本のむし子

40代主婦の読書日記ブログです。読んだ本の感想などを気ままに書いていきます。

2022年10月

こんにちは!

今年の話題作、結城真一郎さんの
「#真相をお話しします」についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

話題作ということで、よく目にする機会があり、読みたいと思いました。

図書館で予約していましたが、3ヶ月くらい待ちました。


こんな人にオススメ 

    • どんでん返しもののミステリーが好きな人

    • ミステリー短編集が好きな人

    • 話題の本を読みたい人

    • 推理しながらミステリーを読みたい人


「#真相をお話しします」あらすじ

出版社によるあらすじ紹介

子供が四人しかいない島で、僕らは「YouTuber」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとたちがよそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)。日本の〈いま〉とミステリが禁断の融合! 緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。日本推理作家協会賞受賞作を含む、痺れる五篇。

出版社より引用


あらすじを詳しく紹介します!

惨者面談

家庭教師の営業として働いている東大生の片桐は、ある日、矢野悠という小学生の家に営業に行く。

約束の時間より少し早く着いてしまった片桐は、矢野家の前に生ゴミが散らばっているのを見つける。

ドアホンを鳴らしてもなかなか出なかったが、しばらくして母親が出た。

母親は片桐との約束を忘れている様子で、家の中を片付けたいからもう少し待ってて欲しいと言う。

20分以上待たされた後、家に入り話をするが、母親の手にはなぜかゴム手袋がはめてある。

片桐はいつも通り営業トークを飛ばすが、中学受験に興味がある親子のはずなのに、なぜか反応が鈍いようだった。

他にもおかしいことばかりで、片桐は何か怪しいと思う。

その違和感は一体何なのかー。


ヤリモク

「僕」には、大学生の娘がおり、大学生では買えないようなブランド物をたくさん持っていて、マッチングアプリでパパ活のようなことをしているのではないか、と妻から相談されている。

そんな「僕」は、マッチングアプリで女性と会うことをやめられないのだ。

今日は、娘と髪型も背格好もよく似たマナという女性と会っている。

2人はすぐにいい感じになって、僕はマナの家に行くことになった。

僕は、マナの家に入ってから、何か違和感のようなものを感じる。

マナは何者なのか、僕はどうなるのかー。


パンドラ

「僕」と妻は、何年間か子供を授からなかったが、3年ほど経ってようやく娘を授かった。

僕は、不妊で悩んだ経験から、妻の了承のもと、精子提供をすることにした。

それから15年が経ち、僕の精子提供によって生まれたという「娘」が会いたいと言ってきた。

その娘は、はっきりさせたいこと、があると言う。

一体それは何なのかー。


三角奸計

大学生の時の同級生である、桐山、茂木、宇治原の3人は、リモート飲み会を開いている。

桐山には彼女がいるが、その彼女には遠距離恋愛中の婚約者がいるため、不倫のような関係である。

また、宇治原は大阪に転勤になったことで、婚約中の彼女と遠距離恋愛になっているが、どうやら彼女が浮気をしているのではないか、と疑っている。

リモート飲み会の途中で、宇治原は桐山だけに対して、茂木の家に女がいると言い、その女が自分の婚約者であり茂木と浮気している、と言う。

さらに、今から茂木を殺しに行くから止めるな、と言い出す。

宇治原と茂木は、隣同士のマンションに住んでいるので、すぐに行ける距離である。

桐山はなんとか宇治原を止めようとするがー。


#拡散希望

渡辺珠穆朗瑪(チョモランマ)は、両親と匁島(もんめじま)に移住してきた。

島には小学生はチョモランマを含めて4人しかいない。

島に元から住んでいる凜子と、チョモランマと同じく移住してきた砂鉄と口紅(ルージュ)である。

凜子だけはスマホをもっており、人気のYouTuberについて教えてくれたり、一緒にYouTuberにならない?などと言っていた。

ある日、ピンクのモヒカン頭の男がチョモランマたちに接触してくるが、その男が何者かに殺されてしまう。

その日からチョモランマたちに対する島民の態度がなぜかよそよそしくなる。

島民だけでなく、凜子の態度も変わってしまったのだった。

凜子と島民の態度が一変した理由は何なのかー。


この本の特徴

題材が今風!

この本は、Z世代と呼ばれる10代〜20代前半の人にウケてるらしいのですが、それもそのはず、扱われている題材が今時のものばかりなんです。

マッチングアプリやパパ活、リモート飲み会、YouTube、激化する中学受験など、今の若者に親しみのあるものばかりが、テーマとなっています。

アラフォー主婦の私には、あまり馴染みのないものばかりです…。

オチが分かったと思ってからの一捻りがすごい!

少しネタバレ気味になってしまいますが、この本のすごい所は、オチが分かったと思ってから、さらにもう一捻りある所だと思います。

けっこう早い段階でオチが予想できてしまう話もあるんですが、それだけでは終わらないんですよ。

一つの話で、何度かどんでん返しが味わえるので、どんでん返しが好きな人はぜひ読んでみて下さい。


感想(ネタバレなし)

すごく話題になってて、よく見かけることがあったので読んでみましたが、話題になる理由が分かる気がしました。

普段あまり読書をしない人でも、サラッと読みやすく、それでいてびっくりさせられるような話ばかりなので、エンタメ性も高いですよね。

こういう本なら読みたい、と思う人も多そうです。

この本の特徴でも書きましたが、何回かひねりのある話ばかりで、すごいなぁと思いました。

5つの物語、どれも印象に残るものばかりで、面白かったです。

ただ、短編なのでサラッと種明かしされちゃったのが、個人的には少し物足りなく感じたので、著者の長編はどんな感じなのか、興味がわきました。


著者紹介

 

1991年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。2018年、『名もなき星の哀歌』で第5回新潮ミステリー大賞を受賞し、2019年に同作でデビュー。2020年に『プロジェクト・インソムニア』を刊行。同年、「小説新潮」掲載の短編小説「惨者面談」がアンソロジー『本格王2020』(講談社)に収録される。2021年には「#拡散希望」(「小説新潮」掲載)で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同年、3冊目の長編作品である『救国ゲーム』を刊行し、第22回本格ミステリ大賞の候補作に選出される。

出版社より引用



感想(ネタバレあり)

ここからは、ネタバレありの感想を書いていきますので、読みたくない方は読まないで下さい!

 

「惨者面談」…母親が偽物で犯人だということはかなり最初の方で予想できました。息子が問題の答えに「110」ばかり書く所で確信に変わりましたが、息子も偽物だということは、分かりませんでしたねー。

偽物の息子も、警察が来たら自分も捕まってしまうかもしれないのに、さすがにまずい状況だと思ったんでしょうか。

「ヤリモク」…僕がマッチングアプリ殺人事件の犯人だということは予想できたし、マナが何か企んでることもわかったので、最後どうなるかと思いながら読みました。

そんなに意外性はなかったかな…。

「パンドラ」…どこかでこういう話、読んだことがある気がするんですよね。

しかも、少し前に読んだ本も、精子提供が絡んだ話でした(笑)

血液型が思っていたのと違うって話もよく聞くし、ミステリーでも割と題材になってる感じもするので、この話もそんなに驚きはしなかったかな。

「三角奸計」…桐山の交際相手が宇治原の婚約者なのは予想できましたが、茂木の家にいるらしい女も、宇治原の婚約者なのか、と予想してしまいました(笑)

3人とも同じ1人の女と関係を持ってることが分かった!みたいな展開かな、と(笑)

さすがにそこまでひどい女じゃなかったか…。

でも、宇治原もそんな簡単に殺さなくてもいいのに。というか、そんな簡単に人を殺せるの怖すぎですよね。

「#拡散希望」…やっぱりこれが一番インパクトあったかな。

子供の名前がキラキラネーム過ぎて、まず衝撃!

親がコソコソしてるのはYouTuberなのかな、って予想はできました。

それにしても、3人の親が最悪すぎるし、こんなYouTuberが移住してきたら島の人も大迷惑ですよね。

面白かったけど、なんだかモヤモヤする話でした。

 

どれもめちゃくちゃどんでん返しかと言われるとそこまでではないし、騙されるまではいかなかったので、少し物足りなさはありますが…面白いのは面白いです。

簡単に人を殺し過ぎな点も少し気になりましたが…。

Twitterとか読書メーターなんかを見てると、少し期待し過ぎたかな…という感想もまあまあ見かけるので、普段ミステリーをたくさん読んでいる人と、そうでない人で、感想は分かれるのかもしれないですね。


まとめ

普段あまりミステリーを読まない人や、読書をしない人などには、かなりおすすめできる本だと思いました。

まだまだ若い作家さんなので、これからも期待できそうですね!


青山美智子さんの
「いつもの木曜日」についてまとめます!


この本を読んだきっかけ

「木曜日にはココアを」が好きなので、そのスピンオフ作品ということで、読みたいと思いました。


こんな人にオススメ

  • 「木曜日にはココアを」が好きな人
  • 心温まるヒューマンドラマが好きな人
  • 何となく日々の生活に疲れたり、虚しさを感じている人
  • 絵本のようなイラストやデザインが綺麗な本を読みたい人
  • 青山美智子さんのファンの人

「いつもの木曜日」あらすじ

2021年、2022年本屋大賞2位受賞作家・青山美智子さんが贈る『木曜日にはココアを』に繋がる温かな物語。累計26万部を突破した『木曜日にはココアを』。その12編の物語に登場したワタル、朝美、えな、泰子、理沙、美佐子、優、ラルフ、シンディ、アツコ、メアリー、そしてマコ。これは彼、彼女たちがあの日に出会う前の物語。そんな前日譚を田中達也さんが作ったミニチュアとともに読む、絵本のような小説です。カップにココアが注がれるその瞬間を味わってください。

出版社より引用

本の構成

「木曜日にはココアを」と同じように、この本も全12編からなっています。

あらすじの説明にある通り、「木曜日にはココアを」に登場した12人が各章の主人公で、

それプラス、冒頭にマーブル・カフェのマスターのひとりごとが載っています。

各章には物語に関係する「」の名前がそれぞれ付けられています。

例えば、第1章は「1杯目 ワタル(カフェ店員)Brown/tokyo」というような感じです。

1章と書かずに、1杯目としているのがまたいいですよね。

12人のミニチュアフィギュアの絵も描かれています。

最初の目次を見るだけでも、ワクワクしますよ。

この本の注目すべき点!

「木曜日にはココアを」の前の話が読める!

前日譚なので、当たり前ですが…(笑)

あまり詳しく説明するとネタバレになるのでやめておきますが、

「木曜日にはココアを」で新婚旅行に行っている理沙とひろゆきの話は、まだ婚約中の時の話です。

そして、理沙とひろゆきがシドニーへの新婚旅行中に出会う美佐子の話は、シドニーへの旅行の前日の話です。


それぞれの章にテーマカラーがあって、とにかくキレイ!

それぞれの章に「色」の名前が付けられているのは紹介しましたが、もちろんその色も物語に関わっています。

例えば、黄色の積み木が出てくる物語であったり、ピンク色の入浴剤が出てくる物語であったり、という風にです。

そして、その色を使ったイラストがページ全体に描かれています。

私は個人的に緑とオレンジが好きなので、その色のページは見ていてとても癒されました。

心に残ったフレーズ

青山美智子さんの本は、どれも心に沁みる言葉がたくさん散りばめられています。

この本でも、そんな言葉にたくさん出会いました。

いくつかご紹介します!

「楽しいこと」より「楽しみなこと」がたくさんあるほうが、人生は幸せなんじゃないかと思う。
(中略) まだ起きていないことを「楽しみだなぁ」って思える想像力が、未来を創っていくものだと思う。

p4 マスターの言葉

この言葉は「確かに!」と思いました。

楽しいと感じている時間はもちろん楽しくて幸せを感じるけど、楽しみだなぁってウキウキワクワクしている時間は、

それよりもっと幸せを感じる時間かもしれないですね。


柔軟であること。そして冷静であることだね。

p63 ラルフさんの言葉

これは私の人生の課題ですね(笑)

柔軟な考えが苦手で、しかも冷静でいられない時もしばしばあります…。

いい歳したおばさんなので、いい加減、柔軟さと冷静さを身に付けないとダメですよね…。


「わたし」と「体」は別の生き物だと思っている。
(中略)わたしの意志とは別のところで、体は好きなように生きている。

p74 アツコの言葉

この考え方は、新鮮でした。

お腹が空くのも、眠くなるのも、髪や爪が伸びるのも、体が勝手にそうしてるだけで、

「わたし」はその「体」の要求に応えている、という考えです。

なんだかものすごく面白い考えだと思いませんか?

体の要求にもう少し耳を傾けてみようかな〜って思いました。

 
 

他にももっとたくさんいい言葉が出てきますので、ぜひ読んでみて下さいね。


感想

大人向けの絵本のような感じで、本全体が本当に綺麗です。

一時期、パーソナルカラーに凝ったこともあり、いろんな色を見ることが好きなので、

この本のデザインはすごく素敵だな、と思いました。

色が心を癒してくれることもあり、好きな色のページは、見てるだけでうっとりしました。

ミニチュア写真家の田中達也さんのミニチュアも、相変わらず可愛らしいです。

物語も12章全てが印象的ですが、特に好きなのはラルフさんの物語です。

ラルフさんの柔軟さと冷静さが、本当に羨ましい(笑)

一番共感したのは、真面目だけど、柔軟性のない幼稚園教諭の泰子の話です。

自分のことを真面目というわけではありませんが…、ちょっと自分と似たタイプの人かも、と思いました。

青山美智子さんの本は、日常のふとした幸せみたいなものを感じられる物語ばかりで、

心に沁みる言葉もたくさんあり、読むたびに大好きになっていきます。



著者紹介

1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。出版社で雑誌編集者を経て執筆活動に入る。デビュー作『木曜日にはココアを』が第1回宮崎本大賞を受賞。続編『月曜日の抹茶カフェ』が第1回けんご大賞、『猫のお告げは樹の下で』が第13回天竜文学賞を受賞。(いずれも宝島社)『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が2021年本屋大賞2位。『赤と青とエスキース』(PHP研究所)が2022年本屋大賞2位。他の著書に『鎌倉うずまき案内所』『ただいま神様当番』(ともに宝島社)、『マイ・プレゼント』(U-kuとの共著・PHP研究所)など。


出版社より引用


ミニチュア写真家 田中達也さんのプロフィール


ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。国内外で、「MINIATURE LIFE展 田中達也 見立ての世界」を開催。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画、など。Instagramのフォロワーは360万人を超える(2022年7月現在)。著書に『MINIATURELIFE』シリーズ(水曜社)、『SMALL WONDERS』(Nippan Ips)、『MINIATURETRIP IN JAPAN』(小学館)、『くみたて』(福音館書店)など。

出版社より引用

まとめ

この本は図書館で借りましたが、手元にずっと置いておきたいなぁ、と思いました。

すっかり青山美智子さんのファンになってきました。

また、11/7には、「月の立つ林で」という新刊が発売されるそうです!!

そちらも絶対読みたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!!




第168回直木三十五賞候補作に選ばれた
雫井脩介さんの「クロコダイル・ティアーズ」について
詳しくまとめます!


この本を読んだきっかけ

雫井脩介さんの本は何冊か読んだことがあり、好きな作品が多いので、

新刊が出たら読もうと決めている作家さんです。

ちなみに一番好きなのは、「火の粉」です。

こんな人にオススメ



    • 人の心理が細かく描写されているサスペンスが好きな人

    • 家族に絡んだミステリーが好きな人

    • じわじわ怖いサスペンスが好きな人

    • 雫井脩介さんのファンの人

あらすじ

「息子を殺したのは、あの子よ」

「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」

家族小説、サスペンスの名手である雫井脩介による最新長編。

老舗の陶磁器店を営む熟年の貞彦・暁美夫婦は、近くに住む息子夫婦や孫と幸せに暮らしていた。ところが、息子が何者かによって殺害されてしまう。

犯人は、息子の妻・想代子の元交際相手。被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。

息子を失った暁美は悲しみに暮れていた。遺体と対面したときに、「嘘泣き」をしていた、という周囲の声が耳に届いたこともあり、想代子を疑う。貞彦は、孫・那由太を陶磁器店の跡継ぎにという願いもあり、母親である想代子を信じたいと願うが……。

犯人のたった一言で、家族の間には疑心暗鬼の闇が広がっていく。

出版社より引用

「家族というのは、『お互いに助け合って、仲睦まじく』といった一面が取りざたされることも多いですが、そうじゃない部分もあります。ある種の運命共同体であるからこそ、こうしてほしいという願望を押しつけあったり、求めあったりして、生きづらさも生んでしまう。だからこそ、ドラマが生まれる。家族が一枚岩になれないときに生ずる『心の行き違い』は、サスペンスにしかならない」(著者インタビューより)

出版社より引用

主な登場人物

○久野貞彦(くの・さだひこ)…古都・鎌倉近くで、大正時代から続く老舗陶磁器店〔土岐屋吉平〕を営む。孫の那由太を跡継ぎに、という願いを持っている。

〇久野暁美(あきみ)…貞彦の妻。「遺体と対面した想代子が嘘泣きしていた」という実姉からの指摘や、「殺害を想代子に依頼された」という被告人の証言に、心を削られる日々を過ごす。想代子に辛くあたることも。

〇久野康平(こうへい)…貞彦と暁美の息子。陶磁器店の跡継ぎとなるはずだったが、隈本に殺されてしまう。

○久野想代子(そよこ)…陶磁器店の跡継ぎとなるはずだった夫・康平と4年前に結婚。康平が亡くなった後、義父・貞彦の勧めもあり、貞彦・暁美と同居することに。

〇久野那由太(なゆた)…康平と想代子の一人息子。

〇塚田東子(つかだはるこ)…暁美の実姉。貞彦が所有する〔土岐屋吉平〕のビルの3階でキッチン雑貨店〔クックハル〕を営んでいる。かつては、航空会社のキャビンアテンダントを務め、そこから銀座の文壇バーのホステスに転身。その後、人気エッセイストとしても活躍した。

○塚田辰也(たつや)…東子の夫。元ギタリスト。東子との不倫関係を経て再婚。楽器店などを経営するが上手くいかず、今は、〔クックハル〕のお飾り店長として日々を過ごしている。

○隈本重邦(くまもと・しげくに)…想代子の元交際相手。酔って暴力を振るうことが続き、別れることになったが、想代子に未練がある。

タイトルの意味

「クロコダイル・ティアーズ」とは、どういう意味なのでしょうか。

crocodile tearsという英語の意味を調べてみました。

昔、東ローマ帝国で語られた「クロコダイルは獲物を引き寄せるのに涙を使う」とか「獲物を食べるときに泣く」といった逸話が出所で、

14世紀ごろから英語でも用いられるようになり、シェークスピアの作品にも何度か登場しているそうです。

実際にはクロコダイルは「泣く」ことはないので、『嘘泣き』という意味があるそうです。

想代子が康平が亡くなった時に流していた涙が、嘘泣き(=crocodile tears)ではないだろうか、と暁美や東子は疑うのです。

「物語の中心人物である想代子に関する言葉を、タイトルにしたいと思っていました」と、著者の雫井脩介さんは語っています。

果たして、想代子の涙は噓泣きだったのでしょうか。

感想(ネタバレなし)

さすが、雫井脩介さんらしく、じわじわヒタヒタと迫ってくる怖さがありました。

最後まで、どうなるのか分からず、ページをめくる手が止まりませんでした。

最初から最後まで疑心暗鬼な状態が続くので、少ししんどくもなりました…。

「火の粉」と「望み」を読んだことがあるのですが、その2作と共通している所が多く感じました。

その2作を読んだことがない方もいると思うので、多くは語れないですが、

何かきっかけがあって、家族の間に亀裂が生じ、それがどんどん悪い方向へ向かって行ってしまう、というような、家族の関係に焦点を当てた物語です。

家族が崩壊しそうになる過程が、登場人物の心理描写とともに、リアルに描かれています。

今回は「嫁姑問題」もテーマになっているのですが、その辺もリアルに感じました。

私は嫁側の人間であり、義両親ともかなり近い距離感で生活しているので、なおさら恐ろしく感じました。

嫁側の人間として、想代子に同情して読む方もいるかとは思いますが、

私には想代子がすごく不気味な存在に感じられて、姑の暁美側の気持ちになって、読んでいました。

どちら側に立って読んだ人が多いのか、気になります(笑)。

嫁と姑という立場でも違うだろうし、男性女性でも違うだろうし、年齢によっても違うと想像します。

想代子の何がそんなに不気味なのかと言われると、ハッキリとは言えないのですが、

想代子みたいなつかみどころのない人が苦手なせいかもしれません。

嫁として気を遣うのは当たり前だとは思うのですが、あまりに本心が見えないと、

暁美のように色々と疑いたくなる気持ちもよくわかります。

暁美も少し疑い過ぎだとは思いましたが、一度疑いの目で見てしまうと、もうそういう目でしか見れなくなってしまうのも分かります。

そういうのって、人間の悪い面だなぁと思います。

嫁と姑の問題も本当に難しいですよね。

将来もしお嫁さんが来ることがあれば、少しは感情を出してくれる人がいいなぁ、と思いました。

嫁と姑だけに関わらず、家族って誰よりも近い関係だから、一度不信感みたいなものが生まれると、より難しいですよね。

この本のようなことは、どこの家庭でもあり得ることなのかもしれないと思うと、恐ろしいです。

雫井さんは、このだんだん家族が壊れていく感じを描くのが、本当に上手い!と思いました。

著者紹介


1968年生まれ。愛知県出身。専修大学文学部卒業。2000年、第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』で作家デビュー。04年に『犯人に告ぐ』がベストセラーに。同年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位となり、第7回大藪春彦賞も受賞した。『火の粉』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『検察側の罪人』『仮面同窓会』『望み』『引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険』『引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還』など映像化された作品多数。近著に『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』『犯人に告ぐ3 紅の影』『霧をはらう』など。

出版社より引用


感想(ネタバレあり!)

ここからは、ネタバレありの感想になるので、読みたくない方は、読まないで下さいね!


ここから、ネタバレ感想↓

最後、個人的にはスッキリしなかったですねー(笑)。

結局、想代子はいい嫁だったってこと?!

うーん、残念!とか言ったらダメですかね……。

想代子の化けの皮が剥がれて…みたいな展開を期待してしまった私が悪かったです…。

私が疑り深いんでしょうか。

でも、想代子は本当に何も企んでなかったんでしょうか?

全部周りが勝手に思い込んでただけなのかな…。

那由太が暁美を階段で突き飛ばしたのも、全く悪気なかったんでしょうか?

想代子が普段から暁美のことを悪く言ってて、突き飛ばすように仕向けたんじゃないの?って思ってしまいましたよ。

魔性の女というか、こういう女性って確かにいそうです。

私はあまり出会ったことはないし、関わりたくないタイプの女性ですが。

男性はこういう女性に惹かれるんでしょうか。

とにかく、想代子の一人勝ちで終わりましたね。

すごいなー、強いなー、たくましいなー、したたかだなー。

私は間違っても想代子タイプではないですね(笑)

私がこの物語の中にいたら、きっと暁美のようになっていたでしょう…。

私のように、モヤモヤした気持ちで読み終わる人も多いと思うのですが、それも雫井さんの思惑通りなのかもしれませんね(笑)

まとめ

さすが雫井脩介さん、といった本で、面白かったです!

これからも新刊が出たら読みたいし、まだ読んでいない本も読みたいと思いました。

最後まで、お付き合いありがとうございました!!

こんにちは!

今、かなり話題となっている
夕木春央さんの「方舟」について
まとめます!


この本を読んだきっかけ

Twitterなどで、見かけない日はないほど話題になっていて、これは読まなきゃ!と思いました。

でも!ネット通販でも、書店でも、売り切れているところが多いんですよね。

うちは、主人が書店で残り一冊となっているのをゲットしてきてくれましたよ!

今は重版されて、売り切れも解消されてきているみたいですが、ここまで話題になるのは、かなりすごいですよね。

 

こんな人にオススメ

    • クローズドサークルもののミステリーが好きな人

    • 話題の本を読みたい人

    • あっと驚くような読書体験がしたい人


「方舟」あらすじ

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

出版社より引用


登場人物

○越野柊一(僕こと主人公)…システムエンジニア

○西村裕哉…アパレル系。彼の提案で、地下建築に行くことになった。

○野内さやか…ヨガ教室の受付

○高津花…事務員

○絲山隆平…ジムのインストラクター

○絲山麻衣…幼稚園の先生。隆平の妻。

○篠田翔太郎…柊一の3歳年上の従兄。物語の中で、探偵役を務める。

○矢崎幸太郎…電気工事士

○矢崎弘子…幸太郎の妻

○矢崎隼斗…高校一年生の息子

大学のサークル仲間であった6人プラス、柊一の従兄で、裕哉の父が所有する別荘に来ていたが、

その近くにある地下建築「方舟」に、裕哉の発案で行くことになった。

その近くにキノコ狩りに来たという矢崎家3人が加わり、計10人で「方舟」に閉じ込められることになる。


帯がすごすぎ!絶賛の嵐!

この衝撃は一生もの。」というフレーズが帯にありますが、

それと並んで、めちゃくちゃ豪華メンバーによる紹介があります。

有栖川有栖さん法月綸太郎さんといった大御所から、

今村昌弘さん阿津川辰海さんといった最近話題の作家さんなど、

総勢15人もの紹介文が載っています!

なかなかここまでの帯ってないですよねぇ。

ここまでハードル上げちゃったら、期待外れやったわー、っていう評価がたくさんあってもよさそうなもんですが、

今のところ、期待通り!とか、期待を超えてきた!みたいな意見の方がかなり多く見かける気がしますね。


印象に残った場面

麻衣が柊一に、誰が一人犠牲になって地下に残るかについて語る場面。

愛されてない人は、愛されてる人より生きてる価値が低いって言ってるようなものだと思うな

p196 麻衣の言葉

愛する誰かを残して死ぬ人と、誰にも愛されないで死ぬ人と、どっちが不幸かは、他人が決めていいことじゃないよね

p197 麻衣の言葉

この麻衣が語る場面は、うーんなるほどそうだよなー、と思いました。

家族がいないから、恋人がいないから、ってそんな理由で殺されていい命はないですよね。

デスゲームのような緊迫した状況で麻衣が語る言葉には、重みを感じました。


感想(ネタバレなし)

いやぁー、面白かったですよ!

文章もスラスラ読みやすく、最初から緊迫した場面が続くので、物語に引き込まれて、一気読みでした。

最後の衝撃については、けっこうな衝撃でしたよー!

私は普段あまりクローズドサークルものは読まないので、おぉーこう来たか!と思ったんですが、

クローズドサークルものに慣れてる方なんかから見ても、あまり見たことない展開なんでしょうか?

すごい!って言ってるのをよく見かけるので、全ての人になかなか衝撃なんでしょうか。

かなり面白いミステリーであることに違いはないと思います。

普段、ミステリーを読まない人でも、サクッと読みやすく、しかもかなり楽しめる本だと思います。


著者紹介

 

2019年、「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞。同年、改題した『絞首商會』でデビュー。
近著に『サーカスから来た執達吏』がある。

出版社より引用



感想(ネタバレあり!)

ここからは、ネタバレありの感想になるので、読みたくない方は、読まないで下さいね!

というか、この本って、ネタバレしないと、なかなか語れることがないんですよね(笑)

ここから、ネタバレ感想↓

エピローグ直前で、犯人が分かるんですが、それは「おぉー、犯人はこの人かー」くらいの衝撃でした。

一応犯人を予想しながら読みましたが、それは当たらなかったです(笑)

エピローグに入って、どういう衝撃が来るのか、どんな展開が待っているのか、めちゃくちゃドキドキしながら読みました。

どんな展開が待っているかも全く予想できず、というか、最後は予想せずに、もうさっさと衝撃を受けたい!みたいな気持ちでした。

せっかちなので、エピローグの12ページ、めちゃくちゃ駆け足で読んでしまいました(笑)

ゆっくり読み返して思ったことは、とにかく「犯人、怖っ!」ですね…。

生きることへの執着がすごいです。

最後、犯人の思惑通りにことが進んだわけですが、あの緊迫した状況での冷静さとか冷酷さが、恐ろしいですよね。

何人殺しても生き残るのは結局自分だけだからといって、そんな何人も殺せるもんかなぁ。

こんな状況に追い込まれたら、何人も殺せるくらいの心境になるんでしょうか。

元々3人も殺すつもりはなかったんだとしても、恐ろしいです。

途中で、犯人と主人公の恋愛パートがあって、ちょっといい感じの場面もあっただけに、最後はなおさら残酷に感じました。

主人公が最後犯人側に行ってたら…と思うと切ないですが、普通あの状況で犯人側には行かないですよね。

もし行ってたとして、犯人と共に生き残ったとしても、その後この人と付き合いたい、とか思わないですよね、たぶん。

犯人は無事に地上に出られたんでしょうか。

もし出られたとして、どういう状況説明をして、どう生きていくんでしょうか。

罪の意識とか感じないんでしょうか。

普通、一生引きずりますよね。

その辺り、この犯人が普段からどういう人物なのか分かる人物描写があまりなかったので、予想できませんが…。

最後の数行、生き残れると思ったところからの、絶望に突き落とされる場面、私も彼らと一緒に、一気に突き落とされました…。

とにかく、「犯人、怖っ!」と感じるミステリーでした。

ホラーでもありました。


まとめ

かなり話題となっている本なので、流行りに乗っかって読みましたが、読む価値はありました!

まだまだ新しい作家さんなので、今後の作品にも期待したいです。

こんにちは!

前作の「いけない」が話題となった
道尾秀介さんの「いけないⅡ」を
ネタバレありで紹介します!


この本を読んだきっかけ

今年、読書にハマってから、道尾秀介さんの本を7冊くらい読みました。

その中に「いけない」があって、なかなか他にはない仕掛けの本で、

楽しい読書体験になったので、続編も読みたいと思いました。

普段は図書館を利用していますが、この本はあまりに気になって購入しました!


こんな人にオススメ

    • 前作の「いけない」が好きな人

    • 道尾秀介さんのファンの人

    • 推理したり、謎解きするのが好きな人

    • 不気味な感じのミステリー・ホラーが好きな人

    • 楽しい読書体験がしたい人


「いけないⅡ」あらすじ

大きな話題を読んだ”体験型ミステリー”第2弾。
第一章「明神の滝に祈ってはいけない」
桃花はひとり明神の滝に向かっていた。一年前に忽然と姿を消した姉・緋里花のSNS裏アカウントを、昨晩見つけたためだ。失踪する直前の投稿を見た桃花には、あの日、大切にしていた「てりべあ先生」を連れて姉が明神の滝に願い事をしに行ったとしか思えない。手がかりを求めて向かった観瀑台で桃花が出合ったのは、滝の伝説を知る人物だった。

第二章「首なし男を助けてはいけない」
夏祭りの日、少年は二人の仲間を連れて大好きな伯父さんを訪ねる。今夜、親たちに内緒で行う肝試し、その言い出しっぺであるタニユウに「どっきり」を仕掛けるため、伯父さんに協力してもらうのだ。伯父さんは三十年近くも自室にひきこもって、奇妙な「首吊り人形」を作っている。その人形を借りて、タニユウの作り話に出てきたバケモノを出現させようというのだ。

第三章「その映像を調べてはいけない」
「昨夜……息子を殺しまして」。年老いた容疑者の自白によれば、息子の暴力に耐えかねて相手を刺し殺し、遺体を橋の上から川に流したという。だが、その遺体がどこにも見つからない。必死で捜索をつづける隈島刑事は、やがてある「決定的な映像」へとたどり着く。彼は先輩刑事とともに映像を分析しはじめ——しかし、それが刑事たちの運命を大きく変えていく。

そして、書き下ろしの終章「祈りの声を繋いではいけない」
――すべての謎がつながっていく。前作を凌ぐ、驚愕のラストが待つ!
各話の最終ページにしかけられたトリックも、いよいよ鮮やかです。

出版社より引用


出版社の担当編集者さんによる紹介

『いけないⅡ』は、文庫化されたばかりの前作『いけない』と同コンセプトで書かれた、まったく新たな物語です。
各章の最終ページに配された写真を見た瞬間に、物語が別の様相を呈するという“体験型ミステリー”スタイルを踏襲しつつ、今作では前作以上に章末の写真に意味を持たせたかった、と著者の道尾秀介さんは語ります。その言葉通り、今作に挿入された写真は、どれも見た瞬間に強烈な違和感を抱かせるものばかり。読者の想像と推理を掻き立てるための、より強力なトリガーになるでしょう。この写真、道尾さんが思い描いたイメージに近付けるため、道尾さん、カメラマン、編集者とで(時に被写体も兼ねながら)長い撮影時間をかけて入念に作り上げたものです。ご期待ください。
さて、『いけないⅡ』は『いけない』とはまったく別の物語ですが、前作の物語がなければ今回の物語も生まれなかったことを裏付ける、ある仕掛けが施されています。『いけない』をお読みになった方には、そこも楽しんでいただけると思います。

出版社より引用


感想

ネタバレを読みたくない人のために、先に感想を書きますね!

いやぁー、またまた面白かったですよ!!

前作の方が良かった!という声もチラホラ?聞こえてきたりしますが、

私は、今作の方が好きかな。

今作の方が、話がスッキリまとまってて、全体的に読みやすく感じました。

謎解きに関しても、第1章で、わからーん!!と思ったことの正解が、

次の第2章で書かれてたりするので、モヤモヤを引きずらずに済むのが、個人的には良かったです。

前作よりも少し親切設計になった印象でした。

モヤモヤを引きずりたいタイプの人は、少し物足りなく感じるかもしれません(笑)

前作に劣らず、不気味で不穏な雰囲気は相変わらずあって、

こういうミステリーを書かせたら、道尾さんって最高に上手いなぁと、しみじみ感じました。

何度か背筋がゾワゾワっとしましたよ。

本のカバーも怖いですし(笑)

それと、登場する地名がまた不気味ですよね。

よくこんなに色々な地名を思い浮かぶなぁ、と思います。

前作を読んで楽しめた人には、自信を持って、今作もオススメします!


ネタバレありのあらすじ&考察!!(見たくない人は見ないでね)

この本に関しては、考察が盛り上がると思うので(すでに盛り上がってる?)、

あらすじを紹介しながら、ネタバレありで、考察してみたいと思います。

第一章「明神の滝に祈ってはいけない」

○最初の写真…胸の前で両手を組んで祈っている女子高生の写真。

第1章にだけ、最後だけでなく、最初にも写真が載っています。

その最初の写真は、初めて見た時には何の違和感も感じません。

読み進めていくと、姉の緋里花が行方不明になっており、

避難小屋の管理人である大槻が殺したのか?と思わせる記述が多々あり、

最初の写真も緋里花の写真なのかな?と思って、読み進めます。

たぶん、ほとんどの読者も、そう思って読んでいくと思います。

そして第1章の最後で、桃花は大槻が小屋から離れた隙に、小屋の冷凍庫を調べようとします。

そしてその中に、女性の遺体があることを発見します。

ところが、大槻が戻ってきてしまい、桃花は慌てて冷凍庫の中に隠れます。

冷凍庫の扉が閉まってしまわないように、右手の中指を挟み込みますが、

大槻が扉を思いっきり閉めたため、爪がはがれてしまいます。

なんとか冷凍庫からは逃げ出しますが、観瀑台で大槻と向き合うことになり、

「何をしてるの?」と言われ、「姉が見つかるように祈っています」と、

手を組んで祈っているところの写真を撮られます。

大槻は、その写真を見れば、冷凍庫に隠れていたのが桃花だと分かると思ったのですが、

「爪がはがれた右手の中指」が写っておらず、首をかしげます。

そして最後、大槻が滝に身投げするところで、物語は終わります。

読者はこの時点で、冷凍庫の中の女性が姉の緋里花で、

桃花はなんとか逃げ切ったのかと思ってしまいますが…、

冷凍庫の遺体は、29年前に行方不明になった大槻の母親の遺体で、

緋里花は行方不明のまま見つかっていない、ということが、最後に明かされます。

○最後の写真…山小屋の入り口の写真。右に雪だるま、左に「干支だるま」がある。 

この最後の写真を見て、あれ?と気付くことがあります。

これまで説明したあらすじは、子年に起きたことだと、読者は思わされています。

ところが、写真に写った「干支だるま」は、ネズミではなく、「牛」なのです。

あれ、いつの間に1年進んでるの?と混乱するんですが、

実際には、大槻目線で描かれていたことは、子年ではなく、丑年の出来事だったのです。

桃花のパートは、子年なので、時系列がズレていることになります。

隈島刑事が捜索しているのは、緋里花ではなく、桃花だったということですね。

・疑問点

大槻はなぜ父親の罪を隠し続けていたのか?

自分がやったことではないのだから、警察に言ったらよかったのでは?と思いました。

自分の父親が殺人犯だ、とは言いたくなかったのでしょうか。


第二章「首なし男を助けてはいけない」

第2章のあらすじは、出版社のあらすじに少し書いてあるので、その続きから説明します。

タニユウを驚かせようとして、真たちは、作った「首なし男」の人形を木に吊るします。

しかし、伯父さんが運転ミスをして、首なし男を吊るした木に、車を激突させてしまいます。

その衝撃で、首なし男が木から外れて、川に流されていってしまいます。

伯父さんの家に戻ってから、真たちはタニユウとの待ち合わせ場所に向かいますが、

待ち合わせ時間を過ぎても、タニユウは現れません。

真は、近くを見て来ると言い、伯父さんが車をぶつけた木の辺りに着きます。

するとなんと、川に流されたはずの首なし男が、同じ場所にぶら下がっているのでした。

真は、伯父さんが轢いてしまったのは、首なし男ではなく、タニユウだったのではないか?と考えます。

真は再び伯父さんの家に行き、伯父さんに「川を流れてったの…人間だったの?」と聞きます。

すると伯父さんは、体を痙攣させながら「ごぉめんなさい」と言いました。

しかし、タニユウは実際には、美容室のマネキンを盗んで、警察に捕まっていただけで、

タニユウもマネキンを使って、真たちを驚かせようと企てていたのでした。

伯父さんがはねたのは、やはり首なし男で、昼間に川に流された首なし男を、伯父さんが夕方までの間に、川から拾い上げて元の木に戻したのでした。

真は伯父さんに誤解したことを謝ろうと、伯父さんの部屋に行きます。

○最後の写真…窓の柵に、少し濡れた伯父さんのつなぎがかかっており、その手前に、人形?が吊るされている

この写真は、全4章のうちで1番理解しやすいと思います。

吊るされているのは、人形ではなく、自殺した伯父さんです。

伯父さんは、中学生の時に、川で自分の父親のことを死なせてしまったことが原因で、それから引きこもりになったのです。

真に「川を流れていったのは人間だったのか」と聞かれて、その時のことだと思ってしまい、罪の意識から自殺してしまったのでした。


第三章「その映像を調べてはいけない」

千木孝憲は、息子の孝史から暴力を受けていたことから、息子を殺してしまい、死体を川に流したと言うが、いくら捜索しても遺体は見つからない。

隈島刑事は千木の自宅を訪ねた時に、物置のシャベルが変に綺麗なことが気になり調べると、

ごく最近水で洗われた形跡があることに気付き、遺体を埋めるのに使ったのではないかと、疑います。

また、千木の家の中でドライブレコーダーを見つけ、それに映った映像を調べることにします。

その結果、千木は森に遺体を捨てに行ったのではないか、ということがわかりますが、それ以上は何の手がかりも得られませんでした。

千木本人に森まで同行させますが、どの辺りを車で走ったか記憶が曖昧で覚えていない、と言います。

隈島はもう一度ドライブレコーダーを良く見ると、森にある木の枝先に咲いている白い花が映っているのを見つけます。

その花について、植物に詳しい教授に聞くと、野生のサザンカであると分かり、森のどこにあるかが分かれば、大きく進展するかと思われたが、

サザンカは森のあちこちに咲いている花でした。

千木夫妻は、息子のことを殺してしまった時のことを回想します。

息子を刺してしまったのは、実は妻の智恵子で、千木は自分が殺したことにしたのでした。

また、ドライブレコーダーの映像についても、森に向かったことが警察にバレるように、わざと仕向けたものなのです。

それでは、息子はどこに埋まっているのか?となりますが、

息子は一番好きだった花の下、一輪きりの花の下、に埋まっているようです。

○最後の写真…1997年益子町コスモス祭りの写真

息子が好きだった花は、コスモスだったのです。

コスモスってどこかに出てきたっけ?と分からなかったのですが、読み返してみると、千木家の居間の座卓にある一輪挿しにコスモスが咲いている、という描写がありました。

つまり、息子の遺体は、千木家の居間の下にある?という疑問を残して、最終章へ突入します。


終章「祈りの声を繋いではいけない」

○緋里花二十歳の誕生日の2日前(5/1)

隈島は、ある報告をするために、緋里花の両親と向き合っています。

その半年ほど前、彼女のスマホから電波が発せられたことが一度だけあり、彼女はまだ生きているのではないか、と思われたのです。

また、緋里花の両親は、桃花からの電話なら緋里花が出るかもしれない、という期待を持って、桃花の番号をそのまま引き継いだスマホを、家に置いています。

しかし、千木孝史の遺体を捜索していた作業の中で、緋里花の遺体と思われるものが、森で見つかったことを、隈島は報告しに来たのでした。

○5/1、別の場面

真と智恵子は、明神の滝で出会う。(面識はない)

真は伯父さんの自殺以来、声が出なくなってしまっています。

滝に身を投げるために来たのですが、智恵子が保険証を落としたのを見つけ、すんでのところで、自殺を思いとどまります。

○緋里花二十歳の誕生日の前日(5/2)

隈島は、森で見つかった遺体について千木智恵子に話を聞きに行きます。

隈島が帰った後、智恵子は息子を居間の床下に埋めた時のことを回想します。

息子の遺体を埋めようと、床下を調べると、緋里花が埋まっていたのでした。

千木夫妻は、緋里花の遺体がいつか掘り出されるように、森に埋めに行ったのでした。

緋里花のリュックサックに入っていたスマホは、孝史と彼女を結びつけるものが入っている可能性を考えて、千木夫妻が持っていました。

ある日隣県に行き、そのスマホの中身を見ていくと、孝史が緋里花と会っていた証拠が残っていました。(前述した、緋里花のスマホから一度電波が発せられた時の話です)

真は保険証を届けに千木家に向かうが、千木家で火事が起きているのを発見し、叫び声を上げて、近隣の人々に助けを求めたのです。

○緋里花二十歳の誕生日(5/3)

隈島は智恵子が入院する病院にお見舞いに行き、そこで真に出くわし、真が智恵子に届け物をしに来たことを聞きます。

○最後の写真…智恵子のベッドの床頭台に置いてあるスマホの写真。着信相手は「桃花」となっている。

最初に読んだ時は意味が分からなかったのですが、こういうことですね。

真が智恵子に届けにきたのは、智恵子が隠し持っていた緋里花のスマホであり、

緋里花の両親が、電話に出てくれることを期待して、二十歳の誕生日に桃花のスマホからかけた、ということです。

この着信を見て、隈島は、智恵子と緋里花との関係を調べ、時間の真相に辿り着くことになるでしょう。


まとめ

最終章で、全ての章のつながりと、事件の真相とが、明らかにされます。

初めて読んだ時に理解できなかったことも、読み返してみると理解できることが増え、自分なりにけっこう謎解きできたんじゃないか、と思っています。

前作よりは、分かりやすい設計になっていると感じました。

ただ、「前作の物語がなければ今回の物語も生まれなかったことを裏付ける、ある仕掛けが施されています。」と出版社の方が紹介していますが、それはどういうことなんでしょうか…。

前作に登場した隈島刑事の弟が、今作の隈島刑事だ、ということくらいしか、私には分からなかったのですが、前作の事件と何かもっと関わっている点があったのかな…。

分かる方、教えてくださーい!

滝に何か祈った登場人物が何人もいますが、願いが叶った人、叶わなかった人、明暗が分かれた結果になりましたね。

緋里花と桃花の両親が一番気の毒だな…とどうしても思わずにいられません。


著者紹介

 

1975年、東京都出身。2004年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞を受賞。2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞を受賞する。2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。『向日葵の咲かない夏』(新潮文庫版)はミリオンセラーに。独特の世界観で小説表現の可能性を追求し、ジャンルを超越した作品を次々に発表している。近著に『貘の檻』『満月の泥枕』『風神の手』『スケルトン・キー』『いけない』『カエルの小指』などの作品がある。

出版社より引用


最後に

道尾さんの頭の中ってどうなってるんだろう…って、

彼の本を読むたびに思うんですが、

まだまだ斬新なミステリーで、私たちを楽しませてもらいたいですね!

「いけない」シリーズは、どこまで続くんでしょうか。

少なくとも「いけないⅢ」は読みたいですね〜。

道尾秀介さん、期待しています!

最後に、考察等、間違いがありましたら、すみません…。

もしよろしければ、前作の「いけない」も読んでみてください!


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