頭の小鬼、
酒で溺死させられた死体―
怪異、謎解き、驚愕、これぞ本格推理。
大空襲前夜の商都・船場を舞台に描き、
正統派本格推理の歴史に
新たな頁を加える傑作長編ミステリ
〝物語作家″芦辺拓はここまで凄かった!

amazonより引用
むし子
むし子

東京創元社の紹介文はこちら!

*第75回日本推理作家協会賞【長編および連作短編集部門】受賞作
*第22回本格ミステリ大賞【小説部門】受賞作
大阪の商人文化の中心地として栄華を極めた船場。戦下の昭和18年、陸軍軍人の娘・中久世美禰子は婦人化粧品販売で富を築いた大鞠家の長男に嫁いだ。だが夫・多一郎は軍医として出征し、美禰子は新婚早々、一癖も二癖もある大鞠家の人々と同居することになる。やがて彼女は一族を襲う惨劇に巻き込まれ……大阪大空襲前夜に起きる怪異と驚愕の連続を描いた、正統派本格推理の歴史に新たな頁を加える傑作長編ミステリ! 第75回日本推理作家協会賞・第22回本格ミステリ大賞W受賞。

出版社より引用

この本の特徴やテーマ

大阪の昔の文化に触れられる!

この物語の舞台となっているのは大阪の「船場」という場所です。

私は一応大阪在住なので、その周辺には行ったことがありますが、「問屋さんの街」というイメージが強く、洋服とか繊維の問屋さんが多いイメージですね。

「船場センタービル」というのが有名で、東西1kmに渡って1~10号館まであり、約1000軒の店が並ぶ巨大問屋街があるのですが、この物語の中の「船場」はもう少し広い範囲のことを指しているのかなと思います。

「大毬家殺人事件」の中では、昔の「船場」の独特な雰囲気が丁寧に描写されており、またどういう土地なのかについて解説もあります。

また、「船場言葉」というものがあり、いわゆる大阪弁とは違った言葉にも触れられます。

むし子
むし子

「船場言葉」は公家言葉の影響を強く受けていて、
品の良い言い回しが多いみたいだよ

私は読んだことがないですが、谷崎潤一郎さんの作品には船場言葉が見られるようですね。

丁稚など商人文化の制度が分かる!

丁稚奉公(でっちぼうこう)という言葉自体は皆さん知ってるかと思いますが、その制度についてまでは詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。

丁稚というのは商家に住み込みで奉公する幼少の者のことを言い、江戸時代に最も多かったようです。

明治時代からは徐々に減っていきますが、大鞠家では昭和になってもこの風習が残っていました。

また、丁稚は丁稚→手代→番頭という順番で出世していきます。

現代で言うところの丁稚=平社員、手代=中間管理職、番頭=役員クラス、といった感じでしょうか。

戦争についての描写も詳しく描かれている!

第二次世界大戦の時の話がメインなので、戦争についても描かれています。

特に「大阪大空襲」についての描写はけっこう細かく描かれています。

ミステリーとして楽しく読めるのはもちろんですが、戦時中の大阪の様子を知るのにもいい資料なのではないかと思います。


感想(ネタバレあり)

1ページが上下段に分かれている本を読むのが初めてだったので、けっこう大変でした…(汗)

眼も疲れるし、なかなか進まないし…。

でも、面白かったので、思ったよりはサクサク読めてよかったです。

さすが、大阪出身の作家さんが書いただけあるな、と思いました。

もちろん著者が船場言葉を話すわけではないと思いますが、大阪出身の作家さんでなければ、ここまで書けなかったのではないかな、と思います。

独特な言い回しとか、臨場感のある会話とか、読んでいて落語を聞いているかのような感覚になりました。

「船場」という場所についても、昔はそんな感じの場所だったのか、というイメージが頭の中で映像化できるようでした。


 

ストーリーはと言うと、本格ミステリーという感じで、面白かったですね。

トリックもたぶん理解できたと思います。

ただ、口コミでも書いてる人が多いですが、犯人はけっこう予想つきやすいのかな、と。

それから、一部始終を推理するのが、最後に急に出てきた人っていうのが、ちょっとズッコケそうになったかな…。

最初に出てきた探偵の方が解決するのかと思って読んでたら、あんなことになっちゃったし…。

まぁでも、最後に伏線を全部回収してスッキリ終わったので、爽やかな読後感ではありました。

ただ、犯人の動機も理解はできたのですが、いきなり殺意を抱くほどまでになるかな?という疑問は少し残りました。


 

古典ミステリーが好きな人はさらに楽しめると思います。

古典ミステリーへのオマージュが出てきたり、いろんな作品名が出てきたりするので、詳しい人はきっと嬉しくなるはず。

あと、全体的に女性視点で描かれていて、女性の逞しさやパワフルさなどが感じられたのがよかったですね。

大阪の商人文化では、女性がけっこう強かったのかな?と想像したのですが、どうなんでしょうか。

最後に、個人的に表紙が好きですね(笑)

なんだかものすごい物語が始まりますよ、というおどろおどろしい感じがいいです。


著者紹介

1958年大阪府生まれ。同志社大学卒。86年「異類五種」で第2回幻想文学新人賞に佳作入選。90年『殺人喜劇の13人』で第1回鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。著作は『綺想宮殺人事件』『スチームオペラ』『奇譚を売る店』『時の審廷』『異次元の館の殺人』『金田一耕助VS明智小五郎 ふたたび』など多数。


出版社より引用


まとめ

芦辺拓さんの「大毬家殺人事件」についてまとめました。

かなり読み応えのある作品で、ミステリーとしても、戦時中の大阪の商人文化を知るという意味でも、充分楽しむことができました!


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