本のむし子

40代主婦の読書日記ブログです。読んだ本の感想などを気ままに書いていきます。

2022年11月


遠田潤子さんの「イオカステの揺籃ゆりかごについて
詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

遠田潤子さんは『ドライブインまほろば』と『オブリヴィオン』を読んだことがあり、もっといろいろな作品を読みたいと思っている作家さんです。

新刊もまた好きそうなテーマだったので、読みたいと思いました。

こんな人にオススメ

 

・嫁姑問題、母娘関係などのテーマに興味がある人

・毒親、親ガチャなどのテーマに興味がある人

・遠田潤子さんの作品が好きな人

『イオカステの揺籃』あらすじ


新進気鋭の建築家・青川英樹はバラが咲き誇る家で育った。美しい母・恭子と、仕事一筋の父・誠一。週末も父が不在がちだったり、妹の玲子と母との折り合いが悪かったりもするが、至って普通の家族だった。英樹の結婚生活も順調で、今は妻の美沙が妊娠している。満ち足りた生活はこれからも続くはず、だった。ところが……。
 「男の子……?」。生まれてくる子どもの性別を伝えた途端、母の表情が変わった。その日から始まった母の異常な干渉。この家は、何かがおかしいのかもしれない――。平和だと思っていた家庭の崩壊が始まる。

読売新聞オンラインより引用

あらすじを少し追加して紹介します!

ある日英樹は、改築依頼のあった和歌山県の古民家へ行った際に、その家にある水車を見て、子供の頃のある出来事を思い出します。

水車が回っているのを見て、観覧車に母親と乗ったことを思い出したのです。

そしてそれは、2歳の弟が亡くなってしまってからあまり日が経っていない時のことで、観覧車の中で母親とオレンジジュースで乾杯したという奇妙な風景だったのです。

観覧車に乗って、オレンジジュースで乾杯したという風景の持つ意味とはー。

弟が亡くなってしまった真実とはー。

 

主な登場人物

○青川英樹…新進気鋭の建築家。

○美沙…英樹の妻。老舗タイルメーカーで外構・外壁タイルの営業をしている。

○青川誠一…英樹の父。大手ゼネコンの技術者で、ダムマニアであり、蕎麦が好き。

○青川恭子…英樹の母。自宅で、大人気の「バラの教室」を開いており、「バラ夫人」と呼ばれている。

○青川玲子…英樹の妹。撮影小物をレンタルする会社で働いている。

○羽田完…玲子の交際相手。「鍵のSOS」という鍵屋さんを個人で経営している。

○青川和宏…英樹の弟。2歳で亡くなってしまった。

 

この本のテーマについて

母親と息子、母親と娘の関係

著者の遠田潤子さんは「母親との関係に疑問を持たない息子」を書きたかったそうで、そんな息子が結婚して嫁姑問題に直面したらどうなるだろう、というのが、この物語の出発点だったそうです。

また恭子は、英樹のことをかなり溺愛しているのに対し、娘の玲子にはネグレクトに近いような接し方をしています。

誰もが母親との関係で多かれ少なかれ、何かしらの問題を抱えており、この物語では、母親と息子母親と娘の両方の関係性から、母親の問題が描かれています。

嫁姑問題

ドラマで見るような、あからさまな嫌がらせや意地悪をして嫁を困らせるのだけが、嫁姑問題ではありません。

この物語でもそうですが、姑側は本当に良いことをしてると思ってやってることが、嫁側からすると嫌悪感しか感じない、ということが多々あります。

そして、夫からすると、母親が良くしてくれてるのに何で妻は分かってくれないんだ、と思ってしまうので、そこからどんどん問題が深くなっていくわけです。

本当に仲の良い姑と嫁も中にはいるのかもしれませんが、なかなか難しいですよね…。

英樹の事務所で働くシングルマザーの橋本という女性が、何とも鋭いことを言っています。

「男の人が嫁姑問題で『上手くいってるかどうか』なんて気になったときは、もうとっくに上手くいってないんです」と。

これ、なかなか鋭い指摘ですよね。

 

感想(ネタバレなし)

バラの匂いがプワーンと本から匂ってくるんじゃないかと思うくらい、バラの存在感がすごかったです。

様々な品種の色とりどりの庭一面のバラ、バラの蕾のお茶、バラのマカロン、ローズバター、その他いろいろ…。

物語の中に出てくる「中之島のバラ園」にも行ったことがあって、バラの美しさに圧倒されたのですが、今後バラを見たらきっとこの本を思い出して、ゾゾっとしてしまいそうです(笑)

 

英樹が妻の美沙に、母親ともっと気楽に打ち解けてもらえたらと思っていたり、母親の厚意を素直に受け入れたらいいのにと思っていたりするのですが、これはもう完全に不愉快でした…。

嫁と姑、そんな簡単に打ち解けられるわけないでしょ!と心の中でツッコミまくってました。

英樹は恭子に溺愛されて育ってきたゆえに、いろんなことに鈍感なところがあるのですが、読んでいてすごくイライラしました。

私も嫁の立場なので、美沙にかなり共感するところがありました。

男性って、自分が母親からされて嬉しいことは、妻も嬉しいって喜ぶとでも思ってるんでしょうか…。

美沙のお腹の子が男の子だと知った恭子は、ベビー用品を勝手に送りつけてきたり、ベビー用品の写真を山ほどLINEで送ってきたり、おかしな行動がどんどんエスカレートしていくのですが、もうその描写がエグいエグい…。

美沙が乗り移ったかのように、私も吐き気がして、お腹の辺りが気持ち悪くなってしまいました。

恭子のことが本当に気持ち悪くて、美沙に完全に同情しました。

私ももし将来姑の立場になることがあれば、いろいろ気をつけなければいけないと思いました。

 

ただ、物語が進むうちに、恭子がなぜそこまで美沙のお腹の子に執着するのかが明らかになり、また感想が変わってきました。

ネタバレなしの感想なので、詳しくは書けませんが、恭子も辛い人生を送ってきたのだな…と。

いろいろなことが明かされて、恭子に同情してしまう自分がいました。

恭子が自分の人生を思って下した決断にはビックリしましたが、そうすることでしか自分をもう守れなかったのかな…と。

 

少し前にブログ記事を書いた早見和真さんの『八月の母』という作品も、母から娘への負の連鎖がテーマでかなり衝撃を受けましたが、この作品も同じくらい衝撃的でした。

この本は、読売新聞オンラインで連載されていたようで、遠田潤子さんは「家族の問題を圧倒的な熱量で描き出す実力派作家」と紹介されていますが、本当にそこは納得です。

以前に読んだ2作品も、家族の問題がテーマだったのですが、筆力がすごいというか、とにかく一気に引き込まれます。

重苦しい話ですが、読みたいと思う気持ちが止まらなくなります。

明るいテーマの作品もあると思うので、いろいろ読んでいきたいです。

 

著者紹介

1966年、大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。2016年、文庫化された「雪の鉄樹」が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベストテン」第1位、2017年「オブリヴィオン」が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベストテン」第1位、同年「冬雷」が第1回未来屋小説大賞を受賞。

読売新聞オンラインより引用

感想(ネタバレあり!)

ここからは、ネタバレありの感想になるので、読みたくない方は、読まないで下さいね!

ここから、ネタバレ感想↓

 

美沙が倒れてからの恭子の様子が、さらにエグくて、本当に気持ち悪かったです…。

気が狂ってるのか、正気なのか、どちらかわからないような言動がめちゃくちゃ不気味でした…。

ただ、物語の中盤から、恭子も母親からひどい虐待を受けていたことがわかり、その虐待の描写が読んでいて辛くて仕方なかったです。

何をしても「いやらしい」と言われ、何をしても「あんたにできるわけない、失敗する」と言われ、恭子は母親の「予言」に怯えながら生きてきたのが、あまりにもかわいそうでした。

そして、2人目の子供ができた時の話、これがもう…狂ってるとしか思えなかったです。

「あんたの子供は必ず一人死ぬ」と予言され、それが現実となってしまった時の恭子の気持ちを思うと、絶望でしかなかっただろうな、と思いました。

和宏が亡くなってしまったのは、英樹に責任があり、英樹のことを庇って一生罪をかぶろうとしたのは、親としてその気持ちはわかりました。

そして和宏のようにさせないために、美沙のお腹の子を必死で守ろうとした気持ちはわからなくはないですが、それは美沙にとっては狂気としか伝わりませんよね。

全て恭子の母親が元凶なのに、誰にもそれが伝わってないのが気の毒だと思ってしまったけど、もし誰か一人でも恭子の凄まじい生い立ちを知ったとしたら、何か変わっていたのかな…とも考えました。

恭子が過去について誰にも語らなかった理由はわかりませんが、私だったら誰かに言わなければ生きていけないだろうな、と思いました。

せめて夫には理解してほしいですよね。

自分の生い立ちが恥ずかしくて言いたくなかったのか、ただ言えなかったのかはわかりませんが、誠一がもっと恭子のことを気にかけてあげてたら、ここまでひどいことにはならなかったかも、と思いました。

恭子の母親を見て異常なのはわかっていたのだから。

誠一も恭子と向き合って生きて行こうと思うのが遅すぎましたね。

家庭を全く顧みなかったり、若い女性と不倫をしたりで、どうしようもない夫でした。

恭子の母親は相当狂った人でしたが、その母親もまたきっと狂った人だったのかな。

 

親に言われたことが「予言」になって、それにとらわれてしまう、という恭子の気持ち、少しわかります。

親に否定されて育つと、自分が何か失敗すると「あーやっぱり親の言った通りだった…どうせ私なんて何やってもダメなんだ…」って思ってしまうんです。

親の希望と違うことをすると、罪悪感を感じたり、親に申し訳ないって気持ちが常に優先されたりするんですよね。

玲子みたいに反発できないと、一生親の呪縛から逃れられないと思います。

 

玲子の交際相手の完もまた生い立ちが複雑であるけれど、穏やかで包容力があって、この物語の唯一の癒し的な存在でした。

事故に遭って大変なことになってしまったけど、最後には誠一と玲子と3人で楽しそうにしている描写があり、ほっとしました。

母→娘への負の連鎖をなんとか玲子で止めてほしいです。

玲子と完の二人なら、幸せになってくれるのではないか…と願います。

あと、英樹の事務所の橋本さん、彼女はこの物語の中で唯一まともというか、正論を言ってくれるので、読んでいて安心できました。

 

怖かったり、イライラしたり、気持ち悪くなったり、涙が出たり、読んでいて感情の起伏が激しいて物語でしたが、またもや「遠田ワールド」にすっかり魅せられてしまいました。

まとめ

遠田潤子さんの「イオカステの揺籃」についてまとめました!

けっこう重めの作品なので、誰にでもおすすめできる感じの作品ではないですが、遠田潤子さんの描く世界が好きな方には、おすすめできるかと思います!

 


知念実希人さんの
機械仕掛けの太陽」についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

医師でもある知念実希人さんが、コロナ禍の医療現場について書かれたということで、読んでみたいと思いました。

発熱外来も担当していたことがあるそうなので、リアルなことが書かれているのではないかと思いました。

こんな人にオススメ

  • コロナ禍で医療従事者の方々がどんな状況にあったか、知りたい人
  • 新型コロナウイルスの変遷について知りたい人
  • 医療従事者の人
  • 知念実希人さんのファンの人

本書紹介

現役医師として新型コロナを目の当たりにしてきた人気作家が満を持して描く、コロナ禍の医療現場のリアル。

2020年初頭、マスクをして生活することを誰も想像できなかった――
これは未知のウイルスとの戦いに巻き込まれ、〝戦場〟に身を投じた3人の物語。

大学病院の勤務医で、呼吸器内科を専門とする椎名梓。彼女はシングルマザーとして、幼児を育てながら、高齢の母と同居していた。コロナ病棟の担当者として、最前線に立つことになる。

同じ病院の救急部に勤務する20代の女性看護師・硲瑠璃子は、結婚目前の彼氏と同棲中。独身であるがゆえに、コロナ病棟での勤務を命じられる。

そして、70代の開業医・長峰邦昭。町医者として、地元に密着した医療を提供し、息子にはそろそろ引退を考えるように勧められている。しかし、コロナ禍で思い掛けず、高齢で持病もある自身の感染を恐れながらも、現場に立つことを決意する。

あのとき医療の現場では何が起こっていたのか? 3人はそれぞれの立場に苦悩しながら、どのようにコロナ禍を生き抜くのか。

全人類が経験したあの未曾有の災厄の果てに見いだされる希望とは。自らも現役医師として現場に立ち続けたからこそ描き出せた感動の人間ドラマ。

※本作品の印税の一部は、新型コロナウイルスなどの感染症拡大防止への対応のため、日本赤十字社に寄付されます。

出版社より引用

 

この本の特徴

リアルな医療現場の様子がわかる!

コロナ病棟で治療の最前線にいる医師と看護師や、コロナウイルスに感染した患者と接する町医者の様子が、リアルに描かれています。

コロナ病棟で勤める医療従事者がどのような状況で治療に当たっていたのか、また、コロナに感染した患者の様子や治療について、細かく描かれています。

コロナ病棟の医療従事者は、少し前まで常に、マスクやアイシールドをはじめとするPPE(個人用防護具)を身につけて、治療に当たっていたという記述があります。

精神的な苦労はもちろんですが、身体的な苦労もかなりあったのではないでしょうか。

鬱病になりながらも、医療従事者としての使命感などから、なかなか辞めることのできない心境なども、リアルに描かれています。

 

新型コロナウイルスの変遷がわかる

コロナ禍になってもうすぐ3年になりますが、中国で新型コロナウイルスが流行り始めてから、これまでのことが、時系列を追って詳細に書かれています。

Wild strain(野生株)→α(アルファ株)→δ(デルタ株)→ο(オミクロン株)という風に、章も分かれて書かれています。

2020年の2月頃から、日本でも新型コロナウイルスのことが報道されることが増えたのはもちろん記憶していますが、それからどういうことがあったのか、意外と覚えていないこともありました。

物語の中でも日付が書かれているので、この時期は○株が流行っていたな…ということを思い出しながら読みました。

 

初期のコロナウイルスに感染すると、普通の肺炎とは違い、間質性肺炎になるということも、そんなに詳しく知りませんでした。

間質という部分に炎症が起こる肺炎らしいのですが、治癒後も呼吸機能が大きく落ちることが少なくないようです。

また、コロナウイルスだけでなく、SARSやMERSなどのことにも触れられていて、感染症についての歴史もおさらいできます。

サイトカインストームなどの医学用語も、理解しやすいようにわかりやすく書いてあります。

 

印象に残ったフレーズ

「いまは、このわけの分からないウイルスから、国民を可能な限り守るっていう義務だな。まあ、俺たちはいわば兵隊みたいなものだ。兵隊が敵から逃げるわけにはいかないだろ。」

p128 長峰の言葉


「世界中の医師、研究者、疫学者、政治家、それぞれが各々の立場でこの世界的な危機に向かっている。私たちは私たちにできることをしましょう。(中略)目の前にいる患者を全力でケアすること」

p138 椎名の言葉

「俺は最期の最期まで医者でいるって決めたんだ。そして、支えてくれた地域の人たちにできるだけの恩返しをしながら死んでいく。(中略)これ以上の奉公はないだろ。」

p212 数見の言葉

どれも医師の言葉ですが、自分が辛い状況にあっても、病気に苦しむ人たちのことを助けたいと思う姿勢に感動しました。

 

感想

この本は小説というよりは、ノンフィクションのドキュメンタリーと言ってもいいのではないでしょうか。

著者の知念さんが医師であり、発熱外来を担当していたこともあるということで、非常にリアルな内容でした。

医療従事者の方々が大変な思いをしてきていることは、もちろん理解はしているつもりだったのですが、どういうことが大変で、どういう苦労があったのか、具体的には理解できていなかったような気がします。

新型コロナウイルスと向き合う医者や看護師が、実の親や恋人と意見が合わなかったり、コロナウイルスに対する考えの温度差があったりして、3人の主人公たちが大変な思いをする場面が何度も出てきました。

そんな場面を読んで、医療従事者の方々は本当に辛い思いや悔しい思いをたくさんしてきたのではないかな、と思いました。

主人公たちの心境や境遇を思うと、何度も涙が出てくる場面がありました。

 

私自身も、実の親や義両親と考えが合わなかったり、コロナに対する考え方に温度差があったりして、ちょっとした喧嘩になったことを思い出しました。

コロナ禍で、近い人たちとの付き合いにもヒビが入ったり、揉め事になった人も多いと思います。

医療従事者の方々はなおさらそんなことが多かったのではないだろうか…と想像しました。

この本でも記述がありましたが、医療従事者の方々に対する偏見みたいなものがあったのも思い出しました。

今考えてみれば、本当にひどいことですよね。

コロナ禍で怖いのは、ウイルスではなく人だ、みたいなことを言われていましたよね。

コロナにかかったら、病状よりも、周りの人にどう思われるかがまず気になる、という人も多かったのではないでしょうか。

 

それから、個人的に1番思い出すのは、やはり子供たちに関連することです。

学校が一斉休校になったのは、なかなかの衝撃でした。

下の子供が年長さんで、卒園間際に流行り始めたので、卒園式に保護者が1人しか出席できなかったり、卒園遠足が近場にしか行けなくなったり、いろいろなことが制限されてしまいました。

なんとか小学校の入学式は行われましたが、すぐに休校になり、ちゃんと通えるようになるまでに、かなりの日数がかかりました。

なんだかもう遠い記憶になっているような気もしますが、いまだに給食中も前を向いて黙って食べていたり、運動会が短縮されたり、いろいろなことが制限されたままです。

子供たちにとって、多くの影響があったコロナ禍のことは、きっとずっと忘れられないと思います。

 

この本の中でも、シングルマザーの椎名梓と幼稚園児の息子さんのやり取りが何度も出てくるのですが、母親目線で読んでしまうと、もう切なかったですね…。

彼女は、コロナ病棟で働いているために、家にも帰らずホテル暮らしをしているのですが、彼女も息子さんもどれだけ寂しくて辛かったでしょう…。

子供たちとそんなに長い間離れ離れになるなんて、想像できません。

 

医療従事者の方々、今はどんな状況なんでしょうか…。

なかなかコロナの勢いも収まりませんが、少しは状況が良くなっているのでしょうか。

子供を産んでから、子供を連れて病院に行く機会が増え、何度か入院したこともありますが、看護師さんの優しさや温かさに触れることが何度もありました。

お医者さんより看護師さんと接する機会の方が多いですしね。

看護師さんの仕事ぶりを見て、私には看護師の仕事は絶対無理だーと、いつも思います。

コロナ禍でなくても大変な仕事なのに、コロナ禍になって、きっともっと大変になった方が多いのだと思います。

改めて、医療従事者の方々に敬意を表します。

 

著者紹介

1978年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。内科医。2004年から医師として勤務。11年、第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、12年、『誰がための刃 レゾンデートル』(のちに『レゾンデートル』と改題し文庫化)で作家デビュー。15年、『仮面病棟』が啓文堂書店文庫大賞を受賞。18年より『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』で本屋大賞にノミネート。他の主なシリーズ・作品に「天久鷹央」シリーズ、「神酒クリニック」シリーズ、『傷痕のメッセージ』『真夜中のマリオネット』など。

amazonより引用

まとめ

知念実希人さんの新刊「機械仕掛けの太陽」についてまとめました。

医師である知念実希人さんが、コロナ禍についてどのようなことを書かれたのか、興味がある方は、ぜひ読んでみてください。


伊藤調さんの「ミュゲ書房」についてまとめます!!



この本を読んだきっかけ

Twitterや読書メーターでよく見かけていて、多くの人が絶賛しているので、興味を持ちました。

読書メーターでは、「ミュゲ書房」の話題が広がり続け、「この本をこの方に読んでほしい」と指名するおすすめリレーキャンペーンも実施されていました。

こんな人にオススメ

  • 本ができるまでの過程に興味がある人
  • 出版社の仕事に興味がある人
  • 本屋さんが好きな人
  • 仕事につまづいている人

あらすじ

そこは、人も物語も再生する本屋さん

小説編集の仕事をビジネスと割り切れない、若手編集者の宮本章は、新人作家・広川蒼汰の作品を書籍化できず、責任を感じ退職する。ちょうどその頃、北海道で書店を経営していた祖父が亡くなり、章はその大正時代の洋館を改装した書店・ミュゲ書房をなりゆきで継ぐことに……。
失意の章は、本に関する膨大な知識を持つ高校生・永瀬桃ら、ミュゲ書房に集まる人々との出会いの中で、さらに彼のもとに持ち込まれた二つの書籍編集の仕事の中で、次第に本づくりの情熱を取り戻していく。そして彼が潰してしまった作家・広川蒼汰は――。

挫折を味わった編集者は書店主となり、そしてまた編集者として再起する。本に携わる人々と、彼らの想いを描いたお仕事エンターテインメント。

出版社より引用

この本のおすすめ

1冊の本ができあがり、販売されるまでの過程がわかる!!

主人公の宮本章が、元編集者の経歴を活かして、ミュゲ書房に関わりのある人たちと本を作る物語なのですが、その中で本を作り上げる過程がよくわかります。

本の装丁についてや、本と本屋を結ぶ配本方法について、また出版業界の裏側など、本が出版され販売されるまでのいろいろな過程が書かれています。

自動配本」という、書店に届ける本のラインナップや冊数を取次が書店の意向を反映せずに決める配本方法が普及した結果、いわゆる町の本屋さんが厳しい状況に追い込まれていることもわかります。


北海道に行った雰囲気が味わえる!!

この物語は北海道のA市が舞台になっており、その雰囲気が味わえる作品になっています。

北海道の食べ物や雪の描写などが出てくるので、北海道に行った気分になれますよ。


美味しそうな食べ物がいっぱい!!

「ミュゲ書房」では、大学生の池田という青年が、書房のキッチンで不定期にカフェをやっているのですが、池田の作るおやつや飲み物が美味しそうに描写されています。

また、絵本の中に出てくるお菓子を作ったりもするので、絵本とお菓子がリンクしているところも素敵だな、と思いました。

この本を読んでいると、きっとおやつを食べたくなりますよ〜(笑)


感想

読後、優しい気持ちになれる素敵な物語でした。

ストーリー展開も起伏があり、読んでいて穏やかな気持ちになる場面、ハラハラする場面、ワクワクする場面と、いろんな場面があり、飽きることなく読めました。

「ミュゲ書房」は、大正末期に建てられた洋館を改装した建物なんですが、その雰囲気がすごく素敵なのが伝わってくるし、そこに関わる人もいい人ばかりで、ミュゲ書房みたいな本屋さんがあったら行きたいなーって思いました。

本好き、本屋さん好きの人がまさに求めているようなところだと思います。

主人公の章の人柄がいいのは物語を通して伝わってきましたが、ミュゲ書房を始めたおじいちゃんおばあちゃんが、たぶん相当素敵なご夫婦だったんだろうな、と思いました。

おじいちゃんおばあちゃんの築いてきた人脈がなければ、章がミュゲ書房をやって行くことは無理だったんじゃないかな…。

ミュゲ書房の経営に関わっている人たちが、みんなそれぞれ個性的で魅力があり、応援したくなりました。

特に高校生の永瀬桃は、スーパー女子高生ですね。

本の知識が半端ないので、彼女に選書してほしいと思いました。

物語の中で実際にある本や絵本なども多く出てくるのですが、参考文献として巻末に一覧があるので、もし気になった本があれば読んでみるというのもいいかもしれません。

1冊の本を作り上げて売り出す苦労もわかって、やっぱり紙の本っていいよねー!!としみじみ思いました。

装丁に凝った本もけっこうありますが、それは電子書籍では味わえないですもんね。

思わずスリスリ触ってしまう手触りの本とか、絵本みたいに色使いが綺麗な本があったり、紙の本じゃないと味わえない本もありますよね。

これからも紙の本をどんどん手に取って、その1冊に関わった人たちの想いを感じながら読みたいと思いました。


著者紹介

北海道出身、東京在住。大学図書館などで業務に携わってきた。2019年5月より『ミュゲ書房』をWeb小説サイト「カクヨム」に投稿開始。本作でデビュー。本作には北海道の風景や自然、食べ物が多く登場する。


amazonより引用



まとめ

伊藤調さんの「ミュゲ書房」についてまとめましたが、本好きの間で静かに口コミが広がっている本ということで、それも納得の1冊でした!

新しい作家さんなので、今後もどのような作品を出してくれるのか、期待したいですね。

読んでくださり、ありがとうございました!!



こんにちは!

朝井リョウさんの「正欲」についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

Twitterなどで、よく見かける作家さんだったので、ずっと読みたいと思っていました。

どの本から読もうか悩みましたが、反響がすごそうな、この本を読むことに決めました。


こんな人にオススメ

  • 「多様性」という言葉について考えたい人

  • 自分の価値観や考えを広げたい人

  • 自分がマイノリティ側にいるかもしれないと思ってる人

  • 朝井リョウさんのファンの人


「正欲」紹介

あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

しかしその繋がりは、"多様性を尊重する時代"にとって、
ひどく不都合なものだった――。

「自分が想像できる"多様性"だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。

amazonより引用

 

著者の朝井リョウさんは、
以下のようにこの作品を紹介しています。

生き延びるために、本当に大切なものとは、何なのだろう。小説家としても一人の人間としても、明らかに大きなターニングポイントとなる作品です。

生きることと死ぬことが目の前に並んでいるとき、生きることを選ぶきっかけになり得るものをひとつでも多く見つけ出したくて、書きました。


あらすじ&登場人物紹介

この本の前半は、寺井啓喜、桐生夏月、神戸八重子、という3人の人物の視点で進みます。

・寺井啓喜…不登校になった小学生の息子を持つ検事。

・桐生夏月…地元のショッピングモールにある寝具店で働く。ある秘密を抱えている。

・神戸八重子…学園祭の実行委員を務める大学生。ある男性に恋している。

この3人は一見何の関わりもないように見えますが、啓喜の息子である泰希が、同じような不登校の友人とYouTubeで動画配信を始めるところから、少しずつ物語は繋がりを見せ始めます。

 

そして後半は、新たな2人の人物の視点が加わり、物語は進みます。

・佐々木佳道…夏月の中学の同級生であり、夏月と何らかの秘密を共有している。

・諸橋大也…八重子が思いを寄せる、ダンスサークル所属のイケメン大学生。

物語の冒頭で、ある事件のニュース記事が載っているのですが、その記事にこの2人の名前が出ているのです。

その事件と登場人物たちがどのように繋がっているのか…、徐々に見えてきます。


印象に残ったフレーズ

この本は、とにかく印象に残る場面やセリフが多かったのですが、その中でも特に印象に残ったフレーズをあげていきたいと思います。

多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると感じています。

p6 ある人物の手紙より引用

多様性を認めようと言っても、結局はマイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない、とこの人物は言っています。

正直、マイノリティの中に、そんなにいろんな人がいるということを理解できていなかったので、少しびっくりしました。

マイノリティの中のマイノリティの人たちは、多様性なんていう言葉、受け入れてないんだな、と気付きました。

まともって、不安なんだ。正解の中にいるって、怖いんだ。

p325 佳道の言葉

自分はまともである、多数派である、と思っていることもまた、怖いことなのかもしれません。

ずっと多数派側に居続けるということは、それもまた少数派である、ということなのかもしれません。

「はじめから選択肢奪われる辛さも、選択肢はあるのに選べない辛さも、どっちも別々の辛さだよ」

p343 八重子の言葉

みんな自分の欲望と折り合いをつけて生きてる、と八重子は言います。

それは、マジョリティでもマイノリティでも関係ないですよね。


感想

「読む前の自分には戻れないー」というキャッチコピーが載っていたのですが、これは本当にそうかもしれません。

自分の価値観とか視野がどれだけ狭くて偏ったものだったのか、そんなことを考えてしまう本でした。

サラッと感想が書ける本でないことは確かです。

個人的にはめちゃくちゃ面白かったですが、「面白かったから読んでみてー」って気軽におススメできる本でもないです。

前半部分がつまらない、という感想もチラホラ見かけたのですが、私は冒頭部分からけっこう引き込まれました。

最初からめちゃくちゃ攻めてる本だな!って興味がわきました。

冒頭に、ある人物の書いた手紙が載っているんですが、その内容がけっこう攻撃的なもので、この本はそういう感じの内容なんだろうな、って想像がつきました。

3人の登場人物の視点で物語が進むので、なかなか本質的なところが見えてこないんですが、冒頭に出てきた事件とどう繋がってくるのか予想しながら読むのも楽しかったです。

それから、視点が変わりながら物語が進んでいく形式や、視点が変わる前後で言葉をリンクさせているところが、私は好きでした。

 

「多様性」という言葉について、本当に考えさせられました。

「みんな違ってみんないい」みたいなことを主張される世の中って、実は相当生きにくい人がいるんじゃないでしょうか。

それって、マイノリティ側の人は、「あなたは人とは違うんだよ」って言われてるのと同じことなんじゃないかな…。

マジョリティとマイノリティを線引きしてしまってるんじゃないでしょうか。

それで、マジョリティ側の人間は勝手に安心してるところがあって、マイノリティ側の人のことを理解してますよ、って理解してる風に装っている、というか…。

誰がどういう「欲」を持っていても、その人にとってはそれが「正欲」なわけで、それを人にも理解してほしいと思うか、理解してもらう必要はないと思うかもそれぞれの自由で、マジョリティ側の人間がマイノリティ側のことを無理に理解する必要もないのかな…と思いました。

もし、マイノリティ側の人が理解してほしいって声をあげるのであれば、それはみんなが理解しようとする世の中であるべきだとは思いますが。

理解する、というよりは、受け入れる、と言った方がいいかな。

理解するのは無理でも受け入れることはできると思うので。

私もたぶんマジョリティ側の人間なので、何が正しいのかよくわからなくなってしまいました。

 

そして、マイノリティの中にもさらにマイノリティな人がたくさんいて、自分の知らない特殊な指向を持っている人がいることもわかりました。

そういう人から見れば、マイノリティの中のマジョリティの人とは、また全然立場が違うということも。

ただ、どんな「欲」を持つとしても、やっぱり犯罪に関わる可能性のあることはダメですね(って、当たり前ですが…。)

犯罪や人に迷惑をかけたりしなければ、人がどんな「欲」を持っていようが、ほんと自由ですよね。

それを理解してほしいと思った時に「繋がり」を求めてしまうのも当たり前だと思うし自由です。

「繋がり」を求めた時に絶望的な結果になってしまったのが、この本の救いがないところだと思うんですが、「繋がり」がもっと得られやすい世の中になればいいのかもしれません。

 

この本の登場人物は、性的指向がマイノリティで苦しんでいる人たちなんですが、性的指向に限らず、人それぞれいろんな悩みがあって苦しんでいます。

だから、最後の八重子の言葉には納得しました。

みんな自分のいろんな欲望に折り合いをつけて生きている、と。それは本当にそうですよね。

ただ、なぜ特殊な性的指向がそれほどマイノリティの人たちを苦しめるかと言うと、それは性欲が三代欲求の一つだから、というのもあるのではないかと思いました。

食欲と睡眠欲は、特殊な指向の人っているのか分かりませんが、あまり問題になりませんよね。

食欲と睡眠欲は、自分の中で完結しやすくて、他者に向かわないからでしょうか。

それに対し性欲は、自己完結が難しい部分もあるから、それがマイノリティだと大きな悩みや苦しみになるのかもしれない、と思いました。

 

なかなか考えがまとまらない感想になってしまいましたが、それほどいろんなことを考えさせられる本でした。

小学生の子供たちも、「多様性」や「SDGs」などについて学ぶ機会があるらしく、私もつい「今は多様性の時代だもんね」などと言ってしまうことがあるのですが、軽々しく言ってはダメなのかも、と思いました。

理解してる風なのが一番良くないのかも…と。

現代の子供や若者たちが、「多様性」という言葉のせいで、生きにくい時代にならなければいいな、と思いました。


著者紹介

 

1989年、岐阜県生まれ。小説家。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『何者』で第148回直木賞、2014年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他の小説作品に『チア男子!!』『星やどりの声』『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』『世にも奇妙な君物語』『ままならないから私とあなた』『何様』『死にがいを求めて生きているの』『どうしても生きてる』『発注いただきました!』『スター』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』がある。2021年、『正欲』で第34回柴田錬三郎賞受賞。


amazonより引用

気になる作品がたくさんあるので、少しずつ読んでいこうかと思います。


まとめ

今回紹介した「正欲」ですが、2023年に映画が公開される予定となっています。

主演が、稲垣吾郎さんと新垣結衣さんということで、どんな感じになるのか、楽しみです!

他にもどんな俳優さんがキャスティングされるのか、気になりますね。


「バカの壁」で有名な養老孟司さんの
子どもが心配 人として大事な三つの力」について、まとめます!


この本を読んだきっかけ

時々子育てに関する本も読むのですが、子育て本を検索していた時に見つけて、興味を持ちました。
 

こんな人にオススメ 

    • 子育てに関する本を読みたい人

    • 子供の教育に携わっている人

    • 著者な人の教育論に興味のある人

    • 養老孟司さんの本が好きな人

本の内容

子どもたちの遊び場が次々に消失し、体を使って外で遊ぶ子どもの姿を見なくなった。自殺する子どもも、後を絶たない。子どもは本来「自然」に近い存在だと論じる解剖学者が、都市化が進んだ現代の子どもを心配に思い、四人の識者と真摯に語り合う。

 医療少年院で非行少年の認知能力の低さに愕然とし、子どもの認知能力の向上に努めてきた宮口幸治氏。インターネットで「正しい育児法」を追いかける親を心配する、慶應義塾大学病院の小児科医、高橋孝雄氏。国産初の超電導MRIを開発し、子どもの脳の大規模研究を行なってきた小泉英明氏。生徒が自分で野菜を育て、机や椅子も作る学校、自由学園の高橋和也氏。子どもと本気で向き合ってきた経験から紡ぎ出される教育論。

 (目次より)
●自分に注意を向けると、行動変容が起こる
●少子化で問題なのは、人口が減ることではない
●「いま」の喜びを体感できず、幸福が先送りされてしまう
●何かに「夢中」になることと「依存」は違う
●中学受験の難点とは? 
●子どもは「人材」ではない Etc.

出版社より引用

各章の対談相手

この本は、養老孟司さんと4人の識者が対談するという形式を取っています。

各章の対談相手をご紹介します。

第一章:宮口幸治氏

立命館大学産業社会学部・大学院人間科学研究科教授。医学博士、児童精神科医、臨床心理士。

著者の「ケーキの切れない非行少年たち」がベストセラーとなる。

コグトレという認知機能が弱い人のためのトレーニングの考案者。

医療少年院で勤めていたこともあり、困っている子どもたちを支援している。

第二章:高橋孝雄氏

慶應義塾大学医学部小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。大脳皮質発生、高次脳機能発達、エピジェネティクスなどの研究を行なっている。

第三章:小泉英明氏

日立製作所名誉フェロー。世界初の微量元素の測定手法、国産初の超伝導MRI装置を開発。さらに、fMRI装置や自らが開発した近赤外光トポグラフィ法によって、脳科学と教育や、科学と倫理の問題にまで研究対象を広げてきた。

第四章:高橋和也氏

自由学園学園長。男子部長、副学園長を経て、2016年より現職。

本のサブタイトル「人として大事な三つの力」とは

この本の中での「人として大事な三つの力」とは、以下の3つの力のことです。

・学びのための根本的な能力「認知機能

・「共感する力

・「自分の頭で考える人になる

第一章の宮口氏は「認知機能」について、第二章の高橋氏と第三章の小泉氏は「共感する力」、第四章の高橋氏は「自分の頭で考える力」について、主に語られています。

各章の内容

対談の内容は様々な話題に及んでいるので、特に大事だと思った箇所をピックアップして、まとめたいと思います。

第1章「ケーキが切れない子ども」を変える教育とは

・凶悪事件を犯すような子供たちがどうして犯してしまったのか?→学校の勉強についていけなかったことが大きな原因の一つ

・認知機能が弱い子が放置されていることが多い

・認知機能に問題がある=ケーキを3等分した図が書けなかったり、図形の模写ができないというような「見る力」などに問題があること

・勉強についていけなくなる→学校がおもしろくなくなり、イライラした感情を抱え、友達ができにくい→非行に走ることが多い

・認知機能が弱い子や知的障害を持つ子どもを見逃さないように、子どもが困っていることに気付ける教師をどう育てるかが大きな課題

・認知機能が弱い子は、学校のテストを見ただけでは判断しづらいため、宮口さんは「コグトレ」を考案した

・コグトレは、認知機能を改善するためにも使用されている

・宮口さんは「褒める教育」には疑問を持っており、「褒め方」や褒めるタイミングが大事

・子どもの話を聞く時には、「ちゃんと聞いているよ」というサインを出す

・認知機能が弱いと感情をコントロールするのが難しい→「人の気持ちを言う」練習から始める

・「自分を知る」ことが大切であり、それは人のことを評価する力がつくにつれて、自分を客観的に評価できるようになる

・人が一番幸せを感じるのは、人の役に立つこと

・やる気を引き出すためには「見通し」「目的」「使命感」の三つの要素が必要

・親は「安心安全の土台」と「伴奏者」になることが求められる

第2章 日常の幸せを子どもに与えよ

・親には、本能的に「子どもの心を読み取る力」が備わっている

・少子化で問題なのは、人口が減ることではなくて、少子化に対する違和感や危機感を国民全体で共有することが大切

・インターネットの過剰利用にはどんな弊害があるのか→「無言化」「孤立化」「実体験の減少」の3点

・子どもにとって本当に意味で良い環境とは、何不自由のない暮らしではなく、適度なストレスがある状態である

・相手には相手の事情がある、と慮れる力が、自分自身を幸せにする

・さまざまなストレスがほどよく働くと、遺伝子の発現にリズム感が出てくる→「エピジェネティクス」と呼ばれるシステムが働く

・「正しい育児法」をネット検索に求めていると、「負け続ける育児」につながってしまう

・成熟した大人とは、共感する力のある人

・「自立」とは、最初は肉体的な自立、次が精神的な自立で、重要なのは「読解力

・教師は生徒一人一人の個性に向き合おうとするのではなく、必要なタイミングで「手入れ」をすればいい

・義務教育とは、子どもが学校に行きたいと望めば、それを権利として認め、教育機会を与える義務が親にある、ということ

第3章

・科学的に本当のことではないのに、多くの人が「脳科学からするとこうだ」と信じてこんでしまっているようなこと=「神経神話」がたくさんある

・生まれたばかりの赤ちゃんの脳には、すでに母語を認識する機能が備わっている

・2歳くらいまでのかなり小さい乳幼児の時期に限っては、褒めて育てるのがいい

正しく褒めて育てることは一生にわたって大切

・人間が意識や精神を獲得していく過程で、体がその基本になっていることは間違いないので、乳幼児期にあらゆる実体験をすることが大切

・何かに依存していることと、何かに夢中になることはまったく違う

・教育の最終目的は、「子どもたちが一生を通じてより良く生き、幸せになる」こと

第4章

・形式的に物事を押しつけられて育った子どもは、自分の頭で考えることができなくなる

・偏差値のような数値化される評価の場合、簡単に序列がつけられ、自己肯定感が低くなってしまうことがある

・自分のことは自分でする、自ら労働する「自労自治」が大切

・いまの日本には「共同体意識」がかなり欠けている

・さまざまなものづくりを経験することを通して「手と頭がつながる教育」をすることが重要

ここに書いたこと以外にもたくさんの話が出ているので、ぜひ本を読んでみてください。

また、箇条書きで書いたので、もっと詳しく知りたいという方も、読んでみてくださいね。

印象に残った言葉

子どもの時代が独立した人生ではなくなっている。(中略)子どもの時期がハッピーであれば、人生の一部がハッピーになる。

p94 養老孟司氏の言葉

子どもが「今」を幸せと感じることができず、幸せを先送りばかりしていると、自分がいつ幸せを享受できるのか実感できない、と養老氏は言います。

子ども時代に幸福を味わっておけば、そう簡単に自殺することもないのでは、とも言っています。

確かにそうかもしれない、と思いました。

幸せというのは物質的に満たされることより、いま置かれている状況に満たされ「自足」して生きることにある

p159 養老孟司氏の言葉

もう何もいらない、いまのままが幸せだ、と感じられる状態が楽しい、と養老氏は言っています。

なかなかそういう風に思えるようになるのは、難しい気もします…。

子どもは人材ではない、人間である

p214 高橋和也氏の言葉

子どもたちは人間であり、自由な主体として生きる一人格である、と高橋氏は言っています。

子ども一人一人が、それぞれかけがえのない人生を送るために、国全体で教育について考えていかなければいけないですね。

 
 

感想

ところどころ難しい用語や話題が出てくるところはありましたが、対談形式なので全体的には読みやすかったです。

その分野の第一人者の方たちが話されることは説得力があり、読んでいてなるほどと思うところも多かったです。

4人の識者の方に加えて、養老さんも自分の考えをかなり主張されているので、養老さんの考えも知ることができました。

子育てのための本というよりは、子供の教育に関する知識を深めたり、現代の子供の置かれている環境について考えるための本、という印象です。

子育てのためのハウツー本ではないです。

子育て中の人にはもちろんですが、教育関係に携わっている人、教育論に興味がある人などにもおすすめできるかと思います。

 

特に印象に残ったのは、第一章の宮口氏との対談です。

「ケーキの切れない非行少年たち」をずっと読みたいと思っていて、読んでいなかったので、近いうちに読もうかと思います。

宮口氏は、非行に走る原因は、学校の勉強についていけなくなること、だと言っていますが、家庭環境の問題が大きな原因なのかと思っていたので、それは少し意外でした。

学校のテストでは判断できない「認知機能」が大切で、それを見逃さないようにすることが重要だということがよくわかりました。

 

どの識者の方も言っているのは、情報化社会、脳化社会である現代の子どもたちに必要なのは、できるだけ自然と触れ合いながら、いろいろなことを実体験していくこと、なのかなと思いました。

人間と接するのも、ネットやゲームを通してではなくて、生身の人間と接していろいろな体験をする中で、あらゆる感情を経験することが重要なのだと思います。

今のコロナ禍でそういう機会がさらに奪われた可能性もあるのかな…と思ってしまいました。

 

そして、親としてできることについても考えさせられました。

ネットで「正しい子育て」を検索するばかりではダメですね。

つい何でもすぐにネットを検索しようとしてしまいます…。

「ゲーム依存」の話も出てきましたが、これは本当に難しい問題です。

今の子どもたちのほとんどがたぶんゲーム依存、スマホ依存、ネット依存なのではないでしょうか。

子供に限らず大人もほとんどの人がそうかもしれませんが…。

我が家でもゲームは時間制限などをして、なんとか依存しないように気を付けてはいますが、それでももっとやりたいと言われたり、時間が守れなかったりで、かなり難しいです。

土いじりや虫取りがいい、という話も出てきましたが、住んでいる環境によってはなかなか難しいですよね。

親としてはとにかく、できるだけ「安心安全の土台」と「伴奏者」になることが大切とのことで、できるだけ努力していきたいと思いました。

 

ちなみに、第二章のエピジェネティクスの話を読んで、以前に読んだ「スイッチ・オンの生き方」という本を思い出しました。

エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御する仕組みを研究する学問ですが、何のことかよくわからないですよね…(笑)

DNAには“スイッチ”があり、スイッチをオンにしたりオフにしたりすることで、じつは運命はいかようにでも変えられるのではないか、というような研究です。

もし、子どもの中に眠っている遺伝子があれば、それをスイッチオンしてあげることができるかもしれません。

もし興味のある方は読んでみてください。

著者紹介

 

1937年、鎌倉市生まれ。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。1995年、東京大学医学部教授を退官し、同大学名誉教授に。1989年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。

著書に『唯脳論』(青土社、ちくま学芸文庫)『バカの壁』(新潮新書)『読まない力』『本質を見抜くカ――環境・食料・エネルギー』(竹村公太郎との共著)(以上、PHP新書)『環境を知るとはどういうことか』(岸由二との共著、PHPサイエンス・ワールド新書)など多数。


出版社より引用


「バカの壁」は平成で最も売れた新書だそうです。

まとめ

養老孟司氏と4人に識者の方の考えや、現代の子どもたちを取り巻く環境の問題などについて、いろいろと勉強になることが多くありました。

ぜひ、そういった問題に興味の方は読んでみてください!

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